征服の権利について言えば、それは最強者の権利以外になんの根拠も持っていない。もし、戦争が、勝者の側に、負けた国民を虐殺する権利を与えるものではないとすれば、勝者が持ってもいない権利が、負けた国民を奴隷にする権利の基礎となりうるわけはない。人は敵を奴隷にしえないときにのみ、これを殺す権利を持つ。したがって、敵を奴隷にする権利は、これを殺す権利から生ずるのではない。それゆえ、敵の生命に対してなんら権利を持っていないのに、命を助けてやるから代わりに自由を渡せというのは、不正な取引である。生殺の権利を奴隷権の上に設定しておきながら、奴隷権を生殺の権利の上に設定するのは、明らかに循環論法ではないか。(第1篇第4章、23-24頁:pp.199-200) |