【おーい、父親】 汐見稔幸
  子どもの詩から 家庭では裸の人間性を
 ――私がようち園の時にテレビを見ていて/お父さんが、きょうれつなおならをした。/お父さんはうそをついて/「あや、おならはトイレでするんだぞ!」/と言った。/私は/「自分じゃないのに…/自分じゃないのに…」/と思っていたら/泣いてしまった。/弟がいっしょうけんめいに/なぐさめてくれた。/こんなことがあったけど/やっぱりお父さんは好きだな。――

 こんな詩がたくさん載っている子どもの詩集が出版されている。埼玉県の小学校教員、増田修治氏が、担当したクラスの子どもたちが書いた詩を集めたもので、『子供力!詩を書くキッズ』(弓立社)という。
 子どもたちが実にユーモラスなタッチで自由に想いを書いていて、読んでいて楽しい。堅苦しいイメージのある学校で、子どもたちがこんなにユーモラスな詩を書いているのかと、驚くとともにどこかほっとする。
 作品には家族のこと、友だちのこと、自分のことなどがテーマになっているものが多い。しかし、お父さんのことを書いたものは期待するほど多くなかったことに考えさせられた。

 ――私のお父さんはいつも/夜ふざけます。/おふろに入る時も/赤ちゃんのおもちゃとかで/私と二人で遊んで/ふざけています。/お父さんが/ちょっとよっぱらうと、/私が宿題の百問テストをやっているのに、/お母さんのスカートめくりをして/気をそっちに向けさせます。/するとお母さんが/「やーん、やめて!」/と言います。――

 ――お父さんは、/朝早く会社に出かけて、/帰りもとてもおそい。…月曜日から金曜日まで、/お父さんに会わなかった時もある。/土曜日になってお父さんに会うと、/何だかはずかしくて話ができない。……――

 こういうのを読むと、お父さんが、子どもたちの前に具体的な人間性を裸で出していない家庭がまだ多いのかなと思う。

 でも、子どもたちはユーモアが大事にされると自由に表現するのだということがよく分かって励まされる。こういう会話が家庭に欲しいものだ。(東京大学教授)


                             (毎日新聞2002年2月1日東京朝刊から)