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曲: 吉沢検校 (Yoshizawa Kengyo,1808-1872) 日本 日本語
いそのかみふるき都のほととぎす声ばかりこそ昔なりけれ
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石上にある往時の都でホトトギスの鳴く声だけは昔のままであった
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夏山に恋しき人や入りにけむ声ふりたててなく郭公
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郭公(ほととぎす)が声を限りに鳴いているのは、恋人が修業のため山に籠もっているからだろうか
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蓮葉の濁りにしまぬ心もて何かは露を玉とあざむく
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蓮は濁った水のなかでも清らかな心を保つと言うのに、どうして葉の露を玉のように見せかけたりするのだろう
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4 夏と秋 (Ooshikouchi no Mitsune)
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夏と秋と行きかふ空のかよいぢはかたへすずしき風や吹くらむ
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夏と秋が入れ替わるこの日、空の路では片側だけ涼しい風が吹いていることだろう
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1.素性法師(そせいほうし)作。「奈良の石上寺にて郭公の鳴くをよめる」とあります。「いそのかみ=石上」で、奈良県天理市にある三世紀後半の大和朝廷の古都。(古今集144)
2.紀秋岑(きのあきみね)作。(同158)
3.僧正遍昭(そうじょうへんじょう)作。「蓮の露を見てよめる」。(同165)
4.凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)作。「六月(みなつき)のつごもりの日よめる」。「かよいぢ」は「通い路」。(同168)
幕末名古屋の箏曲家吉沢検校(1808-72)による古今和歌集を歌詞とした「古今組」の一つ。雅楽風の前奏曲に四首の和歌を歌詞とした歌曲が続く作品ですが、例によって松阪春栄(1854-1920)の作曲による華麗で長大な手事(てごと:クラシックで言うカデンツァ)を挿入して演奏する習わしになっています。四首の和歌は古今集の収録順に並べられ、初夏から晩夏へと移り変わるようになっています。
これも「春の曲」と同じく図書館で人間国宝米川敏子と米川裕枝の歌と筝によるCDを借りて聴きました。艶やかな筝の響きと華麗な技巧、和歌の朗唱風の歌唱が楽しめます。なお松阪春栄の手事には作曲もする米川女史による補作が加えられているとのことです。
( 2005.06.16 甲斐貴也 )