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抒情楽譜 月に飛ぶもの  


曲: 草川信 (Kusakawa Shin,1893-1948) 日本 日本語


月に飛ぶもの (Kitahara Hakusyuu)


月の光がさしました
枯れた葡萄に
日時計に

月の燻しになりました
ちらばる色も
縫ふ影も

月に消え消え飛ぶものよ
ほの紫の
連れ鳥よ

月の遥かになりました
見果てぬ夢よ
あの頃よ

野焼のころ (Kitahara Hakusyuu)


山は野焼か
まだ春寒か
逢はず帰るか
夜のふけか

野火のちよろり火
一山越して
燃えて行たやら
消えてやら

野火の火立(ほだち)の
薄れた頃か
明けの山鳥
ほろと啼く

夕日はなやかに (Kitahara Hakusyuu)


夕日はなやかに
こほろぎ啼く
あはれ ひと日 木の葉ちらし吹き
荒みたる風も落ちて
夕日はなやかに
こほろぎ啼く

なわすれぐさ (Kitahara Hakusyuu)


面ぎぬのにほひに洩れて、
その眸(ひとみ)すすり泣くとも ――
空いろに透きて 葉かげに
今日(けふ)も咲く なわすれの花

椎の花 (Kitahara Hakusyuu)


木の花はほのかにちりぬ
日もゆふべ 椎の片岡
影さむみ 薄ら光に
君泣きぬ われもすがりぬ
髪の香か 目見のうるみか
衣そよぎ 裾にほそぼそ
虫啼きぬ ──かかるうれひに

ああ かくて 君よいくとき
かく縋り かくや泣きけむ
そのかみか いまか うつつか
さて知らじ さきの世のゆめ

かへりみ (Kitahara Hakusyuu)


みかへりぬ ふたたび みたび
暮れてゆく幼(をさな)の歩(あゆみ)
なに惜みさしもたゆたふ
あはれ また 野辺の番紅花(さふらん)
はやあかきにほひに満つを

秋 (Kawaji Ryuukou)


海も嘆くか
秋くれば
潮騒遠く
荒だちて
すすり泣く音も
切なげに
夜ごと渚を
噛みくだく

胸のさみしき
たそがれに
秋は小猫の
しのび足
古き痛手を
さぐりあて
海のごとくも
狂はしむ

ゆく春 (Kawaji Ryuukou)


鶯は
森にかへりぬ
美(よ)きひとは
遠(をち)に嫁ぎぬ

花ちりて
さむき部室(へや)に
この宵ぞ
春はゆくらし


鶯は
森にかへりぬ
美(よ)きひとは
遠(をち)に嫁ぎぬ

かたみにと
のこせし衣の
うつり香ぞ
ひとり身に沁む

逝く春 (Kawaji Ryuukou)


草の実は飛ぶ
空のはて

草の実は飛ぶ
風のなか

野を焼く煙
とほく過ぎ
茨の花はうす白く
悩みうまるる
夏の日に

草の実は飛ぶ
風のなか

春の夕べに (Kawaji Ryuukou)


夕月もおもひなやむか
うす絹の空に病みたる
いづこにか吾れよぶひとの
あるごとき春のたそがれ

きみが吊をひそかによべど
人もなし 宵の花園
噴水のひとりかなしく
わがおもひ 嘆きわづらふ

月見草 (Kawaji Ryuukou)


たづぬるは
波のひびきか
ゆふぐれに
ほのかにうかむ
星かげか
雲のゆくへか

あらす 咲き
ひるはしぼみて
たそがれに
嘆き訴ふ
吾に似し
かの月見草


国会図書館のウエブサイトには著作権の切れた文献がたくさん公開されております。草川信もだいぶ前に著作権が切れておりますが、作詞の方が切れていない人が複雑に混じっているからでしょうか。サイトで公開されてる本格的な楽譜はひとつしかありませんでした(2017年4月時点)。それがこの「抒情楽譜 月に飛ぶもの《で、北原白秋の詩につけた曲が6曲、川路柳虹の詩につけたものが5曲の計11曲を誰でも閲覧できます。
どの曲も私は初めて知ったものばかりで、時の流れと共に忘れ去られてしまった歌たちなのですが、詞だけ見ていてもなかなかそそるようなラインナップ。メロディもいくつかの曲は草川作品で今に残るものと比べても遜色のないものばかりと思いました。ヴァイオリンのオブリガード付の凝った曲などもあり、これはぜひ誰か復活させてもらいたいと思うような素敵な作品揃いです。

( 2017.04.16 藤井宏行 )