『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY
 (I Wanna Dance with Somebody)
『センチメンタル・アドベンチャー』(Honkytonk Man)['82]
監督 ケイシー・レモンズ
監督 クリント・イーストウッド

 連日で唄歌いの映画を観た。ゴスペルがルーツのR&Bシンガーのホイットニーとカントリーをベースにしたホンキートンク・マンの物語だった。

 先に観た『ホイットニー・ヒューストン』では、今は亡きホイットニー自身の歌唱を本当に歌っているように見せる技術力が素晴らしく、取り立てて彼女のファンでもない僕がグッとくるような歌声に、改めてその凄さを感じた。R&Bを越境したポップス色の強い黒人シンガーということでは、ホイットニーの先人となるシャーリー・バッシーのほうが、僕にとっては同時代感が強くて好きなのだが、それでも本作での歌唱は圧巻だった。

 最初に母シシー(タマラ・チュニー)の代わりにステージで歌っていたのは、♪Greatest Love Of All♪だったと思うが、クライヴ(スタンリー・トゥッチ)ならずとも思わず立ち上がりたくなるような美声量だと思った。他の曲にしてもそうだろうが、数々残っているホイットニーのパフォーマンスのなかでも選りすぐりで編集してきているのだろうから、どの歌声も見事で当然とも言える。それにしても、彼女を演じたナオミ・アッキーの歌唱合わせが見事だった。

 2012年に僅か48歳で亡くなったということだったから、ちょうど十年になるわけだが、クレジットされていた数々の1位記録の綺羅星の如き煌めきに今更ながら驚いた。音楽映画は、やはりスクリーン観賞に限るなとしみじみ思った。


 翌日観たのは四十年前の映画『センチメンタル・アドベンチャー』だ。前日に『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を観たばかりということもあるかもしれないが、やはり唄歌いの映画は、いいなと改めて思った。ホイットニーは四十八歳で亡くなっていたが、レッド・ストーバル(クリント・イーストウッド)は、いくつで死んだのだろう。演じたイーストウッドは、このとき五十過ぎだったようだから、ほぼ相応としたものだろう。

 とても十六歳には見えない甥っ子のホスことホイット(カイル・イーストウッド)を酒場や売春宿、博奕場へと連れ回し、唄のみならず、酒も女も、男が命を懸けて挑む姿も教えて、静かに去って行っていた。全くハチャメチャな伯父だったが、あの酷い酒浸りもアル中というよりは胸の痛みを紛らわせる必死の策だったわけだ。ホスは、きっといい唄歌いになるだろうと思わせてくれるエンディングが気に入った。

 エンドロールに劇中で流れた楽曲のクレジットが現れなかったが、誰の手によるものなのだろう。レッドの弾き語りは、なかなか味があったように思う。その彼の名と被る西部劇『When a Man Sees Red』のポスターにヒントを得てホスがレッドを脱獄させていたので、邦題は何だろうと調べてみたが、判らなかった。日本未公開の映画なのかもしれない。役名のレッドは、きっとここから来ているに違いない。

 同作は1934年の映画とのことだったが、本作の舞台は、ホスの祖父(ジョン・マッキンタイア)が生まれ故郷のテネシー、ケンズビルを1893年九月のランドラッシュで離れて四十五年になると言っていたから、1938年ということになる。ホスの筆おろしの花代が2ドルで、ハイウェイパトロールの買収が10ドル、印税なしの買取代金が1曲20ドルだったから、1ドルが今の3~5000円くらいの相場感ということになるだろうか。八十四年も前の物語だ。

 ホスが作詞に加わっていたホンキートンク・マンが原題になっていて、字幕ではしがない流しの俺と訳されていたが、酒場の唄歌いといったところだろう。誰でも名を上げたい…(彼にとっては)最後のチャンスだと言っていたスカウトマンの言葉どおり、カーラジオの放送でレッド・ストーバルの名前が流れていたのは、埋葬の直後で些か早すぎる気がしたけれども、エンディング曲に繋がるいい運びだと思った。酒場の唄歌いが最後のチャンスでレコード歌手になり、名を上げていたが、甥っ子にそれ以上のものを遺して逝っている姿が沁みてきた。

 聞くところによると、本作は、作家のノーマン・メイラーがジョン・フォードを引き合いに出して褒めた映画なのだそうだ。ジョン・フォードを引き合いに出すには、少々緩慢なところがあるように思うが、それは脚本のせいということなのだろうか。牛に突っ込まれる風呂のエピソードなどは要らないような気がした。しかし、最後の十五分余が堪らない。なかなか好い映画だ。




*『センチメンタル・アドベンチャー』
推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/4740140722752140/
by ヤマ

'22.12.27. TOHOシネマズ2
'22.12.28. DVD観賞



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