Umi Yama no Aida Op.73 |
歌曲集「うみ山のあいだ《 |
1 乙姫
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山嶺の空にまで運ばれている 水は われわれの風土に遍満して還流し 竜宮の 乙姫は 山深い滝津瀬に ハタ(機)を織っていた |
2 うみ
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裸の子供たちが つぎつぎ 砂浜に上がってくる つぎつぎ 裸の足で かかとを濡れた砂にくっきりと刻んで 太陽が影をつくる 万物は運動している 上陸した子供は 同じ海で 二度と遊ぶことは出来ない |
3 うらやま
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山入り 山上がり ホホラ ホイ 里山 端(葉)山 裏山 奥山 青山は清浄 ((気)) 境界を払う うらやまはミドリゴのもとめる アタタカイ 乳房 (ウアラヤシ) まみえぬ母のふところ (ウラヤマシ) まぐわいのホト(毛) 乾坤 変貌する カホ(顔) |
4 掌
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心は木の実のように人知れずぽっと落ちて いつも空を見上げているのだ 掌にすると 一瞬 含羞に身を寄せる 青い空の下に影を造らせないので 少女には記憶がないのだと想う 一九四三年・夏 父の死 小鳥の墓 孤を描く焼木 母のこと 長い血縁の生理や 出生の由来を此の風土に尋ねることより 悲しいことはない 少女はまた 終日 海の心を知ろうと渚にたたずむ 透明な貝の耳である 海の話を聴きながら いつか海の心を知れ得ずして砂に消える 全きを希ってかなわず 変貌に移ろう花の季節でもあろうか 心を寄せかけると 少女はその重みに耐えられない 唯、肉体を土深く埋めて 愛は土に帰り 何時もぽっと落ちて 天を仰いでいる少女の心を 秘かにその掌に捕らえる |
編成:ソプラノ、オーボエ
曲目解説:
江森國友氏の詩集「うみ山のあいだ《は、詩人のあとがきによれば、折口信夫の歌集「海やまのあひだ《を借りて吊付けられている。「このくにはらのひとびとの経てきた世々の生活への私の愛着《「これらの詩編は、なによりもこの国の風土への郷愁から生まれ、その郷愁は、はるかな希いへひろがる。《「たしかに、自然はすでに人間の歴史の関与の内にあるが、そのこと自体まるごと、自然の摂理の内にある《と詩人は書いている
初演:2003年11月 27日東京 すみだトリフォニーホール小ホール「第11回21世紀日本歌曲の潮流《 ソプラノ:木瀬志緒 オーボエ:市川仁志
再演:2004年3月27日 神戸北野クレオール「MU楽団 近藤浩平作品展《。
ソプラノ:美堂舞 オーボエ:岡山理絵
作曲者プロフィール:
近藤浩平(こんどう こうへい) Kondo Kohei
1965年生まれ。関西学院大学文学部美学科にて畑道也氏に音楽学を学ぶ。国際ピアノデュオコンクール作曲部門入選。山や自然に関わる作品が多い。日本作曲家協議会会員。
http://members.aol.com/R5656m/
主要作品:
「島《「森の声《「3つの木の組曲《「白い岩山への行進第2番《「旅について《「海の笛、山の笛《「木にかえる《「上海の猫《「うみ山のあいだ《「島と山の小品《「吹き流し《「山小屋の4つの窓《
( 2004.12.13 近藤浩平 )