Nipponari H.68a |
ニッポナリ |
1 Modrá hodina
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1 青い時
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zříš kterak divně,tak lině mdle měsic na výšin šplhá,lan až vystoupi,až na vrchol,hle! Přinese noc,a lásky sen. |
潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな ほら なんて上思議なことに のんびり ゆっくりと 月が高く昇ってゆくのでしょう、そして てっぺんまで届いたわ、ご覧なさい! 明るい夜、愛の夢よ |
2 Stáří
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2 老年
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Kyds ozdobil můj tmavý vlas snih květů setřesený vichrem. O jak to bylo pino krás. Ach! Však snih,jenž zdobi dnes můj vlas, květ již netkal zanesený větrem! Ne! Den po dni,rok rokem zas, jej tkal den po dni,rok s rokem zas. Ach! |
(藤原公経) 昔 私の黒髪には降り積もったものだ 風に散らされた花びらが雪のように ああ なんとその美しかったこと、ああ! だが、雪が、今も私の髪を飾っているが それは風に散らされた花びらではないのだ! おおいやだ!日に日に 年ごとに それは紡ぎだされてくるのだ、日に日に 年ごとに ああ! |
3 Vzpominka
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3 思い出
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Máj umřel! Máj,jenž dávno bled byl již a něm Jen na rukávě mém mi zbyla hedvábném ta sladká vůně květů silvy tkviti |
五月は死んだのだ! 五月よ ずっと血を流しながら 私の袖の上にはただ絹だけが残っている 甘い花の香りが森に漂う |
4 Prosněný život
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4 はかなき人生
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Květiny kvetly,barvami chvěly V žiti svůj divý proud zřela jsem zářné. Květiny kvetly,kvetly a mřely. Marně,ach marně,ach marně! |
盛りだった花たちの彩りは色あせた 人生の荒々しい流れの中に輝いていたのが見えた 盛りだった花たち 花咲き そして枯れてしまった 空しく ああ 空しく ああ 空しく |
5 Stopy ve sněhu
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5 雪の上の足跡
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Na hoře Miyosina,tam kde je jen led. Našla jesm v zářném sněhu stop jeho sled! V třpytu hvězd překrocil tu vysoký Skalni hřbet A v mysli šla jsem též za nim cestou vpřed! |
雪が積もっている吉野山の上で いとしい人の足跡を雪の上にみつけた 凍えるような星空のもと あの人はこの山を越えていく 私も心の中では、あの人をすぐにでも追っていくのだけれど |
6 Pohled nazpět
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6 振り返り
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Je podzim již a prši,slyš! Bez barev,vůně,svět je již! Co z květů je,co ze mne as? Vše dávno větrům na pospas. Ja k lásce zvala jsem,cukrujic, Děcko zpozdilé, Ach,kterak slasti,polibky zmizely,hle! Ni usměv v cestu nezaplá! Již je dávno podzim! Prši! Slyš! Již je dávno podzim. |
今は秋 雨が降ってる、聞いて! 色も 香りもなく この世は既になってしまった! 花はどうなったの 私はどうなったの? すべては風のなすがまま 私は愛に呼ばれている 甘い 愚かな子に ああ あの喜び 口づけは消えた 見て! ほほ笑みひとつ 行方には現れない! 今は長い秋 雨が降る! 聞いて! 今は長い秋 |
7 U posvátného jezera
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7 聖なる湖で
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V sluch křik ti zní,kachen v háji. Ivarském. Hejna tmavých stínů tančí v reji kolem. Srdce mé má tíž! Až příštím rokem kachen křik zazní polem, jich neuslyším víc! |
聞こえてくるのは鴨の声 木立の中の イワレ湖の 暗い影の群れが渦を巻いて踊っている 私の心は重い! 来年また 鴨の鳴き声が聞こえるとき 私はもはやそれを聞くことはないのだ! |
マルティヌー若き日の作品に、日本の和歌にインスピレーションを得た歌曲集「ニッポナリ《があります。
まだ彼の独特の個性が出ていない時期の作品、一聴した感じではドビュッシーのようなスタイルの印象派的な響きのする作品でした。室内楽アンサンブルの伴奏で歌われる曲なので、ドビュッシーの晩年の室内楽の作品に歌詞が付いて歌われるかのようにも聴こえますし、またチェコ語の響きはまるでヤナーチェクのオペラの一節であるかのようにも聴こえます。
中でもこの曲、ハープの伴奏がドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲《を思わせる仕上がりで大変美しいです。
その他の曲も伴奏がとても凝っていて、チェロやオーボエの使い方など実に見事な作品です。
1) 青い時(額田王?)
2) 老年 (清経?)
3) 思い出(キビノ?)
4) はかなき人生(小野小町)
5) 雪の上の足跡(静御前)
6) 振り返り(小野小町)
7) 盤余(いわれ)の池のほとりで(大津皇子)
ただ、詩はずいぶん元歌からは翻案されていて、ほとんど原形をとどめていないように思います(ほとんどの歌で元まで辿れませんでした)。 この静御前の和歌にしても、元歌とニッポナリの歌詞の和訳とを並べて書いてみましたが全然違っています。たぶんこの歌であろうということで取り上げましたがもしかしたら違っているかも。 元はドイツ語の詩をチェコの詩人イリ・カラーセク(Jiri Karasek ze Lvovic 1871-1951)が訳したということです。いくつかの詩はハンス・ベートゲの「日本の春《にあるものと元歌が同じですが、この静御前の和歌のようにベートゲの方にはないものもあり、元のドイツ語の詩集が何であったかは分かりませんでした。
ダグマール・ペコヴァのソプラノにプラハ交響楽団の伴奏、指揮ビエロフラーベックのSupuraphon盤が唯一の録音でしょうか。
非常に良い演奏だと思いますができればもっといろいろ聴いてみたい素敵な作品です。
(2004.01.18 5曲目のみ掲載)
7曲全部取り上げ 原詩も著作権は確実に切れておりますので掲載しました。SupraphonのCDの関根日出夫氏の解説を参照させていただきましたが訳詞は私のものです。2曲目は関根氏は藤原公経のものと推定されておられましたので上ではそれに従いましたが、
春をまつ袖にはいつか濃紫わがもとゆひの霜ぞふりぬる(藤原雅経)
の方も捨てがたい感じです。英語の解説ではKiyotsuneとなっておりましたので吊前だけだとどちらも違うのですが...
( 2016.11.06 藤井宏行 )