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【高知県が県立施設指定管理を公募へ~美術館、植物園など事業拡大狙い~】を読んで
高知新聞 2025年8月1日(25面)こうちワイド1

 三十年前に県立美術館開館時の職員として高知県文化財団に身を置き、開館させた翌年は県の担当課の職員として主管した者としては、二十年以上経っても本来の制度理解がされていない指定管理者制度の問題にゲンナリ感のほうが先立つ思いだ。

 公の施設の管理について、従前の管理委託制度から指定管理者制度への移行が始まった当初から、国による制度運用指針ともいうべき行政実例に示されていたように、そもそも指定管理者制度では指定期間中の精算などすべきでないとされていたにもかかわらず、管理委託制度における委託料精算と同じ精算方式をずっと続けてきていることのほうが問題なのに、今回、県政運営指針のⅡの基本方向4「公社等外郭団体を活用する」のポイント3「公社等外郭団体の自立性の向上及びガバナンス強化を支援する」の取組①【「自律性向上団体」の取組を支援する】のウにおいて指定管理者の選定について、直指定の施設を公募へと切り替え、代行料の精算を免除として公募と精算免除をセットにした見直しを支援策として掲げてきたことに対して、関係者から反発や不安、戸惑いといったものが生じているようだ。

 肝心要は、①自律性向上団体に挙げられている「○…代行料の精算を免除」の代行料の算定の部分で、運用が捻じ曲げられて精算を続けていたものを免除の名のもとに、赤字でも黒字でも知らないよというような臨み方で代行料そのものを値切ってくるための競争に掛ける意図での公募であれば、提供サービスすなわち質の低下に直結してくる。これについては、地元紙の報道によれば、県行政管理課は県内事業者を対象にした募集が基本。施設に払う管理代行料を削る考えはない。自主的に収益を上げ、団体運営に生かしてほしいと述べたと報じているが、これは公式文書に記載されたものではないので、この部分は、きちんと「指定管理者による適正な管理運営の確保に関する基本方針」において明文化される必要がある。知事が公募はいわばテスト。そんなに競合相手が出てくるとは思わない。県民の評価があれば、引き続き指定される方向に動くだろうと述べたことも併せて報じられていたが、そういう意味でのテストというのは、同基本方針に定められたモニタリングを毎年課し、結果公表もしてきているのであって、公募の必要性の理由にはならない気がする。

 私見に過ぎないが、公募への拘りは執行部側よりも議会サイドのほうに強くて、そこには行財政運営に係るアウトソーシングによる経費節減という文教行政におよそ馴染まない乱暴な思考が働いている気がする。それに対して、知事の言う「そんなに競合相手が出てくるとは思わない」との思惑の元に、議会筋の声を汲み取ったに過ぎないという気もしなくはない。

 これを機に、従前どおりの代行料を担保したうえで黒字分の返還を求めず、むしろ積極的に稼いで、6月の県議会総務委員会資料の【効果】に挙げているところの「団体職員の処遇改善、人材確保」に回せるようにするのであれば、悪い話ではない。だが、それは本来、公募とバーターにするような話ではないのが、指定管理者制度というものだ。この指定管理者制度と合わせて語られることが多い利用料金制度については、世間では誤った認識が一般化している気がするが、指定管理者制度とセットになって始まったものではなくて、公の施設の管理委託制度の時代から、制度的には設けられていたものだと記憶している。使用料の徴収業務代行ではない利用料金制の採用が広がったのが指定管理者制度の発足に伴っているに過ぎない。

 ともあれ、指定管理者に予め支払う委託料【代行料】を維持するか削減し始めるか、ということのほうが公募か否かということよりも重大だし、注視すべきところだと思うのだが、美辞麗句の元に専ら「代行料の引き下げ」を図ろうとしていると受け取られているから、疑念を招いているのだろう。なお当然ながら、維持とは水準の維持であって金額の維持ではない。昨今の急激な物価上昇にあってただ金額を維持すれば、それは実質的削減であるのは言うまでもない。
by ヤマ

'25. 8. 1. 高知新聞(25面)こうちワイド1



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