パイロット版
バスターアリス
「そして冒険の旅へ」

原作挿絵:杉本ニトロ
     小説:なか まこと

第1話 「罠への誘導路」


 その陰謀はトオル本人が知る由もないところで密かに進行し、決行された。

 意識を取り戻した有栖川 透(アリスガワ・トオル)は地面に横たわり茫然と空を眺めているのだが、認識できずにいた。なぜなら、過去の記憶の99%を消去されてしまったからだ。しかもここは、ホンの数分前までアキラといた現実世界から切り離された、異次元空間なのだ。



 巧妙に仕掛けられた罠は、トオルが目覚めたときからスタートした。

 いつも通り爽やかに目覚めたトオルはパジャマ姿で朝食を済ませ学生服に着替えると、食卓のイスに戻って幼馴染みで同級生の須藤 明(スドウ・アキラ)が迎えに来るのを待っていた。普段と違って気になるのは、ベッドを離れてからの短い時間に数度、タンポポの綿毛のような白い球体が、目の端を素早くかすめることだ。しかも、見える毎にわずかずつ大きくなっているようにも思える。

 定刻にチャイムが鳴った。

 直ぐに席を立とうとせず考え込んでいる様子のトオルを見た母親は怪訝な面持ちで

「…?どうしたの?ほら、アキラちゃんが来てるわよっ。……いつものトオルらしくないわねぇ。待たしちゃ悪いわよっ」

「ん?…あぁ……。あっ行ってきま〜す」

 吹っ切るように勢いよくイスから離れると廊下を走り、玄関までは横滑りだ。

「よっ、お待たせ」

「相変わらず元気ね」

「どうした、顔色良くないな」

「だって、今日は中間テストの発表日だよ。…トオルはいいわよね、聖キャロル中学始まって以来の高成績、3年間キープだもんね」

「成績?アキラだって、んなもんどうでもイイじゃん。大学までストレートの学校…」

「!?どうしたのよ急に」

「ん?今何か見えなかったか?こんくらいの白い…ふわっとした…」

 トオルは両手でダチョウの卵ほどの楕円形を作り、「ずいぶ大きく見えたなぁ」と思っていた。

「え?そお?見えなかったわ。気のせいよ」

「そうかぁ。起きたころから時々…」



 午後3時、資料室脇の壁に学年別成績優秀者名を記載した模造紙が張り出された。3年生の名簿の前には学年を問ず一際(ひときわ)女子生徒が集まり、口にしているのはトオルの話題だ。

 文武両道のトオルとあって、無理もない。

  アキラは机に突っ伏し寝ているトオルの肩を揺さぶりながら

「ほら、学校中の女子が噂してるわよ」

 目を開けたトオルはぎくりとした。

 白い固まり、いや、あれは…ウサギ?間違いない、ウサギの形をした白い物体が目の端を飛びかすめた。

「ア、アキラ、ウサギだよウサギ!」

「なぁに寝ぼけてんのよぅ。帰ろ」

「ん?そうかぁ気のせいかなぁ。ウサギに見えたんだけどなぁ」



 校門を出たところで

「アキラ、腹減んね?」

「なんか食べてく?」

「あーでも金ねーし…」

 トオルは辺りを見回しながら

「どっかに札束でも落ちてねーかなー」

 トオルの目にウサギが茂みへ飛び込んだように見えた。

「あっ、ほらアキラ!!」

「えっ、マジであったの?」

「ウサギだって!!絶対っ!!」

「だからもー何言ってるのよっ朝から変なことばっかり」

 茂みに入り込むと

「まったくもー見つけた所でどうするのよ」

「そらー勿論、鍋にでも…え?ん?」

 古ぼけた分厚いノートを見つけたトオルは

「なんだコレ」

「えっ、なに?なに?」

「へへっ、デ●ノートだったりして」

「またぁなにバカ言ってるのよ」

 アキラの言葉が終わるのを待たずにノートを広げた途端、間近で雷を浴びたかのような目の眩むばかりの光と轟音に包まれた。

「キャーーーーー!!」

 思わず両手で耳をふさぎ目を閉じたアキラが、恐る恐る目を開けると、静寂の戻った茂みにトオルの姿は無く、古ぼけたノートだけが残されていた。

ひとしきりトオルの名前を叫び近間を探し回ったアキラは、いつしかノートが落ちている場所に戻っていた。

 数分前の閃光と轟音に怯えながら躊躇いがちに手を伸ばし、ノートを拾い上げると静かに胸元で抱きしめた。その間、何度も開いてみたい衝動に駆られたが、あの恐怖が蘇るのだ。手に伝わる鼓動を感じていたアキラは意を決し、ノートを凝視したまま中央付近を思い切りよく開いた。何事も起こらず、アキラの目に入ってきたのは、文字一つ記載されていないページだった。

 ノートを閉じ、再び胸元に持っていくと、声にならない声でトオルの名前を呟いた。



 丁度そのとき、トオルは意識を取り戻した。



  ・・・つづく  



第2話
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