「普通の子」がなぜ−−。長崎県佐世保市の小6同級生殺害事件で、長崎家裁佐世保支部が今月15日、加害女児を児童自立支援施設へ送致する保護処分を決めた。「社会性や他者への共感が希薄で、怒りを適切に処理できない」。決定は加害女児の特性をこう指摘したが、被害者の父親は「突然キレる子はどこにでもいる。今回の子とどう違うのか」ともどかしそうに語った。「じゃあ普通の子ってどんな子?」。事件を通して子どもと大人がともに考えた学校の取り組みを紹介する。【北川仁士】
「この女の子(加害女児)は君たちと二つしか違わない。どう思うか教えてほしい」
埼玉県朝霞市の市立朝霞第二小学校4年2組。処分が出た翌日の総合学習の時間で、担任の増田修治教諭(46)が児童32人に語りかけた。6月の事件直後にも、子どもたちの思いを書かせた。だが当時はまだ子どもたちのショックが大きく、背景も分からなかったため、話し合いを深めることはできなかったという。
今回、加害女児の生い立ちなどに決定が触れたことを受け、親と一緒に考えて、もう一度感想を書かせることにした。初めに決定理由の要旨と被害者の父の手記が載った新聞記事を配り「この文書はこの女の子についてどんなことを言ってる?」と児童たちに尋ねた。
次の日に提出した感想文で、ある男児は「加害者の女の子だって、うまく感情表現できなかったかもしれないけど『ふつうの子』だったと思ってあげたい」と書いた。一方で人を殺して普通の子と言えるのだろうか」という意見もあった。多くの子が「誰でもこの子になる可能性があるんじゃないか」と戸惑った様子だった。
「じゃあ、みんながこの女の子と同じ生い立ちだったらどうだろう」。増田教諭は2回目の授業で子どもたちに再び問いかけ、もう一度、感想文を書かせて話し合いを続けた。「じゃあ、みんなの考える普通の子って何?」。教諭の問いに「元気で明るい子が普通の子!」と答えた児童がいた。クラスの3分の2が最初は同じように考えた。「でも、いつも元気で明るい子っている?」。「友達といっぱい遊ぶ子!」「(誰だって)遊びたくない時もあるよ」。意見が出るにつれ、普通と普通ではない子の境目があやふやなことが子どもたちにも分かってきた。「大事なのは生活や感情をコントロールできる子じゃないかなぁ」
結論は出なかったが、増田教諭は「子どもたちは必死に答えを見つけようとする中で、考えることの意味を実感したと思う。『みんな同じじゃないんだ』ということを知ったことが心の豊かさにつながる」と話す。
真剣な自問自答をつづった感想文は、学級通信にも掲載された。加害女児が両親から「手のかからない子」とみられていたことに触れ、数人の子が「赤ちゃんや小さな子は静かな方がいいと思っていた」と書いた。その感想文を読んだ母親は「ついつい、うるさいと言ってばかりだったが、子どもがこんなことを思っていたと知りショックでした。反省します」と教諭に明かしたという。
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◆子どもたちの感想文(要約)
子どもたちが書いた感想文の一部を、要約して紹介する。
◇甘える人なく殺人
私は最初、「チャットで悪口を書かれたのを理由にして殺した」と聞いた時、そんな理由で殺すなんて……と思っていた。今日、プリントを渡された。「泣くことが少なく、甘えるときもなく、一人で遊んだりして過ごすことが多かった」と書いてあったのを読んで、加害者がかわいそうになった。私たちは今でもすごく甘えている。だけど、この子は甘える人がいないから、殺してしまったんだと、私は思いました。(女子)
◇お母さんと相談を
6年生の女の子が、同級生を殺してしまった。一人で悩んでいないでだれかに相談すればよかったのに。ぼくだったらお母さんに相談する。お母さんは自分の味方だし、助けてくれると思う。お母さんは「子どもの気持ちをいつでも理解したい。でも、それをうるさがられる年齢になったらむずかしいな。ママはいろいろな人の手を借りて努力していくよ」と言ってました。ぼくもなるべく気持ちを伝えなくてはと思いました。(男子)
◇「怒り」学んでたら
私は女の子をどうして「普通の子」と判断したのか分からない。命をうばった重大性を実感できないのに、「普通の子」と言えるのだろうか。それに、もうちょっと小さいころから「怒り」ということを勉強していれば、なんとかなったんじゃないかな、と思う。もしパパやママが、私をほったらかしにしていたら、私も(加害女児のように)なっていたかもしれない。この女の子は、ちょっとかわいそうだと思った。(女子)
◇罪犯さぬ努力必要
ぼくはお母さんと、口げんかをして、1時間無視されてしまったことがある。でも、長崎の女の子は、無視され続けていたと思う。あれこれ決められていたかもしれない。そんな状況にぼくがおかれたら、暴力をたくさんしていたかもしれない。被害者のお父さんは、「普通の子と違うのか」と言っていた。ぼくはどんなに貧乏でも、どんなに親に無視されても、殺人や強盗を犯さず努力している人が、普通の人だと思う。(男子)
◇子供に決めさせて
ぼくは小さい時から、ほとんど自分で決めていました。それが普通だと思っていました。でももしぼくが何も言えなかったら、きっとイライラしていたと思う。やりたい事も、一人ではできなくなっていたかもしれない。でも、そうなったとしても人を殺すことはいけない事だから、人は殺したくない。ぼくが大きくなってお父さんになったら、しっかり自分で決めさせてあげようと思う。そして、いっぱい甘えさせてあげたい。(男子)
◇気持ち想像つかぬ
なんで、同級生を殺したのだろうか。命の大切さがわかっていないのだろうか。「殺す」ということの重大さがわかっていないのだろうか。加害者の女の子は、カッターで切りつけた時、何も思わなかったのだろうか。ぼくには、なんとも想像がつかない。ぼくは、子どもはみんな同じように成長していくと思っていた。それなのに、中にはこんなふうに成長していく人もいるんだな。そんなこと、思ったこともなかった。(男子)
◇私なら自殺してた
私が家族全員に無視されていたら、人殺しではなくどちらかというと自殺していたかもしれないと思う。長崎の少女だって、感情はあると思う。私は今、すごく家族に甘えている。でも、長崎の少女は甘えられずにストレスをためこんでいった。私も甘えられずにいたら、爆発するくらいにストレスを抱えていたと思う。長崎の少女の気持ちは、すごく不安定だったんだな。「甘えられる時間って大切なんだなー」と思った。(女子)