発酵マットの作り方                    (2001/01/28)

 クワガタ飼育の入門書には必ず 『発酵マットの作り方』 が載っていますが、それを見て100人が作ったとしても、必ず100通りのマットが出来上がるでしょう。それは活字では表しきれない、数値化できない要素(五感に頼る…と言っても良いくらい)があまりにも多いからです。同じ人でも完全なリピート品を作るのは至難の技でしょう。

…が、ここで発酵マットの作成方法が難しい云々をことさら強調したところで何のメリットもありませんし、また逆に作成方法を細かに記述しても最初に述べたように実際の作業に関してあまり役に立つとは思えません。 従って、ここでは私のやり方をサンプルとして紹介させて頂くことにしました。一連の流れはごく標準的なものですが、お時間がありましたらお付き合い願いたいと思います…。


 このご時世、発酵マット飼育の魅力は何でしょう?  一時は職人的技術が要求された菌糸ビン作成も、添加剤入り菌床ブロックの普及により労せずして、しかも安価に安全に行えるようになりました(そして “結果” はある程度約束されているようなもんです)。

 では何故に私は発酵マット飼育を続けるのか、いやこだわるのか? 話は前後しますがオオクワガタに関して言えば、その累代飼育のルーツはやはり材飼育です。 しかし材飼育は最も自然に近い飼育法であるが故に、作出する個体のサイズは材の素質に依存する部分が非常に大きいわけですが、いざ良質の材となると常に容易に手に入るとは限りません。 そこで考え出されたのが産卵木や廃ホダ材をミキサーで粉砕し、幼虫の成長に必要な栄養素を自由に添加した上で、あたかも一本の“材”であるかのようなビンに詰め直すことができるマット飼育です(…と私は解釈しています)。

 つまり、材飼育に必要な栄養満点の材を擬似的に作り出すのがマット飼育の原点であり、そういう意味では菌糸ビンも材飼育の進化系として同一線上にあると言えます。

 従って栄養素を添加する加減や種類、そして結果として作出される個体の状況など、マット飼育と菌糸ビン飼育には共通する点が非常に多く、これからブリードを始められる方にも菌糸ビン飼育の前に自作マット飼育を経験することをお勧めします。マット飼育で得たノウハウは必ず菌糸ビン作成にも役に立つし、まだ菌床飼育が行えない(合わない)種類のクワガタを飼育するには避けて通れない道だからです。但し、ムシは残酷なほど自作マットの出来・不出来を評価しますよ。

前置きが長くなりますが、クワガタに使用したマットはそのままカブトに使えます。最終的にカブトが生産(?)した大量の糞(写真右奥)は良質の肥料になり、洋ラン栽培等にも適してますから、最後まで自作マットの楽しみは尽きません。見事花開くかどうか、ぜひチャレンジを!

 

 #001 準備するもの・準備すること

 準備するものはそんなに多くありません。ここでは発酵までに必要なモノを挙げます。

@容器 … 発酵させる容器です。個人的には発泡スチロール製がオススメ(20〜50g)。

A … 水分調整用。ミネラル水やポ○リが良いと言う人もいますが、私は水道水。

B水差し … 加水するのに使います。目盛りのある計量カップ(大)が何かと便利。

C添加剤 … 一般的には薄力粉やフスマ等。人によって千差万別。市販品もあります。

Dフィルタ … 発酵中にケースにかぶせます。目は細かすぎず荒すぎず…。

E敷物 … 室内で作業する時は、部屋を汚さないために。

Fオガ … 樹種は様々ですが広葉樹であることが条件です。クヌギやナラが主流かな。

Gマット(※) … 一度幼虫に使用したものを混ぜる方もおられます。お好みに応じて…。


 これも一般的に言われていますが、発酵させる容器はなるべく大きめのモノが有利です(安定した発酵が行えます)。また冬場であれば発酵を促進させる為の加温装置、つまりヒーターや電気アンカ等があると良いでしょう。最初のキッカケを与えてやるとスムーズな発熱が起こり易くなります。私は未経験ですが、クルマのトランク等を温室代わりにして発酵させる方も多いようです。

 

 #002 発酵させるオガのセット

 まず最初に行うことはオガのセットです。オガは廃ホダ(椎茸の栽培に使われたもの)を粉砕したものが多いようですが、メーカーさんからは色々と出ております。全てを使用していないので判りませんが、私はクヌギの廃ホダ粉砕オガを使用しています。

    

 オガのセットと言っても、この段階では必要な量を測って発酵容器(写真右:ここでは発泡スチロールケース)に移し替えるだけです。 この時、ふるいに目通しして粒子を整える方もいます。私も最初のうちは超微粒子(笑)に選別していましたが、目減りするし結果にも大差ないと感じましたので、今ではそのまま使用しています。

 

 #003 添加剤を加える

 発酵マットの命である添加剤の投入です。だいたい容積比で5〜10%が目安となりますが、これは添加剤の種類によって大きく変わります。またあくまで私の例ですが、最初の添加は薄力粉のみ、2次発酵の際(4〜7日後)にきな粉、そして最後にグルタミン酸調味料を加える等、段階的に添加物の種類と量を変えていく場合もありますので、綿密な計算が必要になります(タンパク質の多いものを後で加えた方が腐敗が起こりにくくなります)。市販品を使用する場合には、その商品の説明書に従ってください。また均等に混ぜるため必ず加水前に添加してください。

 添加剤の種類としては前述のモノ以外に中・強力粉、フスマ、麦芽、ヌカ、イースト、プロテイン、ヨーグルト、蟹ガラ、…などありとあらゆるモノが試されているようですが、それらはインターネットや書籍でも公開されていますので参考にしてください。また使用済みのマットや菌糸カス等を添加する場合がありますが、これらは幼虫にとっての環境を整えるという意味合いがあるようです。色々やってみないと判りません。

 

 #004 水分の調整

 次に水を加えて水分量を調整します。元々オガが持っている含水量で加水の割合も違ってきますので、これはよく言われる「握って形が崩れない程度」が適量です。

 特に難しい作業ではないので、均等に行き渡ることだけ注意してください。

 

 #005 カバーをして待つ

 カバー(フィルタ)には保温、通気、ムシよけの大きく3つの目的があります。保温と通気は相反する要素ですが、私は不織布を適当に切って使用しています。目安は、布を口に当てて「フゥー」と息を吐いた時に少し抵抗があるくらい。但し保管場所や季節、天候等にも左右されますので、蒸れ過ぎや乾燥しすぎにならないように注意してください(抽象的ですが…)。 

 

 #006 出来上がりまで

 さて、カバーをして早ければ翌日、遅くとも 2〜3日以内には発酵による発熱が始まり、その温度は65〜75℃くらいに上昇します。 それに伴い特有の発酵臭が発生しますが、慣れてくるとこの臭いの具合で出来栄えが予測出来るようになり、判断が早いほど修正も容易になってきます。最初に「五感に頼る」部分と書いたのはこのことです。

 また攪拌(かくはん)についてもよくご質問がありますが、私の場合は発酵熱が収まるまで攪拌は行いません。マットの温度が常温+αになった時点で最初の攪拌を行い、同時に2次発酵の為の添加剤を加えます。 1次発酵が上手くいっていると、より高タンパクな素材を添加しても腐敗臭を抑えることが出来、失敗が少なくなります。

 右の写真は発酵前後のマットの状態を比較したものですが、色も濃く、水分もちょうど良いくらいに飛んでいます。またよく出来たマットほど無臭に近くなる、というのが私の意見ですがいかがでしょうか? この状態になるまで約1ヶ月を要し、更に半月ほど寝かせるとより熟成されたマットが完成します。

 

 #007 最後に…

 以上が仕込みから完成までを急ぎ足で追ってみた発酵マットの作り方です。クワガタへの使用を前提としていますが、抽象的であまり参考にならなかったかも知れませんね。 実際いくらレシピをメモっていても、私自身が同じモノを2度と作れない(笑)のですから、その辺はご容赦頂きたいと思います。でも失敗を繰り返していくのも楽しいですよ。

 しかし油断してはいけません。ここからが本当のマット飼育の始まりなのです。オオクワの場合、マットはなるべくカチカチに詰め 「これは栄養満点の“材”なんだ」と幼虫に(自分にも)言い聞かせてください。ヒラタ系には水分を多く、柔らか目に詰めてください。ノコやミヤマは別のレシピになりますが、根食いと言われる彼らの食性をイメージし、なるべく自然に近い環境を提供してやることが重要です。

 このように自分が育てる相手の生活環境を理解し、こちらから相手の生活の場に飛び込んでいく、カッコよく言えば「幼虫になりきる」ことですね。そうすれば彼らの望むご馳走がどんなモノかが判ってくるし、このことは菌床飼育にも必ず役に立ちます。

HOME