TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Songs of the Clown   Op.29
道化の歌

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド

曲: コルンゴルト (Erich Wolfgang Korngold,1897-1957) オーストリア→米 英語


1 Come away,death
1 来たれ、死よ

Come away,come away,death,
And in sad cypress let me be laid;
Fly away,fly away,breath;
I am slain by a fair cruel maid.
My shroud of white,stuck all with yew,
O prepare it;
My part of death,no one so true
Did share it.

Not a flower,not a flower sweet,
On my black coffin let there be strown;
Not a friend,not a friend greet
My poor corpse where my bones shall be thrown;
A thousand thousand sighs to save,
Lay me,O,where
Sad true lover never find my grave,
To weep there.

来たれ 来たれ 死よ
そして悲しみの糸杉の中に横たえてくれ
飛び去れ 飛び去れ 命よ
美しく冷酷な女に殺されたのだ
白き死装束を イチイを縫い付けて
おお 用意してくれ!
わが死のありようは どんな誠実な者にも
分かち合えるものではない!

一輪の花さえ 一輪の甘い花さえ
黒い棺の上に撒かせたりしないでくれ
ひとりの友さえ ひとりの友さえ見送るな
このみじめな亡骸が 骨が打ち捨てられるときに
千回の 千回の溜息は胸にとどめて置いてくれ
横たえてくれ おお
悲しき本当の恋人すら 墓を見つけられないところに
そこで涙にくれようとした場所に


2 O mistress mine
2 おお、わが恋人よ

O mistress mine,where are you roaming?
O stay and hear! your true-love's coming
That can sing both high and low;
Trip no further,pretty sweeting,
Journey's end in lovers' meeting—
Every wise man's son doth know.

What is love? 'tis not hereafter;
Present mirth hath present laughter;
What's to come is still unsure:
In delay there lies no plenty,—
Then come kiss me,Sweet and twenty,
Youth's a stuff will not endure.

おお おいらの恋人よ どこへ行くんだよ
待ってくれよ 聴いてくれよ せっかく来たんだからさあ
歌ならお手の物だぜ 高い声でも低い声でも
どこへも行かないでくれよ カワイコちゃん
旅の終わりは恋人の出会いだって
賢い人はみな知っているんだぜ

恋って何だい? 今この時だけのものだろ
今の笑顔が今の喜び
明日は誰にも分かんないだから
ぐずぐずしていちゃ何もできないだろ
だからキスしてくれよ 甘く 何度も
若い時はただ一度、長くは続かないのさ


3 Adieu,Good Man Devil
3 失敬しやすよ、悪魔殿

I am gone,sir,
And anon,sir,
I'll be with you again,
in a trice,
Like to the old vice,
Your need to sustain.
Who with dagger of lath
In his rage and his wrath,
Cries,aha,to the devil,aha,ha,ha!
Like a mad lad,
Pare thy nails,dad.
Adieu,good man devil.

行ってきやすよ、あんた様、
そんで、すぐだから、あんた様、
また戻ってきやすからね、
あっという間ですぜ、
古き悪徳の役さながら、
あんたの欲しいもんを調達するためにね。
木ぎれの刀持って、
逆上したり激怒したりして、
叫ぶんだよな、ハッハ、悪魔の役にな、アッハッハ!
狂った若造みたいに、
爪を切っちまえよ、オヤっさん。
失敬しやすよ、悪魔殿。



4 Hey,Robin
4 やあ、ロビン

Hey,Robin,jolly Robin,
Tell me how thy lady does.
My lady is unkind,perdy.
Hey,Robin,jolly Robin,
Tell me why is she so?
She loves another,another.

やあ ロビン いかしたロビン
あんたのレディの御機嫌いかがだね
おいらのは最近冷たいぜ チキショウ
やあ ロビン いかしたロビン
言ってくれよ どうしてそうなったんだ?
あいつめ 愛してんだ 別の奴を 別の奴を
5 The rain it raineth every day
5 だって雨は毎日降るもんだ

When that I was and a little tiny boy,
With hey,ho,the wind and the rain,
A foolish thing was but a toy,
For the rain it raineth every day.

But when I came to man's estate,
With hey,ho,the wind and the rain,
'Gainst knaves and thieves men shut their gate,
For the rain it raineth every day.

But when I came,alas! to wive,
With hey,ho,the wind and the rain,
By swaggering could I never thrive,
For the rain it raineth every day.

A great while ago the world begun,
With hey,ho,the wind and the rain,
But that's all one,our play is done,
And we'll strive to please you every day.

おいらがちっちゃなガキだった頃にゃ
ヘイ・ホウ 風と雨ばかり
悪さをしても 大ごとにゃなんなかったさ
だって毎日雨降りだったからな

だけどおいらが大人になった時にゃ
ヘイ・ホウ 風と雨ばかり
ごろつきやコソ泥は締め出されたのさ
だって毎日雨降りだったからな

だけどおいらが ああ!嫁を貰った時にゃ
ヘイ・ホウ 風と雨ばかり
威張り散らしてもまるで駄目だったさ
だって毎日雨降りだったからな

ずっと昔さ 世界が始まったのは
ヘイ・ホウ 風と雨ばかり
それもどうでも良いことさ お芝居はおしまい
こうして毎日毎日皆様を喜ばせましょう


コルンゴルトは、シェイクスピアのコメディ「十二夜(Twelfth Night)《の中で道化フェステが歌う5曲による歌曲集「道化の歌(Songs of the Clown,Op. 29)《を編んだ。オッターのCD解説書(ブレンダン・G.キャロル著/長木誠司訳)によると、演出家マックス・ラインハルトが自身のワークショップのための作品として1937年に委嘱したこれらの作品の手稿譜は作曲された後にナチスに没収・破棄されたが、その後コルンゴルトは記憶を頼りにすべて再現して、1941年6月28日にロサンゼルスで初演されたという。

歌曲集は、まるでマーラーの歌曲のような通作形式による「来たれ、死よ《で始まり、「おお、わが恋人よ《「失敬しやすよ、悪魔殿《「やあ、ロビン《そして戯曲中でも最後に歌われる「だって雨は毎日降るもんだ《で締めくくられる。第1、2、5曲の詩は多くの作曲家の作曲意欲を駆り立てたが、第3、4曲の詩に作曲したのはコルンゴルトぐらいのようだ(「失敬しやすよ、悪魔殿《にはバクスターという人が作曲しているらしい)。シェイクスピアの戯曲中ではこれら2つの歌は第4幕第2場で歌われるが、順番は4曲目の詩の方が先で、しかもこの「やあ、ロビン《は道化とマルヴォーリオとの対話の形になっており、コルンゴルトは道化の部分だけを抜き出してつなげている。

オリヴィアという姫の執事を務めるマルヴォーリオは日頃から他の人たちに対して尊大に振るまい、その事に腹を立てた何人かがマルヴォーリオをこらしめようとして悪戯をする。その結果マルヴォーリオは暗闇に閉じ込められてしまう。そこで道化とマルヴォーリオの会話となるわけだが、この「失敬しやすよ、悪魔殿《はオリヴィアに救いの手紙を書くためのろうそく、紙、ペンを持ってくるようにマルヴォーリオに頼まれた道化がそれに応じてその場を去る時に歌う歌である。詩の第6行はこの事を言っているのである。「古き悪徳(the old vice)《というのは中世から16世紀にかけての芝居に現れるお決まりの人物で「悪魔《役の相棒という設定らしい。第7~9行の描写も「悪徳《が短剣で「悪魔《を叩くという設定に則ったものだという。悪魔は爪を長く伸ばしていたので11~12行は「悪徳《が「悪魔《に捨て台詞を吐いて、その場をはけるということのようだ。こういう古い作品は芝居の伝統を知らないと理解するのが難しいようだ。詩の対訳、コメントは安西徹雄氏の解説を参照させていただきました(『十二夜』大修館書店)。

コルンゴルトの曲は、機知と諧謔という言葉の意味を教わっているかのような面白い作品である。「悪徳《と「悪魔《の会話を絡めた詩の内容にぴったりなピリッと辛口な曲で、この作曲家の詩への理解の深さと表現技術の高さをいやおうなく思い知らされる。急速なテンポで、歌とピアノが追いかけっこをしているかのようにあっという間に終わってしまう。

演奏はオッターAnne Sofie von Otter&フォシュベリBengt Forsbergの録音(DG : 1998年1月)を聴いたが、オッターが最後に”Ha”と皮肉な笑いを聞かせるところなど達者な役者そのものである。フォシュベリともども脱帽するほかない上手さである。
(2005.06.19 フランツ・ペーター)

他の4曲も2016年のシェイクスピア没後400年特集に合わせ訳詞を勝手ながら追加しました。私が今まで訳したものをベースにフランツさんの訳した第3曲とつながりの違和感がないように少し手を入れております (藤井)


( 2016.01.25 フランツ・ペーター )