PBMプレイヤー列伝

 CREGUIAN 〜策謀するもの〜

■クレギオン大阪オフイベ
大阪プライベ  写真は大阪府で開催されたホビー・データ主催のイベントのヒトコマです。泊まりはなく、昼間に市民ホールを借り切っておこなわれました。クレギオン#1のイベントなのに、蓬莱学園の記章を胸元に光らせている人がいるのもご愛敬。
 そもそもホビー・データは横浜のゲームサークルが、自作のスペース・オペラ・ワールド『クレギオン』を世に発表するためにPBMという媒介を利用しようと設立した会社。そして、その際に実働部隊として「88」でアクティブだったプレイヤーを多くマスターとして採用したのが、そもそもの始まり。確かに設立時マスターの大半が「88」プレイヤー出身ではあったけれど、別に“「88」プレイヤーが設立した”のではないことは注記しときましょう。それに自社のプレイヤーからのマスター募集もしていましたから、クレギオンも#3の頃になるとほとんど残っていません。それは今でも同じだろうけど、マスターをやるって、かなり消耗するんですよね。持ちネタなんか、あっという間に使い果たすし、経済的にも安定しないし。
 それはともかく、東京以外でのオフィシャル・イベントというので、みんな嬉々として(日帰りは無理じゃないかと思うような人まで)集まってきたのでした。

■クレメントの家族会議
一大勢力  さて『ネットゲーム'88』はプレイヤー同士のネットワークを0から組み上げるゲームでした。『蓬莱学園の冒険!』は前作で創り上げたネットワークをフルに活用したゲームでした。けれども3作目の『クレギオン』でも、今までとは違うことがしたいと思いました。既存の仲間で集まって数に物を言わせるプレイはつまらない。いわゆるベテラン・プレイヤーの数の暴力は避けたかったのです。かといって、新たにネットワークをつくる根性も気力も残っていませんでしたし、まがりなりにも“ネットワークRPG”を名乗る作品に交流もしないで参加するつもりもありません。
 そこでFC−BBS上で「クレメント一族」というグループを提案したのです。クレメントという名前は、ありきたりではないけれど珍しくもなく、仰々しくもありません。それに英語ではクレメント、フランス語ではクレマンという読み方も判っていました。これが重要。つまり、英語名でもフランス語の名前でも対応できるということですね(そのうち、クレメンティーノなんていうイタリア系も出てきたりしたくらい)。
 設定としては「辺境宇宙の開拓初期からの一族であり、あらゆる星系に散っている。互いに連絡を取り合い近況を報告し合うことは多いが、協力して何かをすることはない大家族」というもの。
シモーヌ,ウィリアム,キティス,ジョゼフ つまり近況報告はいるけれど、グループとしての統一目標はありませんよということ。「蓬莱」のお料理同好会ほどのまとまりもありません。それで何の意味があるかというと、家族会議と称して各シナリオの様子を報告しあい、また「この宇宙に親戚が存在する/自分のPCはこの世界に突然現れたわけではなく、親兄弟もいれば子供もいて、それがみんなそれぞれに生きている」という感じを出したかったのです。数に頼んで「でっかいことをしよう」なんて気は毛頭ありません。ぼくのしたことも、網の目のようになった家系図を整理し続けることと、届けられる近況報告をまとめたこと。そして一族のPCの1人が戦死したとき、その遺児の引き取り手を捜し回ったくらいでしょうか…。
 なんか「クレメント一族の集団アクションの横暴さ」という話も昔聞きましたが……それは間違いじゃないかなあ。集団アクションで何かを左右しようとしたことなんて無いし、仕組みとしてできないもの。むしろ叔父さんと甥っ子が意図せず敵味方に分かれて艦隊戦やったあげくに戦死してしまうのが関の山。まあ、個々人のアクションが他の人のアクションを凌駕したことはあるかもしれませんけど、グループで何かをして楽しむという話でもなかったです……。
 ただ、この一族は最終的にはけっこうな数になりました。そしてそれなりに手慣れたプレイヤーが集まったため、結果的にはなまじ協力し合うより大きな足跡が残せましたし、マスターもプレイヤーも意図しなかった意外なドラマも生まれました。この一族の分家らしい一派は、後に小説版クレギオンにてマフィアとなって登場しています。だから「数を頼んでの横暴」と思われても仕方がないのかもしれませんね。その足跡については別コーナーを参考のこと。
 写真は上と同じく、大阪吹田のイベントでのもの。ホールでプレイヤーがAブランチ、Bブランチ…と各シナリオごとに分かれて輪になって座るのですが、クレメント一家だけで島が1つできてしまったという次第。プレイヤーとしては東京、名古屋、大阪、京都、九州からの参集となっています。


 メガンテな人のこと
 クレギ#1の頃、『星間通信』という交流誌がありました。アーケイディア研究会という団体のキャラ同士のかけあいを楽しんだりシナリオを考察したりと、なかなかバランスの取れた冊子でした。それを主宰し、1人でイラストを描いて、隔週ペースで発行していたのが彼女です。さすがと思って感心していたのですが……
りん  クレギ#1が終了し、星間通信もめでたく終了した頃……。あるイベントで上京中、行動を共にしていた尼崎ガルーダさん(仮名)と喫茶店で「交流ペーパーの編集経験談」をしておりました……。
「星間通信って、凄く早いペースで出してたんですね。」(ガルーダさん)
「え、そうですか?。」(メガンテな人)
「だって、月2回は早いですよ。」
「あれ?・・・だって蓬莱で『猫の新聞』は月2回発行でしたよ…………あれが普通なんじゃないんですか?」
(3秒後)
「もしかして、あれを「普通」だと思ってたんですか〜!?」
「……違うの??」
「……。」
 蓬莱初参加組の私は、本当に、あのペースが「普通」だと思ってたんですよ、まなせさん(笑。
(written by メガンテな人)
 


■ホビー・データの終焉
 さて、クレギオン・シリーズ全般についてあれこれ書こうと思っているうちに、会社の方が消えてしまいました。2003年10月30日に各マスターに廃業の通知があり、31日にプレイヤーへ廃業案内を一斉に発送して業務停止。まだ終わっていないPBM、これから始まるPBMを数多く抱えたままの廃業でしたが、参加費を払い込んでいるプレイヤーの間に動揺が走ります。翌年から始まる『レーベンスラウム3』など高額な参加費を一括納入している人もいますから大変です。
 しかし赤字は1億1000万円。私財も限界まで投入していたとのことで、プレイヤーでもある友人の弁護士に言わせれば「参加費の返金は無理と思った方がよい」とのこと。実際、倒産した会社の清算など、債権者会議に何度も足を払い、事務費用や時間をさんざん費やしたあげくに3%戻ってきたら大成功の部類です。これもその類なのでしょう。自分としては長年親しくおつきあいしていた会社への香典と思って諦めることにしました。
 廃業報告によれば、原因は「平成8年〜10年の新規事業投資の失敗」「昨年末商戦での不手際と本年の企画運営のトラブルによる顧客喪失」「8月以後の急激な売上低下」ということです。平成8年から10年というと、スタートセットにOVAがおまけにつく『クルーエル』、PBeMを主催する株式会社ゲームネット・ジャパンが設立された時期。
 『クルーエル』はOVAの完成が予定より遙かに遅れ、開始が何度も延期され、途中スタートセットも改訂版が作成・配布されたあげく、結局始まる前にぽしゃったはずです。少なくとも、へっぽこOVAが完成した、改訂版スタートセットが届いたという噂は聞いたけれど、開始したという話はついに聞けませんでした……。
 ゲームネットジャパン社とホビーデータがどういう関係かは知らないけれど、かなり資本参加しているらしいということと、スタッフの大半がホビーデータからの派遣で、そのせいでホビーデータの方のシステム開発が滞ったという話は聞いています。それで第1弾の士郎正宗原作『仙術超攻殻オリオン』はそこそこの内容で参加費は高め、参加者は少なめ、運営は滞りがち。第2弾の『アルマゲドン・エクスプローラー』は「88」を彷彿とさせるマニアックな内容で前評判は高かったのだけれど、マニアックすぎて(または宣伝がヘタすぎて、あるいは前作の評判が悪すぎて)1万人予定が73人しか参加者が集まらず、事前プレイだけで中止。第3弾としてオリオンの続編をやるという話もあったけれど、そのまま立ち消え。
 こういう新規事業の失敗で大赤字を作り、それでもなんとか回していたものの、急激な参加者減で手形が落ちなくなった……というところかな(あくまで状況からの推測です)。参加者募集だけして潰れた『レーベンスラウム3』も基本システムはかなりできていたとマスターも言っているし、設立前からおつきあいしているような会社だけに残念。
 そもそも「クレギオン」という言葉は、“策謀する者”“企む者”という意味の地球人類そのものを意味する単語という設定です。そこには、人類が他人と争ったり騙そうとする性を持つというマイナス・イメージと、さまざまな試みに挑戦していく活力を持つ者としてのプラス・イメージが併存していました。いろいろな企画に挑戦し、それに破れて消えていくというのも、クレギオンらしい結末かもしれません。
 ただ、日本人の間にはどちらかというと「一度倒産したらそれでおしまい」という認識があるような気がします。しかし、よく考えてみれば最初の挑戦で成功をおさめるとは限らず、2度3度と会社を潰したあげくに大成功を収めたという話もよく聞きます。せめて、このPBMのノウハウや人材が次の機会に活かされることがあるといいですね。

■ホビデができた頃
 他の項でも書いているから詳しくは触れませんが、ホビー・データは横浜のゲームサークルがオリジナルのテーブルトークRPGを世に発表するために作られ、その広報媒体としてPBMが運営されることになりました(テーブルトークの販売はもう少し後のことになります)。
 しかし中核メンバーである雑賀氏もみやかわ氏も、PBMについてはまったくの未経験者でした。「88」や「蓬莱」はもちろん、それ以前の「スターウェブ」等の経験もなかったそうです。そこで、少しは勝手の分かった人間をスタッフに迎え入れるということで、同人PBMのマスターやライターが呼び集められたのです。
 そのときにはみやかわ氏の耳には遊演体PBMへのプレイヤーからの不平不満が入っていました。プレイヤーに人一倍の意欲や知識を要求する、好事家的な性質のゲームへの不満です。プレイヤーとしての経験はないものの、ルールの分析やプレイ状況の聞き取りを進めていたみやかわ氏らは、「ビジネスとしては、切れ味は鋭いが多数のプレイヤーを振り落とすゲームより、多少なまくらでもプレイヤーが脱落しにくいゲームを」という方向を選択したようです。
 そして草の根BBSFC−BBSの掲示板上において、大宮パパらによって検討が進められていたブランチ制が採用され、小説型のリアクションによって「誰でも自分の居る場所の物語を知ることができる」ようになりました。積極的に交流をしなければ「自分の周りで何が起こっているか解らない」、知恵と知識を駆使しなければ「次に何をして良いかも解らない」という、「88」の特徴への1つのアンチテーゼです。
TTクレギオンの行商するオカちゃんと雑賀氏 もちろん、このブランチ制にも功罪はありましたが、その長所短所をふまえた上で、少しずつ改善していこうという意欲はありました。また実際、当時のプレイヤーの実感として「毎回いろんな面白そうな試みを取り入れながら、その成果を次作に活かさず、またゼロから始めるため、プレイヤーが常に試作品のモルモットみたいな遊演体PBM」と「毎度代わり映えがしなくて新鮮みもないけれど、安心してプレイできるホビー・データPBM」という評価はありました。あったんだってば!

■クレギオン世界の変遷
 『クレギオン#1〜遙かなるアーケイディア』の制作発表があったのは、第1回のたかまぁ亭でのことでした。
 当然といえば当然ですが、会場からは「××はありますか/いますか?」という質問が多かったです。「××」には、サイボーグ、レーザー光線、宇宙人、超能力者等、なんでもSFに登場しそうなガジェットをあてはめてください。ただ、そこでの回答は基本的に「恒星間を移動できる宇宙船はあるが、その他については原則として現代社会とほとんど変わらないと考えて欲しい」というものでした。つまり、PCとしてサイボーグや超能力者や人類以外は設定できないということです。小説『クレギオン〜ヴェイスの盲点』もそういう世界観ですよね。シナリオの途中でNPCの1人の正体がサイボーグと判明したときに「それは反則ではないか」という声がプレイヤー側であがったくらいです。
吉原昌宏クレギオン画集 ただ、質問が出たくらいですから、サイボーグや超能力者をやれたらやりたいと思うプレイヤーは多かったんですね。そのあたりはプレイヤーのニーズに敏感なホビー・データですから、少しずつでも取り入れていきました。そのため、1作目、2作目あたりでホビデPBMから離れたプレイヤーらは、10年も経ってまったく別物のようになってしまったクレギオン・ワールドに仰天してしまいます☆
「超能力者……できるの?」
「できるよ。異星人とかカエルもありね」
「カエル??」
「そして今、人気はこのキャヴァリアー乗り」
「モビルスーツみたいだけれど……こっちは!?」
「ガイアの民ね。巨大な樹木型コロニーで宇宙を旅しているという……」
「違〜う! こんなのクレギオンじゃないぃぃ!! 普通の人間の冒険が……」
「……あのね、クレギオンは人類の宇宙進出から滅亡までを扱うシリーズなの。そして宇宙は広〜いの。巨大ロボットでも、パーンの竜騎士でもなんでもありなのよ」
 固定観念に縛られてちゃいけませんね。

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