蓬莱学園の泥沼!

〜90年憲章制定の楽屋裏

(曲直瀬 某)

 そもそも神社で巫女さんを追いかけていた曲直瀬一渓なる少年が、政治なんぞに足を踏み入れたのが間違いのもとだ。もともと理屈好きの正論吐きだから、利益誘導のための詭弁とか、主観と客観を取り違えている発言には我慢ができない。論理的でスジの通った意見なら、たとえ自分と正反対の意見だろうと受け入れるけれど、そうでなければ味方の発言だって容赦しない。そこであれやこれや、もう相手が敵だろうが味方だろうが関係なく口論しているうちに役職が増えていってしまった。自業自得。
 さて90年憲章の話。まあ、動乱で学園がぐちゃぐちゃしてしまい、とにかく再び一つにまとめるために新しい憲章が必要だ! 遅れれば戦争の死傷者が増えるし、地球最後の秘宝を狙う「ほうらい会」の跳梁が続くことになる…というのが前提。もちろん一発で通さなければ(ゲームの上で)次の機会はない。そのためには、各有力団体の反対ができるだけ小さい内容でなくてはいけないし、かといって現状維持ならやる意味がない。
 軍事研の知り合いから世界各国の憲法を解説した比較憲法論のテキストを借り、土壇場で徹夜の憲法論演習だ。時間も無いので、国連憲章と日本国憲法を足して割ったものを修正してみた。やっつけ仕事だが、どちらも理念としては間違ってはいない。基本となるのは「権力の分散」。後の衆愚政治の元だとか、委員会の利権拡大の元凶ともいわれるが、90動乱そのものが権力が一点に集中した弊害なのだから仕方がない。悪い親玉一人に牛耳られるより、多数の小悪党が牽制し合う方が良いとの判断だ(ここらへんが判断の別れるところだ)。そして生徒会長は各集団の意見調整を主たる使命とする。
 第一稿ができた。各委員会などの主たるプレイヤーにコピーを送付して意見をもとめ、それをまとめて修正二稿、三稿ができる。おまけにアクションでNPCにも意見を求め、けちょんけちょんにけなされる。そうして完成した決定稿を次のアクションとして提出。で、採用された憲章原案が「蓬莱タイムズ」に掲載されたが、その内容がまた微妙に原案と違っている……。
 つまり、原案がPCに叩かれ、NPCに叩かれまくった結果が90年憲章なのだ。よく、「あんなものは日本国憲法の劣悪なコピーにすぎない」とか「自分の案の方が優れている」という声も聞く。そりゃそうだ。そうかもしれない。しかし当時の曲直瀬一渓には、プレイヤーとしてもキャラクターとしても、あれが限度だったのだ。幸いにも基本法とはいえ、この憲章は人の手になるものだ。神から与えられた戒律ではない。だから、必要と思えば、時代に合わないと思えばどんどん議論して、どんどん変えていけばいい。誰も止めはしない。むしろ推奨すべきことだ。
 90憲章は、90動乱にケリをつけるために生まれたものに過ぎないのだ。

 この憲章には後日談がある。
 ファイナルイベントの合宿でマスターたちと話をしていたときにも「どうして日本国憲法の焼き直しにしたのか」と聞かれたのだ。僕が前述の内容を説明すると、何人かが笑った。
「戦争を無くしたいだけなら、武器も権力もない、ごく普通の高等学校の生徒会規約にすればよかったんだ」
「改憲に乗じてキミ自身が独裁者になる選択肢だってあった」
 そりゃ通らないでしょ?
「それを通すのが、うまいアクションってもんだ」
 うーん。アブラハム・(中略)・カダフィー閣下を見習わなくてはいけなかったか。


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