菌糸ビンの作り方                    (2000/11/26)

 今や誰もがその実力を認める菌糸ビン

 本格的(?)な菌糸ビン作成は、オガコや種菌(コマ菌…左写真はヒラタケのコマ菌)選びに始まり、無事に完成するまでにはかなりの神経と労力を要する作業でした。しかし今では、安価で良質の菌床ブロックが普及してきたため、その作業は非常に楽なものになってきたと言えるでしょう。(完成までの手間や成功率を考えると、もしかしたらマット作りよりも簡単かも知れません)。

 そこで今回は、手軽に出来る菌床ブロックを使った簡単な菌糸ビン作成法を紹介したいと思います。

 

 

 #001 菌床を選ぶ

 菌床ブロックから作るとはいえ、菌種はもちろん、培地であるオガコの種類や含水量、添加剤の有無、容器の選択、そしてどのクワガタのためにどのくらい作るのか、予算は、etc…といった様々な要素を加味して決定しなければなりません。

(※一般的には、1ブロック 2.7g・3.5g といった単位で購入できます)

 菌種はヒラタケやオオヒラタケが普及しているように思います。また、オガコにもクヌギ、ナラ、ブナ、エノキ等の種類があり、正直「このクワガタにはこれがオススメ!」と断言できるほど私も経験がありません。ここでのポイントは、@多少高くついても実績のあるモノを選ぶA自分好みにアレンジできる低コストの素材を選ぶ、の2点です(もちろん実績のある低価格なものがあればベスト)。この辺の判断は経験者に聞くのが一番良いと思いますが、インターネットでチョチョイと検索すれば情報がいくらでもありますので、ぜひ研究してみてください。

 

 #002 準備するもの・準備すること

 だいたい以下のモノが揃えば大丈夫でしょう。

@容器 … 菌糸ビン作りに不可欠。ガラス、プラボトル、プリンカップ等が代表的です。

Aコンテナ … ブロックを崩すのに使います。大きすぎず小さすぎず。

Bコテ … ブロックを崩すのに使います。形によっては詰め作業にも使えます。

Cヘラ/ナイフ … 菌床ブロック表面の皮を剥ぐ時に使います。あると便利。

Dスリコギ等 … ビン詰めに使います。今は使いやすい専用のハンドプレスもあります。

E穴あけ棒 … 菌糸の呼吸や排熱用の穴を開けます。容器の底まで届くものが必要。

F敷物 … 室内で作業するのが原則なので、部屋を汚さないために…。

Gフィルタ … 菌糸ビンとキャップの間に挟むもので、市販品・流用どちらでも結構です。

H洗剤 … 手・道具を洗浄します。菌床ブロックで滅菌処理までは必要ないと思います。

I添加剤 … 栄養素と考えてください。基本的にマット飼育と変わりません。

J菌床ブロック … 言うまでもないですね。どのくらい使うのかをよく計算してください。


 特に容器は、どういう種類の何令幼虫をどのくらいの期間育てるのかを考えてください。「大きな成虫にするなら大きな容器で育てる」が持論ですが、成長過程によって使い分ける必要が生じます。菌床が劣化する前に7割がた食べてしまう大きさが理想的と思われます。 写真は私がよく使う道具の一例です。人それぞれに使い易いものがあると思います。形式にとらわれるより「手に馴染む」道具を使うのが一番です。

 

 #003 菌床ブロックの粉砕

 菌床ブロックを袋から取り出したら、まず表面に付いた薄皮を剥ぎます。あまり細かい(薄い)ものは気にしなくても大丈夫でしょう。

    

 次にコテを使ってブロックを崩していきます。この時、 細かく崩す人もいれば、多少の塊を残す人もいますが、私はあまり粗目を好みません。理由は、添加剤をなるべく均等に混入させたいということと、経験上あとで容器に詰めた時に、隙間に水が溜まりやすくなるからです(後述)。

 またコテを使わずに、裏ごしの要領で バーベキュー用の金網を使って粉砕する方法や、袋の上から足で踏んで崩す方法もあるようですが、これも良い方法だと思います。

 

 #004 添加剤を加える

 ブロックがほぐれたら、好みの添加剤を加えます(添加剤を使用しない場合は省略)。この状態のオガコは、マット作成時のオガよりはるかに水分を持っていますから、できるだけ均等に混ざるように気をつけてください(ボソッと入れてしまうと面倒です)。

 添加剤の種類は人それぞれですが、私は薄力粉 ・きな粉程度にしています(たまにグルタミン酸調味料も)。いずれもマット作成時より少ない比率で添加しています。

※この配分については私も「こうだ」と言い切れません。感覚的には体積比で10%前後を加えますが、メーカーの方でも添加している場合があるので、よく確認したほうが良いでしょう。また経験上ですが、ヒラタ系は添加剤の好みがウルサイようです。

 

 #005 ビン詰め・穴あけ

 いよいよ菌糸ビンのカタチになる作業で、ワクワクする手順です。

 容器はそれぞれ自分が選んだガラスビン、プラボトル、あるいはプリンカップを使用しますが、ガラスビンやプラボトルはやや固目、プリンカップは材質上極端な固詰めができないので、適度な力加減で詰めてください。(※ガラスビンやプラボトルも、体重をかけるようでは固すぎです。「腕の力+α」くらいが良いでしょう。疲れますが…)。この時、ビンの隅々まで行き渡るように詰めることを忘れずに。ビンの壁面に隙間ができていると水が溜まりやすくなります。

 

 詰めてしまったら、菌床の上面中央部から底に届くくらいの穴を開けます。これは菌糸の呼吸・排熱用の穴で、これがないと菌糸がすぐに衰えてしまいます。

 穴の壁面を崩さないように、先端のやや尖った棒を使って慎重に穴を開け、また抜く時もゆっくりと棒を回転させながら抜くと上手くいきます。棒の表面は、なるべくツルツルしている方が望ましいですね(私はここでも¥100SHOPの園芸用スパイクを利用しています)。

 

 #006 フタをして待つ

 以上で基本的な作業は終了です。あとはフィルタを挟んでキャップをしたら、上手く菌糸が回るのを待つだけです。この時のフィルタとキャップですが、どちらも通気を妨げない物を使用してください。

 フィルタはスポンジ状のものやタイペスト紙等が売られていますが特にこだわる必要はありません(私は「油こし紙」をトコトン流用しています … “ちょっとお役立ち”参照)。

 またキャップもマット飼育に使うものがあれば十分ですが、容器の中に水滴が点きすぎていれば穴を増やすか大きくする、もしくはフィルタの目を粗いものに変えてください。逆に乾燥しすぎる場合はその逆です。


 下の写真は、私が自家用に作っている特大プリンカップでこしらえた菌糸カップです。(よく通販のSHOPから成虫を入れて送ってくる奴ね。 ただし、大きなプリンカップは菌糸ビンの容器としてはあまり適していません。理由は後で述べます)

 当日から5日後までを撮影したものですが、だいたい5日目くらいから使用しています。ただし添加剤の種類や量、環境によって若干の調整が必要になります。

 

 #007 出来あがり!

 詰めてから5日目くらいには使用可能な状態になることを考えると、マット作成に比べ非常に早い時間で次の餌を準備することが出来ますね。またハイコスト・ハイパフォーマンスというイメージの菌糸ビンも、安価で良質の素材があれば以外にお金はかからないものです。


 という訳で、以上簡単ですが『菌床ブロックを使った菌糸ビンの作り方』です。

とは言うものの前にどこかで書いたと思いますが、私はマット飼育を主体でやってますので、菌床飼育に関してはもっと参考になるHPや文献があると思います。 このページは、菌糸ビン作りって難しそうだな、と思って今一歩踏み込めなっかた方のキッカケにでもなってくれれば幸いに思います。

 

 #008 (おまけ1) 容器について

 菌糸ビンの容器はガラスビンやプラボトルが一般的ですが、私は特大プリンカップを自家用で使うことがあります(通常は若令幼虫用に250ccくらいまでの菌糸カップが市販されてると思います)。 プリンカップを使う理由は、まず容器代が安いこと、餌交換の時に「ポコッ」とプリンのように取り出せること、などのメリットがあるからです。

 しかしデメリットも少なからずあって、まず容器自体の強度が弱いということ。 これは固詰めに適さないということであり、カップを持ち上げたりした時に指で押さえた部分に隙間ができてしまいます。するとそこに水が溜まりやすくなって、結果的に菌糸の劣化を促進する原因の一つになってしまうのです(容器が大きくなるほど顕著になります)。

  下は同時期に仕込んだガラスビンとプリンカップの比較ですが、写真からもその出来栄えの違いが判るでしょうか? 菌糸の回り方やキメの細かさはガラスビンの方が優れています。またプリンカップの方はすでに結露が始まっています。

 この辺の性質の違いを理解した上で容器の選択を行ってください。 またマット作りと大きく異なる点がもうひとつ。それは「菌糸ビンはビンで作る」ということで、つまり幼虫を飼育しているのと同数の容器が菌糸ビンの作成段階で必要になるということです。使わない時に重ねてコンパクトに収納できるプリンカップは、省スペース面でも優れています。

 

 #009 (おまけ2) 添加剤について

 写真は左から「薄力粉添加」、「グルタミン酸調味料添加」、そして無添加の仕上がり具合です。マットでもそうですが、グルタミン酸調味料を添加すると非常にキノコ(を含む雑菌も)の発育が良くなりますので、マメに除去した方が良いでしょう。本来幼虫にいくはずの栄養がキノコに取られてしまいますからね。

※添加剤の使用については、プロの方でも研究に研究を重ねておられます。「生兵法は怪我の基」と言いますが、添加物の種類や量によっては本来の性能をスポイルしてしまったり、下手をすると腐敗を招いてしまう結果になりかねませんので、最初から冒険はしない方が賢明です。そのうちきっと自分流の作成法が身につくと思います。

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