第2話 昆虫の『人媒』戦略   (2000/11/10)

 今こうして私達が 「コーカサスの飼育は…」とか「アンタエウスの価格は…」 などと大手を振って発言できるのは、平成11年より外国産種の一部を「検疫有害動物でないカブトムシ・クワガタムシ」として“国”が認めてくれたおかげです(適用される「植物防疫法」は、「農林水産省 植物防疫所」のHPでその抜粋を見ることができます)。これは植物防疫の見地であることから、『この法律で「有害動物」とは(中略)有用な植物を害するものをいう』と記されています(下線部引用)。

 細かいことはさておき、いろんな意味で私も少なからずその恩恵に与っている者の一人なのですが、世間一般で売買を目的とした輸入が活発化するにつれ、メディアだけでなく身近なところからもその影響や危険性についての声が聞こえてきます。つまり在来種として国内に生息する「動物」の生態系を脅かすのではないかという声です。

 法律に責任転嫁するつもりは毛頭なく、またあくまで私見の範囲ですが、輸入が可能になった時点で既に生態系には何らかの影響が出ていると言えます。それが飼育個体の脱走によるものか、産卵木やマットの廃棄による残留 個体の半自然繁殖か、あるいは故意による放虫かは判りませんが、野に放たれた種の適応力、繁殖力、地域環境などのマトリックスが僅かな確率でも交われば、在来種の駆逐や雑交による遺伝子汚染に至るのに時間はかかりません。そしてこれらの偶然は必ず起こります。

 閑話休題、太古の昔から様々な生物が工夫を凝らし、虫媒や風媒といった想像力豊かな方法で繁栄を重ねてきたように、今は昆虫がその姿形によって我々を魅了し、「人媒」という方法で新たな繁栄の道を探っているのかも知れません。生物学的に説明のつけられない多種多様で装飾的な飾りの本当の目的(ターゲット)は、我々人間の注意をひく為のものであると考えるならば、我々は正に昆虫の戦略にハマッていると言えませんか? 現にこうして“人”の心を巧みに動かし、まんまと国境を越えて本来の生息域から遠く離れた地にその棲家を拡大しようとしているのですから…。

 けっして外国産昆虫の国内繁殖を肯定・容認している訳ではありませんが、誤解を恐れずに言うとすれば、昆虫に“国”という概念などあろうはずもなく、(これまで種の絶滅を加速させる立場であった人間が)繁栄しようとする種を“国境”という防波堤だけで阻止しようとしたところで所詮限界があるということですね。

 巨きな自然の営みの中で最も頭の良い生物は人間ではなく、真の勝者は我々人間を巧みに利用している昆虫なのではないでしょうか?

 情緒的な話で締めくくりますが、切に願うのは私の子供が夏休みの昆虫採集で三本角のカブトムシを採ってきたり、絵日記に色とりどりのクワガタを描いてこないことですね。

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