PBMプレイヤー列伝

 各自すみやかに転生せよ!!

■前世偉人の正体みたり
 昔、ゲムルという会社が『平成偉人伝ガリレイザー』というPBMを主催しました。ゲムルという会社そのものが、PBMは『平成偉人伝ガリレイザー』『平成偉人伝ガリレイザー2』『カナン〜最後の神』の2作でPBMから撤退しましたので、存在そのものを知らない人も多いかもしれません。
 PBMにもいろいろ種類があります。たとえば『88』をひとことでいえば「ジャンルはホラー、プレイスタイルはライブRPG的、プレイヤーには深い知識と行動力が要求される」となるでしょう。『レーベンスラウム』は「ジャンルは仮想戦記、プレイスタイルはシミュレーションゲーム的、プレイヤーにはウォーゲームのセンスと交渉能力が求められる」といえるかもしれません。他にもいろいろあります。学園物、退魔物、前世物、スペースオペラ、ライトファンタジー、ゲームブック、RPG……。
 では、この『ガリレイザー』の場合は……というと、いろいろPBMが存在する中でも、これほど異色な存在も珍しく、これを語らずしてPBMの歴史を語るのは、新撰組を語らずして幕末を語るようなものです。まあ、そういうわけで、ぽちぽち語ってみることにしましょう。

■それはバカカードから始まった
 「バカカード」という遊びがあります。無作為の単語を1つ記載した紙片を何百も用意してプレイヤーに配り、プレイヤーは配られた単語を何が何でも使って物語を考えるというもの。簡単に言ってしまえば、そういうことです。『ガリレイザー』は、この「バカカード」のPBM版で(ゲーム中では「ワード」と呼びます)、このパーティーゲームにライブゲームの要素を付加したものと思えばいいでしょう。そういうゲームですから、一般的なホビデの『エターナル・ギルティ』シリーズみたいな「転生物」を期待していた人はひっくり返ることになります。
 プレイヤーは過去の偉人の転生した存在となります。そしてワードを組み込んだ文章を作成することにより、その内容を現実化させる力を得るのです。つまり、「偉業を達成したから偉人」なのではなく、「偉人はワードに秘められた言霊の力を使えるので偉業を達成できた」ということなのです。
 プレイヤーの目的は、自分がかつて成し遂げられなかった偉業を達成するために、または再び栄華を極めるために現代日本で活動することです。しかし、転生は完璧ではなく、まだワードを完全に使いこなすまでには覚醒していませんし、もしかしたら同じ偉人の転生者が他にもいるかもしれません。そしてその場合は、最終的に覚醒率がもっとも高かった転生偉人が本物になるのです。

■実行するって本当ですか?
 さてアクションには、覚醒率をあげる覚醒アクションと、ワードを手に入れるための探索アクション、そして偉業を達成するためのワード・アクションの3通りがあり、毎回どれか1つを選んで実行しました。
 覚醒アクションと探索アクションは基本的に同じ実行アクションをおこない、その結果が「覚醒率があがる」か「ワードが手に入る」か変わるだけです。そしてそのアクションとは、前世の行動を再現することなのです。
 たとえば豊臣秀吉の転生者なら橋の上で寝たりしますし、ガリレオの転生者ならどこか高い建物の上からボールを2つ落としたりします。そして、そのアクションの再現性が高ければ高いほど、ポイントはたくさん与えられます。たとえば、単にアクション提出のハガキに「橋の上で寝る」と書くだけは最低のポイントです。本当にプレイヤーが橋の上で寝て、それを写真に撮って提出すればポイントはもっと高くなります。その橋が本当に矢作川の橋の上ならもっと高くなりますし、そこで蜂須賀小六の転生プレイヤーに踏みつけられでもしていたら、さらに高ポイントです(当然、蜂須賀小六のプレイヤーのポイントにもなります)。
 そしてワードアクションは、やりたいことをアクション欄に書きます。集めたワードを貼り付け、その言葉を文章に組み込むことで常識を覆すことが可能になります。また、自分の前世の名前もワードと同じように使うことができます。
 こうして始まったゲームなのですが……

■前世志願候補生 (written by 則天武后)
武后さんの名刺 宗教にも思想にも、組織にも結社にも縁のない私だが、新聞でどこぞの新興宗教団体が検挙され取り調べを受けるのを読むに、ふと思う事がある。今、ヒステリックに警察に向かって抗議シャウトする信者も、入信当初は人生最高の日々を甘受していたのではないかと。
 昔、とある本で読んだ事を思い出す。
「新興宗教団体に所属して、一日のワーク(駅前でビラ巻いたり血を浄化させてくれとかすがりついてくるアレ)を終えてヘトヘトになって帰ってくるんだけど、一斉に『お帰りなさい!!』と皆が満面の笑みで迎えてくれるんだ。心から『あなたが戻る場所はここなのよ』と言われた事なんて無かった。目を輝かせて自分の帰宅を喜んでくれるなんて無かった。だから続けていられたんだ…暫くはね…」
 ああ、そうか。そういうことなのか。
 ガリレイザーのプライベやオフイベ(※1)に参加する人たちの目は、きっと端から見たらそういう集団の一員に見えたろうな。2003年の自分が1996年の自分を見たら、放水器で一斉に頭冷やせと水ぶっかけたろうなと思う程、熱に浮かされていたのだ。始終口から「前世では〜」「前世の俺は〜」なんて発言が飛び出していたんだ。よく当局からマークされなかったな、と思う。オウム直後だったしね。

 「遊演体のPBMは熱狂的だ」と言われていたそうだが、ガリレイザーは「熱狂的」という単語に収まるタマじゃなかった。レミングの集団自殺のように、栄光に向かって何処かに突っ走っていった「狂気」そのものだった。
内閣総理大臣発行の免罪符 だってねぇ、プライベでまず自己紹介する時からもう、「自分の前世はミカンで一儲けしましたが、現在は皆様に愛される悪徳商人として頑張ります。」だの、「え〜前世では名ばかりの将軍だったんですが、今度こそ念願の世界征服を果たします。」だのがまかり通り、やる事と言えば会場で実行アクション。
 いきなり前世では商品の目印だったからといって、赤い天狗の面を股間に装着し女性を襲う振りをしたり(両者合意の上ですよ、念のため)、「鎌倉幕府を織田信長に奪われる」ってのを「爆風スランプのCD手から引っこ抜かれる」という無茶なこじつけで大爆笑。…え? そういうお前は何してたって? そりゃ勿論、中国史上唯一の女帝らしく(文字通り)男を踏み台にしたり、「美少年(酒の銘柄に非ず)」を愛でていましたよ。夏に簾をプライベ会場に持ち込んで、主催者の背後で簾を隔てて場内を支配する(「垂簾の政」)をやらなかったのは勿体なかったな。

※1.オフイベは「リアルワーディング」という名称だったのだが、未だ以て、何がどう「リアル」で「ワーディング」だったのか分からない。


トップページに戻る