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『ナイアガラ』(Niagara)['53] 『紳士は金髪がお好き』(Gentlemen Prefer Blondes)['53] | |||||
監督 ヘンリー・ハサウェイ 監督 ハワード・ホークス | |||||
虹射す瀑布となまめかしい寝姿のローズ・ルーミス(マリリン・モンロー)で始まった『ナイアガラ』は、半世紀近く前にテレビ視聴して以来となる再見作だが、記憶にあった以上に、マリリンよりもポリー・カトラーを演じたジーン・ピーターズの映画だったような気がする。モンロー・ウォークに揺れる尻にレイ・カトラー(ケイシー・アダムス)の眼が釘付けになって、ポリーの顔に不興の影が差す場面では、マリリンのヒールに注目したけれども、特に違和感は感じられず、流石だと思った。 やはりローズの夫ジョージ・ルーミス(ジョゼフ・コットン)の人物造形が今一つだったように思う。いくらローズに溺れて事業で失敗を重ねた挙句に、浮気もされながら未練断ちがたいという、とことん惨めで情けない自分に貶められ、苦しんでいたにしても、流石に気が知れない感じのほうが強かった。また、ポリーの巻き込まれ方にも、釈然としない部分がつきまとい、しっくりこなかった。 だが、悪女ローズを演じて只ならぬ淫蕩感を体現していたマリリンには大いに感心し、より歳を重ねた三年後の『バス停留所』['53]では酒場の唄歌いシェリーを演じて“色香と純真の類稀なる混交”を見事に体現していたことに、改めて感心した。 また、ナイアガラ映画ということでは、二年余り前に初めて観たジャクリーン・ビセットの『経験』['69]を思い出し、国境問題がここでも活用されていることにほくそ笑むとともに、どちらの作品が、よりナイアガラ観光映画なのだろうと思ったりした。クルージングほかの観光メニュー自体は、こちらのほうがより詳しかった気がする。ミステリーという点では、本作で図らずも想起させる場面のあった『めまい』['58]のほうがスリリングだったような気がした。 同年の作品で、マリリンとジェーン・ラッセルのデュオ・ステージで始まる『紳士は金髪がお好き』のほうは、部分的には随所に見覚えのある場面が登場したが、全編通して観るのは初めての映画だと思う。黒髪のドロシー・ショーを演じるジェーン・ラッセルの気っ風の良さと、金髪のローレライ・リーを演じるマリリン・モンローの屈託のなさが好対照を見せていて、その踊りと歌に観惚れてしまった。マリリンのあざといまでにねっとりした歌い方は、余人がやれば悪趣味でしかないのに、彼女だと笑いを誘われつつ魅せられてしまう。 色目を使って金持男や美男を誘惑することにしても、カネにあかせて女性を手中にしようとすることにしても、人の弱みを探って隠し撮りや録音でカネにする探偵稼業にしても、本作に登場する人々の行いは、あまり褒められたことではないながら、誰にも悪びれたところがなく、あっけらかんとしているものだから、あれよあれよと寄り切られてしまう。その姑息さにおいて唯一見苦しかったのは、ローレライにねだられて妻が自慢にしているティアラを彼女に与えてしまったことから逃げ出すピギーことビーグマン卿(チャールズ・コバーン)だけだったような気がする。「バレたらまずい関係のほうがおねだりしやすわ」と歌うローレライに恐れ入る。 パリのキャバレー公演の舞台に登場した、幾人もの女性を吊り上げて飾ったシャンデリア然とした装置の如く、悪趣味と華麗の塀のうえを軽々と渡り歩いているようなハワード・ホークスの演出が印象深く、♪Diamonds Are A Girl's Best Friend♪に圧倒された。 ローレライから矢庭にキスをされて目を白黒させながらのぼせているガス・エズモンド(トミー・ヌーナン)にドロシーが「口紅に麻酔でも混ぜたの?」と言う台詞がおかしく、最後のパリの法廷場面でのドロシーの活躍が面白かった。カネ目当てを公然としつつも、ローレライがガスの愛嬌に絆されて心を寄せ、カネ目当てだけではないことを探偵のアーニー・マローン(エリオット・リード)に訴えるドロシーの真意を解した彼が、証言を翻すところが好い。かなり危なっかしい話を気持ちよく観終えさせるのは、ここに登場した人物の誰一人もが、自らの心を偽った生き方をしておらず、また、自身が取っていた立場に固執しない点だろうと思った。ガスの父親(テイラー・ホームズ)など、その最たるものだ。改心などではなく只の変心として、皆人が恬淡としているところが好い。 *『紳士は金髪がお好き』 推薦テクスト:「八木勝二Facebook」より https://www.facebook.com/katsuji.yagi/posts/pfbid0yxhKLh9n4WReJSULWFnPvZUW m2yKg4bqWvazu2tx9c51CJo3KFJv1NqcEzLy2fXxl | |||||
by ヤマ '23.11.24. BD観賞 '23.12. 4. DVD観賞 | |||||
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