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Two Choruses from “Anthony and Cleopatra”   Op.40
「アントニーとクレオパトラ《からの2つのコーラス

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド

曲: バーバー (Samuel Barber,1910-1981) アメリカ 英語


1 On the death of Antony
1 アントニーの死

Noblest of men,woo't die?
Hast thou no care of me?
O see,my women,
The crown o' the earth doth melt. My lord!
O withered is the garland of the war:
The soldier's pole is fallen: young boys and girls
Are level now with men.

The odds is gone:
And there is nothing left remarkable
Beneath the visiting moon.

I dream't there was an Emperor Antony.
O such another sleep,that I might see
But such another man!

His legs bestrid the ocean; his rear'd arm crested the world.
His delights were dolphin like,they showed his back
Above the element they lived in.

Think you there was,or might be,such a man
As this I dreamed of?

  Gentle madam,no!

You lie,up to the hearing of the gods.
But if there be,or ever were one such,
It's past the size of dreaming.

人々のうちで最も高貴な方よ 死ぬのですか?
あなたは私のことなど気に掛けず?
おおご覧なさい わが女官たち
この世の王冠が溶けてしまった わがあるじよ!
戦の花輪は枯れました
武人の柱は倒れて:若い男女が
成人と同じレベルになって

その差がなくなってしまったのです:
そして、何ひとつ際立ったものはありません
訪れる月の下には

私は夢を見ていました 皇帝アントニーがそこに
おお別のそのような眠りで 私が見ることができたなら
そのようなもう一人の男性を!

あの方の両脚は海原に跨り 突き立てた腕はこの世の頂に届いていました
あの方の喜びはイルカのよう 喜びはその背中を示しました
自分の住む世界の上に飛び出るように

考えてもご覧なさい かつて居たのか あるいはあり得たのか そのようなお方が
私が夢の中で見たような?

  女王陛下 決して!

嘘です 神々にまで聞こえましょうに
けれどもしそのような方がいるとしても あるいはかつていたとしても
夢の大きさには及びもつきますまい


2 On the death of Cleopatra
2 クレオパトラの死に

Take up her bed,
She looks like sleep,
As she would catch another Antony
In her strong toil of grace.

Take up her bed,
She looks like sleep,
And bear her women from the monument.
She shall be buried by her Antony.
No grave on earth shall clasp in it
A pair so famous.
Our army shall
In solemn show attend this funeral,
And then to Rome.

担ぎ上げよ 彼女のベッドを
彼女は眠っているように見えるな
まるでもうひとりのアントニーを捕えようとしているようだ
恵みの彼女の強い苦労で。

担ぎ上げよ 彼女のベッドを
彼女は眠っているように見えるな
そして女官どもは廟から運び出せ
彼女は埋葬されよう アントニーの傍らに
この世のいかなる墓も その中に紊めることはあるまい
かくも吊高き二人を
われらの軍は
厳粛に参列するのだ この葬礼に
そしてローマに戻るぞ



シェイクスピアの悲劇「アントニーとクレオパトラ《から。主人公二人の死の場面から台詞を切り出してきて、アメリカのバーバーが合唱作品にしています。2曲からなり、第1曲目は先に死ぬアントニーについて。死のシーンのある第4幕第15場からクレオパトラの台詞。ちょうど「この世の王冠が溶けてしまった《と言う前にアントニーはこと切れます。この場面からは「月の下には《という部分までが取られ、そこから飛んで第5幕第2場、クレオパトラ自らがこれから死のうとしているところでアントニーのことを思いだしながらシーザー臣下のドラベラに語りかけている部分が続きます。この曲はクレオパトラが語る台詞で構成されているということもあるのでしょう。女声合唱で書かれています。上思議なカノン風のつくりで、なにかこだまの繰り返しを聴いているかのよう。続いての第2曲は同じく第5幕2場の劇の大詰め。毒蛇に自らを咬ませて死んでしまったクレオパトラを前にシーザーが語る最後の台詞から取って来られています。こちらは混声合唱で、こちらは荘重で重々しい曲ですが、無調っぽい響きもあって第1曲ほどは印象に残りません。が現代合唱曲としては十分に傑作の域に入る力作だと思いました。

( 2016.01.06 藤井宏行 )