第1話 つのむしに想う (2000/10/29) |
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アカ、チョコバイ、ウシンクソ…、これら総じて「つのむし」の仲間は、おそらくどの図鑑にも編纂されたことのない生き物ですが、きっと皆さんよく御存知のことでしょう。さすがに私の世代(昭和40年代生れ)で「つのむし」とは呼びませんが、母方の田舎に行くと今でも「つのむし」は「ツノムシ科」の昆虫として立派に生息しています。ただ私たちが「クワガタムシ」などと勝手に呼んでいるだけなのです。
こうして育まれてきた『つのむしの世界』で、今、分類上の物議を醸しているのが多くの外産クワガタムシ達です。中には「キバナガノコギリクワガタ(Prosopocoilus giraffa)」や「カニガタフタマタクワガタ(Hexarthrius buqueti)」など、なかなか気の利いた和名を持つものもいますが、まだまだ都会から来た転校生みたいです。第一、国産オオクワガタでさえまだ「ツノムシ科」に分類されていないのですから…。 私達がこれから「つのむし」の仲間として気安くつきあっていくためには、なんとしても素敵なあだ名を付けてやらねばなりません(田んぼに住んでるのにアメリカザリガニとか、他にもブルーギル、アフリカマイマイなんてのもどうも…。ミシシッピーアカミミガメという名前を捨てた(?)ミドリガメを見習って欲しいものです)。いつの日か「世界つのむし大図鑑」を完成させましょう。 ※「つのむし」は大分県大分郡湯布院地方の方言(と思います). |
第2話 昆虫の人媒戦略 (2000/11/10) |
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今こうして私達が 「コーカサスの飼育は…」とか「アンタエウスの価格は…」 などと大手を振って発言できるのは、平成11年より外国産種の一部を「検疫有害動物でないカブトムシ・クワガタムシ」として“国”が認めてくれたおかげです(適用される「植物防疫法」は、「農林水産省 植物防疫所」のHPでその抜粋を見ることができます)。これは植物防疫の見地であることから、『この法律で「有害動物」とは(中略)有用な植物を害するものをいう』と記されています(下線部引用)。 細かいことはさておき、いろんな意味で私も少なからずその恩恵に与っている者の一人なのですが、世間一般で売買を目的とした輸入が活発化するにつれ、メディアだけでなく身近なところからもその影響や危険性についての声が聞こえてきます。つまり在来種として国内に生息する「動物」の生態系を脅かすのではないかという声です。 法律に責任転嫁するつもりは毛頭なく、またあくまで私見の範囲ですが、輸入が可能になった時点で既に生態系には何らかの影響が出ていると言えます。それが飼育個体の脱走によるものか、産卵木やマットの廃棄による残留 個体の半自然繁殖か、あるいは故意による放虫かは判りませんが、野に放たれた種の適応力、繁殖力、地域環境などのマトリックスが僅かな確率でも交われば、在来種の駆逐や雑交による遺伝子汚染に至るのに時間はかかりません。そしてこれらの偶然は必ず起こります。 閑話休題、太古の昔から様々な生物が工夫を凝らし、虫媒や風媒といった想像力豊かな方法で繁栄を重ねてきたように、今は昆虫がその姿形によって我々を魅了し、「人媒」という方法で新たな繁栄の道を探っているのかも知れません。生物学的に説明のつけられない多種多様で装飾的な飾りの本当の目的(ターゲット)は、我々人間の注意をひく為のものであると考えるならば、我々は正に昆虫の戦略にハマッていると言えませんか? 現にこうして“人”の心を巧みに動かし、まんまと国境を越えて本来の生息域から遠く離れた地にその棲家を拡大しようとしているのですから…。 けっして外国産昆虫の国内繁殖を肯定・容認している訳ではありませんが、誤解を恐れずに言うとすれば、昆虫に“国”という概念などあろうはずもなく、(これまで種の絶滅を加速させる立場であった人間が)繁栄しようとする種を“国境”という防波堤だけで阻止しようとしたところで所詮限界があるということですね。 巨きな自然の営みの中で最も頭の良い生物は人間ではなく、真の勝者は我々人間を巧みに利用している昆虫なのではないでしょうか? 情緒的な話で締めくくりますが、切に願うのは私の子供が夏休みの昆虫採集で三本角のカブトムシを採ってきたり、絵日記に色とりどりのクワガタを描いてこないことですね。 |
第3話 一度は言ってみたいこと (2000/11/26) |
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誰しもがクワガタムシの累代飼育を始めたばかりの頃、必ず先輩ブリーダーから言われた一言があると思います。 そう、「幼虫の容器には触らないように!」。 その瞬間から、我々はその言葉の呪縛から一生逃れることはできません。 確かに幼虫は非常にデリケートであり、無意味な振動や衝撃はなるべく避けた方が良いでしょう。また遮光・遮音も幼虫の発育にとっては有効であると思われます。しかし材飼育は別としても、丹精こめて作ったマットや菌床の中で幼虫が今どうなっているのか、蛹化してないか、死んでないか、・・・ それを観察しながら羽化を心待ちにするのも飼育の醍醐味だと思います。私は全ての幼虫をガラスビンで飼育していますが、それは手に取って外から観察しやすいという理由からです。もちろん幼虫そのものを取り出して直接触れるのは避けていますが…。 自然環境下での外的刺激はきっと想像を絶するでしょう。雨風はもとより、外敵あるいは同種間での生存競争…。もしかしたら常に競争相手がいる環境の方がコーカサスの角だって長く立派になるのかも知れません(チョッと言いすぎかな!?)。だから少々容器を触って見るくらい、かえって適度な刺激を与えて良いかも知れませんョ。 さて結論です。みなさん、幼虫の容器には触らないようにしましょう! …えっ? だってこれは通過儀礼みたいなもんで、必ず先輩が後輩に言う決まりになってるんですよ。 ※うわぁ〜、大先輩の方々、すいません! |
第4話 つのむしと過ごす時間 (2001/01/15) |
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最近、ずいぶんと気が長くなったように感じる。今どき結果が出るまでに何ヶ月、ヘタをすると何年も待たされるような嗜好を持つ者は、もはや「変わってる」部類に入るのではないかとさえ感じることがある。デジタル化、情報化、IT戦略…、そんな時代に乗り遅れまいと日夜しがみついている今日この頃に、昨日と「あんまり変わってない」姿のつのむし達がやけに立派に見える時がある。 …とまぁ少々詩的に入ってみましたが、この世界に足を踏み込んだら、幼虫を取り出すまでに1ヶ月、それが成虫になるのに早くて半年、長くて2年以上を覚悟する必要がありますから、「そりゃあ気も長くなるわなぁ」と思いますよね。子供の頃は、この先無限とも思える夏休みをどう過ごすかでワクワクしたものですが、その夏休みでさえコーカサスの蛹の期間より短いなんて当時は考えたこともありませんでした。でも気がつくと実際それなりの時間は流れている。不思議なもんですねぇ…。 つのむしと過ごす時間は、時代に逆行するかの如く穏やかで、しかし確実な変化を育んでいるまったく別次元の時間のようです。 |