中高生WEEKLY
佐世保市の女子児童殺害 授業で取り上げ
             『難しい問題だからこそ一緒に勉強』

          悲しみ/命の大切さ/感情表現/普通の子…
                                     中日新聞朝刊 2004.10.11 

 長崎県佐世保市の小学校で六年生の女子児童が同級生を殺害した事件をめぐり、各地の学校で、先生と児童が事件について考える授業をしている。事件の重さ、複雑さから「授業で触れないように」と指導している教育委員会もあるが、現場の教師からは「難しい問題だからこそ考えることが必要ではないか」という声が上がっている。(文化部・平岩勇司)

 「佐世保事件は背景が複雑なので、授業で取り上げないように」と管内の学校に通達した教育委員会もある。
 東海地方のある市教委は、小中学校の校長会で「事件に深入りして、誤解を招かないように」と伝えた。事務局は「先生の授業中の雑談でも、保護者から『問題発言だ』と苦情が来る時代。殺人という重いテーマにかかわるメリットはない」と“解説”する。

 こんな風潮に対し、埼玉県朝霞市朝霞第二小の増田修治教諭(46)は「回答の無い授業をするのはつらいが、世の中には答えの無い難しい問題がいっぱいあることも教えるのが教育では」と力説する。
 増田教諭は受け持ちの四年生と「普通の子とは何か」を授業で語り合った。佐世保事件の被害少女の父親が「精神鑑定書を読んでも、彼女(加害少女)は普通の子としか映らない」と語ったことがきっかけだった。 児童に「普通の子」の条件を尋ね、黒板に書き出した。「明るい」「友だちと遊ぶ」などの項目が並んだが、児童の自由討論では「誰だっていつも明るくはないよ」「私も友だちと遊びたくない時がある」という意見が出た。
 「普通じゃない子」では、最初は「表情がない」「元気がない」という項目が並んだが、「表情に出したくても出せないだけ」「元気が出せないこともある」との反論が出た。最後には「みんな、普通の時もあれば、普通じゃない時もあるんだ」「結局、生活や感情をコントロールすることが大切なんだよ」という意見に多くの児童が賛同した。
 増田教諭は「子どもは自分で考え、それなりの結論を出す力がある。教師は『生きる力』『命の大切さ』という言葉を使うだけでなく、子どもと一緒に考える姿勢が必要だ」と呼びかけている。

中日新聞社