クリエイターの税金

 ときどき「××で儲かったんだけど、税金の申告をしなくていいのかな」とか訊かれることがあります。有り体にいってしまえば、雑誌に雑文を書いたら原稿料をもらっちゃったとか、ドールイベントでペイントしたヘッドが売れたとか、同人誌の売り上げとかの話ですね。いつも聞かれるわけではないけれど定期的に出てくる話なので、とりあえず同人活動がサイドビジネスになっちゃったとか、そっちが本業になっちゃったという人を想定して、おおよその話だけまとめておきます。
 最初に断っておきますが、こういう話はそれぞれの事情が違っていて、細かな違いが大きい結果の差になったりしますので、気になる場合は国税局のホームページで最新の情報を確認し、それでもはっきりしなければ専門家に相談してください。

収入と所得は同じじゃない

 よく似ているので混同しがちですが、「収入」と「所得」は同じではありません。仕事の対価として入ってくる金額は「収入」で、そこから経費等を引いた<儲け>の部分が「所得」です。この「所得」で税金が決まるのです。ですから「収入」は同じでも「経費」が異なれば「所得」も税金の額も変わってきます。
 これを最初に認識しておかないと、以後の話がまったく通じなくなりますので、しっかり覚えておいてください。

税金の申告をするって

 所得があれば税金が発生します。
 税金は1年単位で清算されます。個人の場合なら1月1日から12月31日までの1年を一区切りにして収入と経費から所得を計算して税務署に申告します。これを「確定申告」といいます。
 会社に勤務している人(以下サラリーマン)なら、毎月の給与支払時に源泉徴収として一定の金額を税金として徴収されているはずです。そして会社が1年分の税金を計算して清算してくれますから、普通は確定申告をする必要はありません。けれども、他にサイドビジネス収入のある人や個人で事業を営んでいる人は、1年間の所得を翌年の確定申告期間に自分で申告し、納税しなくてはなりません。

サイドビジネス

 フリーマーケットやインターネット等のオークションで物品を販売したとか、イラストや文章を書いて原稿料を得たという場合は、特に事業の届出を税務署に出していない限り、基本的に「雑所得」に区分されます。サラリーマンの場合、サイドビジネスの総収入金額から必要経費を差し引いた金額(=所得)の合計が年間20万円を超えた場合、雑所得として申告せねばなりません。サラリーマンでない場合は、すべての所得の合計から雑損控除や生命保険控除などの所得控除を差し引いた金額がプラスになっていれば申告する必要があると考えます。ただし所得控除には、基礎控除の38万円というものがありますから、儲けが38万円を超えるかどうかが1つの目安です。

源泉徴収されていませんか

 原稿料・講演料やデザイン報酬などの場合、支払いをする時に支払いする側があらかじめ支払金額の10%相当額(100万円以上は20%)の所得税を源泉徴収しておかないといけないことになっています。つまり50万円の原稿料なら5万円の税金が引かれて45万円の手取りということになります。ですから、申告しなくて良い場合でも、申告することによって諸経費を計上し、それによって先払いしていた分の税金が戻る可能性があります。その点はよく確認しておきましょう。

経費ってなんだろう

 経費、経費というと格好良さそうですけれど、あくまで収入を得るのに必要で支払った費用のことです。何か物を売ったのなら、それを仕入れたり製作するのにかかった仕入金額とか材料費とか直接の経費が該当します。それから、参考にした図書の購入費とか、調査研究費、移動にかかった交通費、打ち合わせに利用した喫茶代金やインターネット接続料などの経費も必要経費として認められます。
 ただ、理屈がつけば何でも認められるかというとそうではありません。その仕事をしなくても、普通に暮らしていれば支出する費用などは経費には認められないと考えましょう。たとえば、仕事をしなくても電話はするだろうし電気や水道だって使うはずです。どこか遠隔地のイベントに出かけて食事をしたとしても、イベントに参加しなくても食事はするわけですから、そういう費用を出張経費とかにすることはできません。そのあたりの区分がよく考える必要がありますし、とにかく記録を残す必要があります。これに限らず仕事場と住居が同一で、光熱費や家賃などが区別できない場合は、実態に即して「1/2」などと概算で計上しておきます。
 私小説作家が「自分の生活すべてが取材活動だ」と言い張ることもありますが、常識的に100%は通用しないでしょう。

サイドビジネスにかかる住民税

 所得が発生すれば所得税(国税)ばかりでなく、翌年には住民税(地方税)も発生します。サラリーマンの住民税は会社が徴収することがほとんどであるため、会社に内緒でサイドビジネスをしていても住民税の通知から判明してしまいます。もし会社に知らせたくないのであれば、確定申告書を作成する際に「住民税の徴収方法」の欄を普通徴収にチェックする必要があります。そうすれば給与所得以外の分については自宅に請求書が送られますし、特別徴収にチェックすれば会社で給与所得と合算して徴収されることになります。

事業所得と雑所得

 サラリーマンは、会社以外で得た収入は、事業として税務署に事業開始届を出している場合は事業所得、出していない場合は雑所得となります。雑所得でも事業所得でも経費に認められる部分の差異はほとんどありませんが、雑所得には事業所得では認められている各種控除や損金が出た場合に他の所得と損益通算することが認められないなどのデメリットがあります。しかし勤め先に対して「サイドビジネスではないです」と言い張りたいときは事業所得じゃダメですよね。

青色申告と白色申告

 事業所得の申告には青色申告と白色申告があります。そしてサイドビジネスを事業所得として扱うよう税務署に届け出た場合、青色申告を選択することができます。
 簡単に説明すると、ちゃんとした簿記の方法で収入や支出の記録がつけてあり、領収書などがきちんと保存してあれば「青色申告」で申告することができ、「特別控除」「専従者給与の必要経費算入」「純損失の繰越と繰戻」などのさまざまな控除の特典を受けることができます。そして青色で申告できないものは白色となります。
 白色申告は税法上の特典を受けられませんが、その一方で「帳面は適当でいい」と理解して、面倒な記帳や記録の保存をするよりは白色をあえて選ぶ人もいるようです。しかし、その場合は取引先や銀行などからも“管理が不十分”と認識されること、万が一にも事故などにあった場合の補償も、その“いい加減な記録”に基づくことなどはあり得るものと覚悟しましょう。あるいは税務署の調査を受けた際に反証できない可能性もあります。  その商売をこれからも続け、「雑」ではなく「事業」として大きくしていこうという気があるなら青色申告から始めた方がいいのではないでしょうか。

誤魔化したっていつかはバレる

 一時期、マンガの同人サークルにまで税務署の調査が入ったと話題になったことがありました。
 本当にごくごく小規模な収入しかないならば、雑所得でも白色申告でもかまいません。でも一人前に収入があるのに、なんにもありませんと言い張ることはできません。仕事として収入を得たのであれば、支払いした側が経費として申告しています。同人誌であれば印刷所が売上を計上していますから、何千冊と刷るような大手は簡単に目に付きます。印刷する以上は売っているはずで、売ったからには収入はあるはずですよね。
 収入がごまかせたところで、稼いだお金は貯めても使っても明るみに出ます。本人の稼ぎがないはずなのに預金残高が増えるのは不自然です。収入もないのに土地やマンションを買う資金が出てくるはずがありません。
 もちろん税務署だって全部の個人や法人を片っ端から調査することは不可能でしょう。それでも記録のオンライン化が進んで調査の効率化は年ごとに進んでいますし、どんな分野でも派手にやっていれば遠からず目に付きます。「タウンガイドで評判のお店という記事を見るたびに気になって…」というのは、ある税務職員の言葉です。
 なにかあったときに恥をかかないよう、損をしないよう、やるべきことはきちんとやった方がいいです。ときどき「そんなことは気にしなくていいと知人に言われたから」という人もいますが、所詮は他人。何かあったときに責任をとってくれるわけではないのです。

専従者給与も考慮しておこう

 誰かに仕事を手伝ってもらったら御礼を払うのはあたりまえのことです。アシスタント代とか外注費も当然経費です。
 けれど家族に支払う分には原則として経費になりません。そこのところは未だ「家族の仕事は手伝ってあたりまえ」の世界なのです。弁護士の夫が税理士の妻に仕事の対価を払っても経費になりません(東京高裁判決平成16年6月9日)。
 ただし、青色申告を選択の上で専従者給与の届出を出していれば、その仕事だけをしていて他の仕事をまったくしていない限り、その家族への給与も経費として認められています。

変動所得

 事業所得や雑所得のうち、「原稿料」などは変動所得として平均課税の方法(五分五乗方式)で計算することができます。
 日本の所得税率は累進課税です。つまり所得が大きければ大きいほど税率も高くなります。考え方は、5年かけて作品を書く人が書いてる最中は税金0で完成したときに高い税率で納税するのは不合理だから、均等にほどほどの税金を納められるようにしようということです。
 その条件には、さまざまな制限がつきますが、大雑把な目安として変動所得と臨時所得(高額な不動産の補償金や契約金等)の合計が総所得合計の20%以上であるかどうかです。それで該当しそうと思ったら(そして年ごとに所得が大きく違うようなら)、あらためて正確な適用条件等を確認してみましょう。

法人化

 平成18年5月から会社の最低資本金が撤廃されることになりましたから、法人を設立することを考えても良い時期に来ています。一般的に、バンバン儲かって困るのでなければ個人事業で十分といわれていますが、個人事業も法人もそれぞれにメリット・デメリットがありますので、事業の規模や内容を考慮しつつ、最善の形態を選択しましょう。

(2005.12.10)