『見えるものと見えないもの -画家 大﨑真理子のみた風景-
監督 筒井勝彦

 本作の主要部を占めていた、二年前に高知市文化プラザかるぽーと7F市民ギャラリーで開催された「大﨑真理子展」を観た際の観覧備忘録に将来を嘱望されながら美術大学院在学中に夭折した地元出身洋画家の遺作展だ。最も惹かれたのは、「不審者みたら110番」の文字だけが妙に鮮明な大作『見えるものと見えないもの』(2017)で、風景に漂う妖気のうねりというか、圧倒的なエネルギーに感心した。そこに描かれたカーブミラーとガードレールをモチーフとする作品群がすべて『見えるものと見えないもの』と題されていたようだが、まさにそのカーブミラーとガードレールをクローズアップした(2010)も妖しくて気に入った。
 また、僕の好きな緑色と黄色と青で構成した『あの日のユンボ』の中央部に朧気にユンボの形を黄色く留めた作品にも惹かれた。同名3作品のいずれを僕の選出とするかと迷いながら繰り返し観たのち(2018)を採ることにしたのだが、もらったチラシを後で見たら奇しくも(2018)が裏面に掲載されていた。
と残していた画家のドキュメンタリー映画が出来たとの知らせを受けて観に行ったところ、展覧会での観覧を補足して余りある情報が手際よく収められていて、なかなか感慨深いものがあった。

 少し早めに会場に着いたので、1階ロビーにて併設されていた「『あの日のユンボ』迄の歩み」と題された作品展示を観覧したうえで映画を観たら、展示作品のなかでも特に目を惹いていたカーブミラーの場所と木に掛けた針金ハンガーの実写画像が現われてニンマリしたが、作中で教え子たる大﨑真理子の画業を解説していた法貴信也京都市立芸術大学教授によると、彼女にとってとりわけ重要なモチーフだったらしい。この法貴教授による解説がなかなかよくて、画家の制作過程をリアルタイムで知っていればこその単なる解説に留まらない敬愛が籠っていて、感銘を受けた。

 ピアノ曲による簡素で美しい音楽が、温度を描きたいと言っていたという画家の志していた普通の絵画の精度を上げることによってもたらされるシンボリックな美しさに見合っていて沁みてきた。そして、とても感覚的に描出されているように映る作品の背後に、思いのほか細分化されたモチーフの習作が数多く制作され、非常によく練られた構成によって画面の出来上がっていることが、シンプルな音楽として聞こえてくるピアノ曲ながら構成している音の数と多彩による美しさに通じてくるものがあるように感じた。

 不慮の事故によって二十三歳で逝去したことが惜しまれると改めて思った。映画のなかに現れた国道五十六号線沿いの土筆のショットが印象深かったが、画家としての彼女のスギナとなった画業を観てみたかったものだと思った。





【追記】'23. 8.24.
 あたご劇場で【完全版】を観てきた。一年前に観たヴァージョンより随分とよくなっている気がして、驚いた。
 観賞後、ロビーにいた筒井監督に、その旨伝えたうえで、細部まで記憶しているわけではないが、どう変わってどれほど長くなったか訊ねると、10分ほど長くなっているとのこと。前回の上映後、お母さんから大量のプライベート動画や画像の提供を受けて、編集し直したそうだ。それによって亡き画家大﨑真理子のイメージに変化が生じたりしたわけではないが、厚みが加わっていたのだろう。
 帰宅後、改めて今回の上映のチラシを見てみると、表面に印刷している【上映時間】52分というのは、「FHD/カラー/2022年/JAPAN」と続いているので、前回版のものと見込まれる。裏面には大きく上映時間70分と印刷されているところからすると、18分とかなり長くなっているようだった。最後の矢野絢子の歌らせん階段とともに流れる画像がすっぽり変わっていた気がする。
 確か前回は、本編からの再掲画像が大半で却って印象を削いでいる気がした覚えがあるが、今回は、新たに提供を受けたプライヴェート画像で綴られていて、とても感慨深く観終えられる形になっていたように思う。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/5980633215369545/
by ヤマ

'22. 7.25. 土佐市複合文化施設つなーで



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