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原爆小景  


詩: 原民喜 (Hara Tamiki,1905-1951) 日本

曲: 林光 (Hayashi Hikaru,1931-2012) 日本 日本語


1 水ヲ下サイ


水ヲ下サイ
アア 水ヲ下サイ
ノマシテ下サイ
死ンダハウガ マシデ
死ンダハウガ
アア
タスケテ タスケテ
水ヲ
水ヲ
ドウカ
ドナタカ
 オーオーオーオー
 オーオーオーオー

天ガ裂ケ
街ガ無クナリ
川ガ
ナガレテヰル
 オーオーオーオー
 オーオーオーオー


2 日ノ暮レチカク


日ノ暮レチカク
眼ノ細イ ニンゲンノカホ
ズラリト河岸ニ ウヅクマリ
細イ細イ イキヲツキ
ソノスグ足モトノ水ニハ
コドモノ死ンダ頭ガノゾキ
カハリハテタ スガタノ細イ眼ニ
翳ツテユク 陽ノイロ
シヅカニ オソロシク
トリツクスベモナク


3 夜



夜ガクル
夜ガクル (8.水ヲ下サイ)

火ノナカデ
電柱ハ一ツノ蕊ノヤウニ
蝋燭ノヤウニ
モエアガリ トロケ
赤イ一ツノ蕊ノヤウニ
    (3.火ノナカデ 電柱ハ)

夢ノナカデ
頭ヲナグリツケラレタノデハナク
メノマヘニオチテキタ
クラヤミノナカヲ
モガキ モガキ
ミンナ モガキナガラ
サケンデ ソトヘイデユク
    (2.燃エガラ)

コレガ人間ナノデス
原子爆弾ニ依ル変化ヲゴラン下サイ
肉体ガ恐ロシク膨脹シ
男モ女モスベテ一ツノ型ニカヘル

「助ケテ下サイ《
ト カ細イ 静カナ言葉
    (1.コレガ人間ナノデス)

河岸ニニゲテキタ人間ノ
アタマノウヘニ アメガフリ
火ハムカフ岸ニ燃エサカル
    (2.燃エガラ)

ギラギラノ破片ヤ
灰白色ノ燃エガラガ
ヒロビロトシタ パノラマノヤウニ
アカクヤケタダレタ ニンゲンノ死体ノキメウナリズム
スベテアツタコトカ アリエタコトナノカ
パツト剥ギトツテシマツタ アトノセカイ
    (6.ギラギラノ破片ヤ)

真夏ノ夜ノ
河原ノミヅガ
血ニ染メラレテ ミチアフレ
声ノカギリヲ

オ母サン オカアサン
    (5.真夏ノ夜ノ河原ノミヅガ)

あのとき、細い細い絲のやうに細い目が僕を見た。まっ黒にまっ黒にふくれ上った顔に眼は絹絲のやうに細かった。
     (「鎮魂歌(1949)《より)


4 永遠のみどり


ヒロシマのデルタに
若葉うづまけ

死と焔の記憶に
よき祈よ こもれ

とはのみどりを
とはのみどりを

ヒロシマのデルタに
青葉したたれ



1945年の広島の原爆投下。それを自ら体験した詩人の原民喜の9篇からなる詩集「原爆小景《より林光が曲をつけた渾身のアカペラ合唱曲。林の代表作のひとつと言ってもよいでしょう。1958年初演時には3曲でしたが、2001年に詩集でも最後の「永遠のみどり《に作曲されて完結編となり、それからは4曲で歌われることが増えています。とはいえ非常に高い演奏技巧が必要な曲集故、全部取り上げられることはなかなかないようです(第1曲の「水ヲ下サイ《は人気があるようでYoutubeでも中学生が歌っているものまでUPされておりましたが)。
広島の惨禍を告発する作品としては、クラヲタにはポーランドの作曲家ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌《がおなじみのところでしょうが、林のこの作品も前衛技法を駆使して実に鮮烈な作品に仕上げています。原爆投下が引き起こした惨禍を語るにはそれが最も効果的な表現方法だからでしょう。もっとも最後の「永遠のみどり《は戦後の希望を語る詩でもあり、また林も円熟した歳に書いたこともあってか、前の3曲とは対照的に穏やかな曲想になってはおりますが。
なお、第3曲「夜《は原の詩を再構成し、語りと歌とが交錯するスタイルで書かれています。最後に出てくるのは「原爆小景《からではなく、別の散文詩「鎮魂歌《からのフレーズです。3曲目は括弧の中に詩集での出典を追記して置きました。

( 2017.08.06 藤井宏行 )