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Quattro favole romanesche di Trilussa,   Op.38
4つのローマのお話

詩: トリルッサ (Trilussa (Carlo Alberto Camillo Mariano Salustri),1871-1950) イタリア

曲: カゼッラ (Alfred Casella,1883-1947) イタリア イタリア語


1 Er coccodrillo
1 クロコダイル

Ner mejo che un signore e 'na signora,
Marito e moje,staveno sdrajati
Su la riva der mare,scappò fora
Un Coccodrillo co' la bocca aperta
E l'occhi spaventati.
La moje,ch'era sverta,
S'aggiustò li riccetti e scappò via:
Mentre ch' er Coccodrillo,inviperito,
Se masticava er povero marito
Come magnasse un pollo all'osteria.
Siccome er Coccodrillo,pe' natura,
Magna l'omo eppoi piagne,
Puro quello se mésse a piagne' come 'na cratura,
Ogni cinque minuti
Ciaripensava come li cornuti
E risbottava un antro piantarello.
Tanto ch' er giorno appresso,a l'istess'ora,
Ner rivede' la povera signora
Riprincipiò le lagrime e li lagni;
Sperava forse che s'intenerisse:
Ma inveci,sì! la vedova je disse:
Dio mio,quanto sei scemo! Ancora piagni?


 むかしあるとき、夫と妻が浜辺で寝そべっていると
 口を大きく開け、目をギラギラさせたワニが飛び掛かってきた
 逃げ足の速い妻の方はすたこら逃げたけれども
 夫の方はごくりと飲み込まれてしまったとさ
 ワニというやつは人を食ったあとは涙を流す性質があったものだから
 こいつも赤ん坊のように泣き出した
 まるでカッコウがするように、思い出しては5分おきに泣いていた
 来る日も来る日も同じことを繰り返した。哀れな未亡人を悼んで
 泣いたのだ。でも実はそんなことではなかった。
 未亡人は彼にこういったのだ。「おや、なんて馬鹿な子。まだ
 泣いているのかい《

2 La carita
2 慈善

Er Presidente d'una Società
Che protegge le Bestie martrattate
S'intese domannà la carità:
- Ho fame,ho fame,signorino mio,
M'ariccomanno,nun m'abbandonate,
Dateme un sòrdo pe' l'amor de Dio!
- Nun te posso da' gnente:
- Je fece er Presidente -
- Io nun proteggo che le bestie sole ...
- E allora
- je ripose er poverello cacciannose er cappello -
- Fatelo pe' 'ste povere bestiole...

 とある協会の会長
 動物愛護しようと
 募金を集めておったとさ
 が物乞いをするひとりの男にでくわした。
 「腹へって腹へってたまらないのです。どうかお見捨てにならず
 小銭を恵んでくださいまし《
 「助けることはできん《と会長は答えた。
 「動物保護だけが私の仕事だからね《
 すると男は帽子を脱いでこういった。
 「あわれなこの生き物にどうぞ小銭を《

3 Er gatto e er cane
3 犬と猫

Un Gatto Soriano
Diceva a un Barbone:
Nun porto rispetto
Nemmanco ar padrone,
Perchè a l'occasione
Je sgraffio la mano;
Ma tu che lo lecchi
Te becchi le botte:
Te mena,te sfotte,
Te mette in catena
Cor muso rinchiuso
E un cerchio cor bollo
Sull'osso der collo.
Siconno la moda
Te taja li ricci,
Te spunta la coda...
Che belli capricci!
Io,guarda,so' un Gatto
So' un ladro,lo dico:
Ma a me nun s'azzarda
De famme 'ste cose...
Er cane rispose:
Ma io... je so' amico!


 メスの縞猫がプードルにこういった。
 「わたしは御主人さまだってこれっぽっちも尊敬していないし
 ときどき手をひっかいたりさえするわ
 でもあなたときたら御主人さまを舐めてぶたれ、脅され、
 嘲られ、鎖で繋がれ、猿轡を噛まされ、首のまわりには首輪
 流行につられてあなたのカールを刈りしっぽを繕っている。
 なんて勝手なふるまいだこと
 ごらん、私は猫。泥棒猫。でもあなたにされるようなことは
 御主人様は絶対しないわ《
 すると犬はこう答えた。
 「だけど私はご主人様の友達だから...《

4 L'elezzione der presidente
4 大統領選挙

Un giorno tutti quanti l'animali
Sottomessi ar lavoro
Decisero d'elegge 'un Presidente
Che je guardasse l'interessi loro.
C'era la Società de li Majali,La Società der Toro,
Er Circolo der Basto e de la Soma,
La Lega indipendente fra li Somari residenti a Roma;
C'era la Fratellanza de li Gatti Soriani,de li Cani,
De li Cavalli senza vetturini,
La Lega fra le Vacche,Bovi e affini...
Tutti pijorno parte a l'adunanza.
Un Somarello,che pe' l'ambizzione
De fasse elegge' s'era messo addosso
La pelle d'un leone,Disse:
- Bestie elettore,io so' commosso:
La civirtà,la libertà,er progresso...
Ecco er vero programma che ciò io,
Ch'è l'istesso der popolo!
Per cui voterete compatti er nome mio...
Defatti venne eletto proprio lui.
Er Somaro contento,fece un rajo,
E allora solo er popolo bestione s'accorse de lo sbajo.
D'avè' pijato un ciuccio p'un leone!
Miffarolo!... Imbrojone!... Buvattaro!...
- Ho pijato possesso,
Disse allora er Somaro
- E nu' la pianto Nemmanco si morite d'accidente;
Peggio pe' voi che me ciavete messo!
Silenzio! e rispettate er Presidente!


 ある日動物たちは大統領を自分達の中から選ぼうと考えた。
 動物の国にはブタの組合、牡牛の組合、ラバとロバの連合、
 ローマに住むロバだけの独立組合、縞猫の友愛会、犬の会、
 騎手のいない馬の会、雌牛と牡牛の連合会その他もろもろ...
 すべての組織の代表が議会に集まった。
 野心家のロバが大統領になろうと企て、ライオンの皮をかぶって
 こう叫んだ。「動物諸君! 感動した。文明・自由・進歩、
 これらを諸君に約束しよう。満足したロバはいななき、それは
 私に投票してくれる諸君すべてについても同じだろう。《
 という訳で彼は選挙で選ばれ、動物たちがライオンと間違って
 ロバを選んでしまったことに気付いたのは選挙のあとだった。
 −卑怯者!悪漢!ならずもの!
 落とし前をつけてやろうと、ライオンがロバにこういった
 「貴様がおっこちて死んじまおうが、ここは通してやらないぜ《
 でもなんと幸いなことにロバにはこう言える立場が手に入っていた
 「だまれ、大統領を尊敬したまえ《
 

イタリアのカゼッラという作曲家は、最近「パガニニアーナ《など、昔の作曲家のパロディ(本歌取り?)でリバイバルしてきている人のようですが、私にはこの人の音楽は今ひとつ捉えどころがないようで良く理解できていません。
歌曲の世界でもこの捉えどころの無さは健在で、初期の作品などヴェルレーヌやボードレールのフランス語の詩に印象派風の曲を付けていたりするものですから、精力ギンギンに濃厚になったドビュッシーの歌曲のような感じだったりしてよく分かりません。
(面白いですが...)
ここでは比較的後期の作品を取り上げますが、こちらは本歌取りの雰囲気が濃厚な新古典派風の歌曲。詩というよりは小噺風のショートストーリーに付けた現代風の隠し味がピリッと効いた擬古典的な歌曲です(ストラヴィンスキーが好んで書いたスタイルでは?)。訳が下手なせいかいまひとつオチの面白味がよく捉えられていませんが、作曲者の持ち味はこんな曲の方がうまく出ているかも知れません。

歌というよりは語りに近い第1曲、弾むようなリズムでコミカルに歌う第2曲、早口でまくし立てるイタリア語が印象的な第3曲、K泉さんを思わず連想してしまった第4曲もお芝居のような語りです。歌曲というよりはイタリアオペラのレシタツィーヴォをモダンジャズの伴奏でやっているかのような味わいが何とも言えず奇妙です。

こんなカゼッラの歌曲ですが、なんとイタリアのレーベルNuova Eraに歌曲集があります。ソプラノのスカンダレッティにピアノのピアチェンテーニ、そんなに飛び切りの吊演という訳ではないですが(私と曲との相性が良くないだけかも?)、このイタリアの個性派作曲家の上思議な世界を堪能できますので、げてもの好き(そこまで言うか???)の方はぜひお試しください。
イタリア歌曲の新地平が開けるのではないかと思います。

( 2004.03.02 藤井宏行 )