翻訳作業に関する備忘録
(4) 本作業
原文でパラグラフとして改行されているところは、1行空けになっています。見やすくするためにセルに着色しています。
訳ができると、下のようになります。
実例の提示は省きますが、C列は、先行訳がある場合に、それを参考資料として取り込むために用意しています。私の場合は、岩波文庫を裁断して、スキャナーで両面読み取りをしました。
画像データとして記録されたPDFファイルを(OCR変換により)検索可能なPDFファイルに変換し、テクストファイル(あるいはワードファイル)に書き出したものを使います。★その際、バックアップを必ず作成しておきます★。
このテクストファイルを使って、訳の作業が一区切りついたところで(たとえば章を一つ訳し終えたところで)、左横のセルに対応する部分をカットして貼り付けます。切り取りをするたびに、テクストファイルの上書き保存を必ずします。コピーではなく切り取りだと、次の作業再開時には先頭から始めればよいので、再開場所を探す手間が省けます。ただし、どんどん切り取っていくので、あらかじめ全体のバックアップをとっておく必要があるわけです。
当初の自分の訳が(善かれ悪しかれ)先行訳の影響を受けないようにした方がよいので、自分の訳を始める前に先行訳を貼り付けることはしないようにしました。とはいえ、先行訳との比較検討は、すべてを訳し終えてからだと作業の記憶が薄れているので、章が変わるごとに行なうぐらいがちょうどよいようです。
原文と、自分の訳、先行訳を横並びで比較検討することで、脱落ばかりではなく、構文理解や訳語選択の妥当性についても有益なチェックができます。自分の勘違いと先行訳の間違いのいずれにも気づかされますし、自分の訳と先行訳のニュアンスが異なる場合は、なぜ、自分はこの訳し方を選ぶのか、何となくということではなく、理由を自分自身に意識させることにも役立ちます。
さらに、ごくまれな例で、これまで一度しかありませんでしたが、原文の脱落を発見したこともありました。これはこわい経験でした。先行訳を貼り付けている中で、左側の原文と自分の訳文にないセンテンスがC列にあるので、脱落に気づいたわけです。最初の作業段階で原文のテキストを処理している際に、何かの作業ミスのために脱落したようです。
★★最後に、エクセルでの作業で注意すべき重要なポイント★★
すでに訳文を入れているセルを修正するために、セルをダブルクリックしてセル内編集に入ると、編集対象のセルが緑色の線で囲まれ、上の1行ウィンドウにセル内の文章が表示されます。この状態でスペースキーを押したり、その後の入力時にESCキーを押したりすると、すでにセルに入っている文字列が全部消えてしまい、undoを指示しても入力前の状態に戻せなくなることがあります。これで何度も泣かされました。くれぐれも注意が必要です。頻繁にセーブすることが大事です。あるいは、面倒ですが、メモ帳などのエディタを別に起動しておいて、そこに訳文を入力し、それを切り取ってセルにコピーするという安全策もあります。さらに、最近は、保存時に古いファイルを順次自動的に残していくソフト(Lazulite)を常駐させるようにしています。これは、CGIプログラムを作成するときにも欠かせない仕掛けで、とても便利です。人生の残されている時間がどんどん少なくなっていくのですから、ちょっと面倒でも、消耗感ばかりが残るような時間の浪費は避けたいものです。
もう一つ、重要な点。これまで説明してきたエクセル方式は、センテンスごとの取り組みであるために視野が限定されて、センテンス間の意味や論理のつながり、パラグラフ間での同様の点を考える際には、かえって妨げになるおそれがあります。とくに、パラグラフ内の場合がむずかしくて、日本語に直すと語順が変わり、原文なら自然につかめる流れが壊れてしまうこともあります。十分な対応ができない場合も少なからずありますが、しかし、できる限りの工夫はしてみたいものです。こうしたことのために
は、章単位での作業が一段落したら、ワープロにすべて書き出して、全体を俯瞰する観点からチェックして修正することが必須です。
【これで終わり】