コラムタイトル

 

怪鳥音への道 (episode 1)

1974年のゴールデンウィーク、親父がわざわざ札幌まで映画を観に連れて行ってくれたのは初めてだった。
今まではお袋が小樽東映劇場に『東映まんがまつり』に連れて行ってくれていたのだから。
引率担当者が変わっての第一弾、
この日観た映画は『ドラゴン危機一発』だ。
既に小3だったと言うのに、この前後の記憶が曖昧だ。
わからないのは「自分がいつ頃ブルース・リーを識り、好きになったか?」だ。
1974年の1月から3月までを札幌の祖父母の家で過ごした。
この家ではまだブルース・リーの事を認識していなかった、あるいは、知っていても熱烈なファンにはなっていなかったはずだ。
新学期の頃(おそらく春休み期間中)に小樽の家に戻った。
この頃からゴールデンウィークまでの間にファンになったのではないかと思うのだけれども、おぼろげだ。
親父の実家には、祖母と親父の兄一家が住んでいて従兄弟が3人(学年で6年上、5年上、1年下)。
更にそこには親戚が頻繁に集まっていたので、いつも賑やかだった。
年上の従兄弟の部屋には外国人俳優のポスターが貼ってあった。
今思えばあれは平凡パンチやロードショウの付録だったのだろうと思うけど、上半身が裸で顔や胸から血を出している男のカッコ良さ!
この人の名前が「ブルースリー」と言う事は従兄弟が口にしていた。
「3時のあなた」的な番組でも頻繁に「ブルースリー」の事を話題にしていてその中で予告編的な映像も流れていたのではないかと思う。
多分こんな経験が4~5月の間にあったのだ。
さて、ロケーションを日劇に戻そう。あんなに混んだ映画館は初めてだった。
有料の2階席すらも満席だったのだ。
親父が劇場の人と交渉して、2階席の通路を席として確保してくれた(立ち見同然だけど、2階席なのだから有料だったはず)。
パンフレットを買ってもらって、席(階段)に座りリーの登場を待った。
『パピヨン』と併映だったのでこれが終わるまではおあずけだ。
な、長い!
それまでは東映まんがまつりの長編(1時間程度)がじっとして座っている限度だったのに......
なんだよ、この2時間半と言う上映時間は!
これが終わった後は椅子に座っていたような気もするからきっと『危機一発』→『パピヨン』の順番で観た人が若干名は帰ってそれで席が確保出来たのかもしれない。
なかなか闘わないチェンにイライラしながらも
(だってその前にも2時間以上待ったんだから)
「切断死体の氷」のシーンが心底おびえつつ、字幕を半分以上理解出来ない分、食い入るように観ていたらマラリンのシーン!
親父が隣にいるシチュエーションで観るマラリンのシーンの緊張感!
そしてライダーキックよりもカッコ良いキックの連続。
待ってました。これだよこれ。完全に虜だ!
売店でサントラのシングル盤を買ってもらい、帰りの車中でパンフを見て酔った(素晴らしいダブルミーニングだ!)。
帰宅し、さっそくターンテーブルにレコードを乗せて......流れて来たのは「ひや〜〜〜〜〜〜〜〜っ」と言う絶叫と格闘シーンの音。
チェンの「ゴーン!」の声のあとにメインテーマが流れる。
なるほどこれがサントラと言う物か。
レコードと言えば、円谷作品主題歌挿入歌集やマンガ主題歌集、森田健作や山本リンダのシングルしか持っていなかったので、カルチャーショックを受けた。
ちょっと大人の仲間入りをした気分だったかもしれない。
そしてようやく肝心な事を思い出した。
あの「アチャ〜!」はどうして入っていないんだ?