萩原朔太郎に依る四つの詩 |
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1 雲雀料理
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燭に魚蝋のうれひを薫じ、 いとしがりみどりの窓をひらきなむ。 あはれあれみ空をみれば、 さつきはるばると流るるものを、 手にわれ雲雀の皿をささげ、 いとしがり君がひだりにすすみなむ。 |
2 草の莖
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ほそき毛をもてつつまれし、 草の莖をみよや、 あをらみ莖はさみしげなれども、 いちめんにうすき毛をもてつつまれし、 草の莖をみよや。 雪もよひする空のかなたに、 草の莖はもえいづる。 |
3 遊泳
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その泳ぎ手はさ青なり みなみをむき なみなみのながれははしる。 岬をめぐるみづのうへ みな泳ぎ手はならびゆく。 ならびてすすむ水のうへ みなみをむき 沖合にあるもいつさいに 祈るがごとく浪をきる。 |
4 笛
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をゆびに紅をさしぐみて、 ふくめる琴をかきならす、 ああ かき鳴らすひとづま琴の音にもつれぶき、 いみじき笛は天にあり。 けふの霜夜の空に冴え冴え、 松の梢を光らして、 かなしむものの一念に、 懺悔の姿をあらはしぬ。 いみじき笛は天にあり。 |
( 2017.10.01 藤井宏行 )