木下夕爾の詩による八つの歌 |
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1 ひばりのす
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みつけた まだたれも知らない あそこだ 水車小屋のわき しんりょうしょの赤い屋根のみえる あのむぎばたけだ 小さいたまごが 五つならんでる まだたれにもいわない |
2 ふろたき
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うしろの山だ ふろをたく火よ なぜもえつかぬ まんだ鳴いてる かわいい声だ ふろをたく火よ いつまでしぶる けむりがしみて なみだが出たぞ |
3 山家のひる
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みんな山へいつたのかな えんがわに あかいつつじのえだが おいてある だいどころで はしらどけいが三つなつた ぼん ぼん ぼんとなつた それからゆつくりと ぜんまいのほぐれる音がきこえた |
4 汽車のけむり
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はだかの木のえだに かれくさのなかに 汽車のけむりが 白いネツカチーフみたいに あそんでる すぐ消える あそんでる すぐ消える 春の朝です |
5 遠い町
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葉かげにみえる 遠い町 そだをたばねに ついて来て いつもながめる おぼんとお正月と 二度しかゆけない あの町 石をひろつて なげてみる ちからいつぱい なげてみる |
6 春の電車
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白いつり皮 ぷらん ぷらんしている 窓からすぎてゆく あおいむぎばたけ あかいげんげばたけ きいろいなの花ばたけ 電車がくの字にまがるとき 電車がへの字にまがるとき みんないつしょに ぷらん ぷらんしてる 窓からとびだしたそうに ぷらん ぷらんしてる |
7 すいっちょ
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秋の晩だ 木の上に すいつちよが とまつた ゆつくり ひげをうごかしている すいつちよのとまつているのは ひろげた絵本のなかの エツフエル塔の てつぺんだ |
8 ならんでる
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ならんでる ハモニカの ちいさなあな 一つ一つに かわいい音色が住んでる ならんでる ならんでる アパートの 四角な窓 窓 一つ一つに 人が住んでる 何かしている |
作詞の木下夕爾(きのした ゆうじ 1914-1965)は小倉と早稲田大学仏文の同期なのだそうで、その『児童詩集』より8篇を選んで1956年に作曲されました。童謡と呼ぶには切れ味鋭すぎる音楽ですが、飄々としたユーモアにあふれた素晴らしい歌曲集となりました。彼のさほど数の多くない歌曲作品の中でも代表作と目されるものです。とはいえ録音は非常に少なく、Victorにある中村邦子(Sop)・三浦洋一(Pf)が唯一ではないでしょうか。この歌曲集、言葉の響きが命ですけれども、それを十二分に生かした演奏ですのでこれだけ聴ければ十分ではあるのですが(もっともCDの方は入手困難なようですが)。全音から小倉朗歌曲集の楽譜はNetで見る限りまだ出ているようなので何とか歌い継がれて行って欲しいものです。
( 2016.03.05 藤井宏行 )