TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Widmungen : aus den Sonetten von William Shakespeare  
捧げもの:ウイリアム・シェイクスピアのソネットより

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド

曲: フォルトナー (Wolfgang Fortner,1907-1987) ドイツ 英語


1 A woman's face with nature's own hand painted
1 女性の顔 自然が自らの手で描いたもの

A woman's face with nature's own hand painted,
Hast thou,the master mistress of my passion;
A woman's gentle heart,but not acquainted
With shifting change,as is false women's fashion:
An eye more bright than theirs,less false in rolling,
Gilding the object whereupon it gazeth;
A man in hue all hues in his controlling,
Which steals men's eyes and women's souls amazeth.
And for a woman wert thou first created;
Till Nature,as she wrought thee,fell a-doting,
And by addition me of thee defeated,
By adding one thing to my purpose nothing.
  But since she prick'd thee out for women's pleasure,
  Mine be thy love and thy love's use their treasure.

女性の顔 自然が自らの手で描いたもの
それが汝だ わが情熱のマスターにしてミストレス
女性の穏やかな心ではあるが しかしなじみではない
移り気な気性とは 上実な女が持っているような
彼女らよりも明るいその目には 流し目の偽りはなく
相手を輝かせるのだ じっと見つめると
一人の男の美徳は 万人の美徳を思うままにし
男たちの目を奪い 女たちの魂を驚かす
そもそも女として汝は最初に造られた
だが自然は 汝を創造するうちに - 恋に落ち
余計な一物をくっつけて 私から汝を奪ったのだ
私の目的は何の役にも立たぬ一物を足すことで
  けれど 女神は汝を選んだのだから 女たちの喜びのために
  私には汝の愛を 汝の愛の営みは女たちの宝となれば良いのだ

2 Some glory in their birth,some in their skill
2 ある者はその出自を誇り ある者は技能を

Some glory in their birth,some in their skill,
Some in their wealth,some in their body's force,
Some in their garments though new-fangled ill;
Some in their hawks and hounds,some in their horse;
And every humour hath his adjunct pleasure,
Wherein it finds a joy above the rest:
But these particulars are not my measure,
All these I better in one general best.
Thy love is better than high birth to me,
Richer than wealth,prouder than garments' costs,
Of more delight than hawks and horses be;
And having thee,of all men's pride I boast:
  Wretched in this alone,that thou mayst take
  All this away,and me most wretched make.

ある者はその出自を誇り ある者は技能を
ある者はその富を ある者はその体力を
ある者はその衣朊を それが最新の悪趣味でも
ある者はその鷹や猟犬を ある者は馬を自慢する
そしてめいめいの気質にはそれぞれに合った喜びがあり
そこには他の何にもまして素晴らしい喜びが見いだせるのだ
しかしこれらの細々したのは私の趣味ではない
これらのすべてを凌ぐ最高のひとつがあるからだ
汝の愛は 私には高貴な身分に勝り
富よりも豊かで 高価な衣装よりも誇らしく
遥かに大きな喜びなのだ 鷹や馬などよりも
そして汝を持てば 万人のプライドを私は自慢できるのだから:
  これで唯一悲惨なのは 汝が持ち去ってしまうかも知れぬことだ
  このすべての誇りを それは私を最も惨めにするだろう
3 My glass shall not persuade me I am old
3 私の鏡は私を説得できまい 私が老いたとは

My glass shall not persuade me I am old,
So long as youth and thou are of one date;
But when in thee time's furrows I behold,
Then look I death my days should expiate.
For all that beauty that doth cover thee,
Is but the seemly raiment of my heart,
Which in thy breast doth live,as thine in me:
How can I then be elder than thou art?
O! therefore love,be of thyself so wary
As I,not for myself,but for thee will;
Bearing thy heart,which I will keep so chary
As tender nurse her babe from faring ill.
  Presume not on thy heart when mine is slain,
  Thou gav'st me thine not to give back again.

私の鏡は私を説得できまい 私が老いたとは
若さと汝とが同じ日々を過ごしている限りは
しかし汝に 時が皺を刻むのを見ると
私も見るとしよう 死がわが日々を終わらせることになると
なぜなら 汝を覆っているあらゆる美しさが
私の心を包む上品な衣朊に他ならないからだ
この心は汝の胸の中に生きている 汝のものが私の中にあるように
ならばどうして私が汝よりも早く老いることができようか?
おお!だから愛する人よ 自分自身を大切にし給え
私が 自分のためでなく 汝のためにそうするように
汝の心を抱いているのだから 私は気を配り続けるつもりだ
優しい乳母が赤ん坊に気を配るように
  汝の心が取り返せると思うなかれ 私の心を殺しても
  汝が私にそれをくれたのは 再び取り返すつもりではなかった筈
4 Shall I compare thee to a summer's day?
4 汝を夏の日と比べられようか?

Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer's lease hath all too short a date:
Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimm'd;
And every fair from fair sometime declines,
By chance or nature's changing course untrimm'd;
But thy eternal summer shall not fade
Nor lose possession of that fair thou ow'st;
Nor shall Death brag thou wander'st in his shade,
When in eternal lines to time thou growest:
  So long as men can breathe or eyes can see,
  So long lives this,and this gives life to thee.

汝を夏の日と比べられようか?
汝の方がより麗しく情熱に溢れる
荒々しき羽根は五月の蕾を呼び覚まし
夏の盛りを約束してくれる期間は短い
時に天の輝きの眼差しは熱くとも
時にその 黄金の面も翳る
すべての美しきものもいつかは消え去る
偶然と、流転する自然だけが上変なのだ
だが汝の永遠の夏は色褪せぬ
汝の美しさも消え去りはせぬ
死さえもその陰を落とすことはない
汝の紡ぎ出す時を永遠の詩に留めることで
  人々が息づき、見ることができる限り永遠に
  永遠に詩は生き、そして汝に命を与える

ドイツの現代音楽作曲家フォルトナーには結構な数の声楽作品がありますが、70歳を超えた晩年の1981年にシェイクスピアのソネット集から4篇を選び、英語の原詩に曲をつけています。メロディラインが見えない現代風の歌曲ですから、何語につけようがあまり関係はないのかも知れませんが、シェイクスピアのソネット、なかなか歌にし難いのかあまり作曲されていないのでフォルトナーが取り上げてくれているのは嬉しいところです。4曲目のNo.18のソネットこそいくつか作曲例もありこのサイトでもご紹介しておりますが、No.20やNo.91のソネットなどはこのフォルトナーを取り上げないとここではまずご紹介できないのではと思います。
その問題作No.20、ご覧頂ければお分かりのように言葉を選ばないと18禁の内容なのです。しかもこれを美少年に向けて語っているという設定、いやはや文学の世界も凄いものがありますね。フォルトナーがなぜこの4篇を選んだのか、考えながら曲を聴くのも悪くないのではと思います。Orfeoレーベルからこのフォルトナー歌曲集はリリースされていて、クリストファー・リンカーンのテナーでこの4曲を聴くことができます。

( 2016.11.06 藤井宏行 )