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海道東征  


詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本 日本語


1 高千穂


神坐(かみま)しき、蒼空(あをぞら)(とも)(たか)く、
身坐(みま)しき、皇祖(すめらみおや)
 (はる)かなり()中空(なかぞら)
 (きは)()皇産霊(すめらむすび)
 いざ(あふ)()のことごと、
 (あめ)なるや(たか)きみ(あれ)を。

国成(くにな)りき、綿津見(わたつみ)(しほ)(わか)く、
()()しき、この国土(くにつち)
 (はる)かなり()国生(くにうみ)
 おぎろなし(あめ)瓊鉾(ぬぼこ)
 いざ()けよそのこをろに、
 大八洲(おおやしま)()がるとよみを。

皇統(みすまる)や、天照(あまて)らす(かみ)御裔(みすゑ)
代々坐(よよま)しき、日向(ひむか)すでに。
 (はる)かなり()高千穂(たかちほ)
 かぎりなし千重(ちへ)波折(なをり)
 いざ()げよ()直射(たださ)
 海山(うみやま)のい()宮居(みやゐ)を。

神坐(かみま)しき、千五百秋(ちいほあき)瑞穂(みづほ)(くに)
皇国(すめぐに)豊葦原(とよあしはら)
 (はる)かなり()肇国(はつくに)
 (きは)()(あま)つみ(わざ)
 いざ()たせ()(ひがし)へ、
 光宅(みちた)らせ玉沢(みうつくしび)を。


2 大和思慕


大和(やまと)(くに)のまほろば、
たたなづく青垣山(あをがきやま)

(ひむがし)(くに)中央(もなか)
とりよろふ青垣山(あをがきやま)

(うるは)しと()(こも)る、
()天降(あも)るその磐船(いはふね)

(かな)しよ塩土(しほつち)老翁(をぢ)
きこえさせその大和(やまと)を。

大和(やまと)はも聴美(ききうるは)し、
その雲居(くもゐ)(おもひ)(はる)けし。

(うるは)しの大和(やまと)や、
(うるは)しの大和(やまと)や。


3 御船出


その一

()はのぼる、旗雲(はたぐも)(とよ)(あかね)に、
いざ御船(みふね)()でませや、うまし美々津(みみつ)を。

(うみ)()ぎぬ、陽炎(かぎろひ)(ひがし)()つと、
いざ()かせ、()(ぐは)しその海道(うみつぢ)

(うみ)()ぎぬ、(あさ)ぼらけ(しほ)もかなひぬ、
艫舳(ともへ)()ぎ、大御船(おおみふね)御船出(みふなで)(いま)ぞ。


その二

あな清明(さや)け、神倭(かむやまと)磐余彦(いはれひこ)、その(みこと)や、
あな()ゆし、もろもろの皇子(みこ)たちや、その皇兄
(いろせ)
や。

いでませや、おほらかに大御軍(おほみいくさ)
まだ(くら)し、(はる)けきは鴻荒(あらき)()へり。

(みめぐみ)皇祖(すめみおや)かく()みましき、
(ただ)しきを(とし)のむた(やしな)ひましぬ。

神柄(かむがら)や、幾万(いくよろづ)年経(としふ)りましき、
(みひかり)や、かつ(かさ)ね、代々坐(よよま)しましぬ。

(にぎ)(たま)、また(やは)せ、ただに(やす)らと、
(あら)(たま)、まつろはぬいざことむけむ。

大御稜威(おほみいつ)()らすと御船出(みふなで)()りぬ、
()皇子(みこ)や、御鉾(みほこ)とり、かく()ちましぬ。


その三

()はのぼる、旗雲(はたぐも)()りの(あかね)を、
いざ御船(みふね)()でませや、(あか)日向(ひむか)を。

(うみ)()ぎぬ、満潮(みちしほ)のゆたのたゆたに、
いざ()かせ、()(ぐは)しその海道(うみつぢ)

(うみ)()ぎぬ、(あさ)ぼらけ(しほ)もかなひぬ、
艫舳(ともへ)()ぎ、大御船(おおみふね)御船出(みふなで)(いま)ぞ。


4 御船謡


その一

御船出(みふなで)ぞ、大御船出(おほみふなで)
御伴船(みともぶね)(こぞ)りさもらへ、
御伴(みとも)びと(こぞ)(あふ)げや。
()りとよめ、科戸(しなど)(かぜ)
(こへ)(はな)て、(ひがし)()きて、
大御船(おおみふね)真梶(まかじ)(しじ)ぬき、
()りわたる御弓(みゆみ)(ゆはず)
あな清明(さや)け、(かみ)にします、
あな(まば)ゆ、皇子(みこ)にします。
はろばろや大海原(おおうなばら)
(はて)なしや青水沫(あをみなわ)
()りとよめ(おほ)国民(くにたみ)
大君(おほきみ)に、
この(かみ)に、
(たた)(ごと)
寿詞(よごと)(まう)せや。


その二

荒海(あらうみ)の、
荒海(あらうみ)(しほ)八百道(やほぢ)の、
八潮道(やしほぢ)の、
(しほ)八百会(やほあひ)に、ハレヤ、
とどろ()速開津姫(はやあきつひめ)に、
朝開(あさびらき)(あさ)のみ(きり)
遠白(とほじろ)に、
末鎮(すゑしづ)
(しづ)まらせ、
()すがすがと()ませとぞ、
きこしめせと(まう)さく
船謡(ふなうた)


その三

-い-

ヤァハレ
海原(うなばら)青海原(あをうなばら)

ヤァハレ
青雲(あをぐも)やそのそぎ(たち)
その(きは)み、こをば。

()(うみ)大君(おほきみ)()らす、
()(そら)皇孫(すめみま)()らす。


-ろ-

ヤァハレ
潮沫(しほなわ)のとどまるかぎり、
(ふな)()()()くきはみ。

ヤァハレ
(しま)かけて、八十嶋(やそしま)かけて、
大海(おほうみ)(ふね)()ちつづけて。

()はるかし、大君(おほきみ)()らす、
四方(よも)(うみ)皇孫(すめみま)()らす。


-は-

ヤァハレ
国土(くにつち)や、大国土(おほくにつち)

ヤァハレ
(くに)(かべ)そのそぎ(たち)
その(きは)み、こをば。

()(くに)大君(おほきみ)()らす、
()(つち)皇孫(すめみま)()らす。


-に-

ヤァハレ
青雲(あをぐも)のそぎ()つきはみ、
白雲(しらくも)向伏(むかふ)すかぎり。

ヤァハレ
谷蟆(たにぐく)のさわたるきはみ、
(うま)(つめ)とどまるかぎり。

()はるかし、大君(おほきみ)()らす、
四方(よも)(うみ)皇孫(すめみま)()らす。


-ほ-


()狭の(くに)(ひろ)くと、

(けは)(くに)(たひ)らけくや。

(とほ)(くに)(つな)うち()け、
もそろよと、
もそろと、
国引(くにひ)くと、()()すと。

あなおほら、大君(おほきみ)()らす、
あなをかし、目翳(まかげ)しおはす。

()しや、()しや、弥栄(いやさか)
とどろとどろ、弥栄(いやさか)


5 速吸と菟狭


その一

海原(うなばら)青海原(あをうなばら)
海道(うみつぢ)(みちびき)や、()槁根津日子(さをねつひこ)
速吸(はやすひ)水門(みと)になも、その珍彦(うづひこ)


童ぶり

(かめ)(かふ)()られて、
(しほ)()()られて、
かぶりかうぶり(あま)()
(さを)やらな、()いまゐれ、
(なみ)かぶりかぶるに、
(ふね)へと(うつ)らせ、
()をのれ()()や、
(ふね)へまゐ()づるは
(やつこ)ぞとそれまをす。
(くに)(かみ)()ひこごむ。
(しほ)みづく(くに)(かみ)
海豚(いるか)()()よな、
遠眼(とほめ)鋭眼(とめ)(さかし)な、
()ぶり()ぶりおもしろ。


その二

菟狭(うさ)はよ、さす(しほ)水上(みなかみ)
豊国(とよくに)行宮(かりみや)
ああはれ、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)とよ、行宮(かりみや)

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)は、行宮(かりみや)
(あを)岩根(いはね)一柱(ひとはしら)()す。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)参出(まゐづ)ると、
(おほ)わたの(かめ)(かは)のぼり()る。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)大御饗(おほみあへ)
()(たてまつ)るはるか雲居(くもゐ)に。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)やは菟狭津彦(うさつひこ)
(あした)さもらふ、(ゆふ)べさもらふ。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)(たぎ)()や、
足一(あしひと)(あが)り、(くも)()()ます。

 ええしや、をしや、
 ええしや、をしや。


6 海道回顧


その一

かがなべて、()(よる)を、海原(うなばら)(わた)り、
かがなべて、()(とし)を、(みや)(うつ)らしき。
  ああはれ、その幾歳(いくとせ)
  ああはれ、その()()き。

(とし)ごとに、御伴船(みともぶね)、いや(かず)()えぬ、
つぎつぎに、御従(みつき)びと、またいや()しぬ。
  ああはれ、また春秋(はるあき)
  ああはれ、そが海山(うみやま)


その二

(つき)()や、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)
一年(ひととせ)や、筑紫(つくし)崗田(をかだ)(みや)

多祁理(たけり)とも、阿岐(あき)()(みや)
たづたづや、七年(ななとせ)や。あはれ。

吉備(きび)にして、また八年(やとせ)高嶋(たかしま)(みや)
大和(やまと)はも(とほ)しとよ、高千穂(たかちほ)(はる)けしと。


その三

かがなべて、()(よる)を、海原(うなばら)(わた)り、
かがなべて、()(とし)を、(みや)(うつ)らしき。
  ああはれ、その幾歳(いくとせ)
  ああはれ、その()()き。

()()つや、み(たくはへ)()やかく()りぬ、
(あめ)(した)ことむけむ、(とき)(いま)()りぬ。
  ああはれ、えしや、
  ああはれ、(いま)(とき)や。


7 白肩の津上陸


その一

青雲(あをぐも)白肩(しらかた)()、その()に、
()たけびぞ(いま)あがる、御船(みふね)()てぬ。
  いざのぼれ大御軍(おほみいくさ)
  いざ(ふる)丈夫(ますらを)(とも)

浪速(なみはや)()(さわ)味鳧(あぢがも)や、その()を、
()()しに()しのぼり、み(たて)()めぬ。
  いざのぼれ大御軍(おほみいくさ)
  いざ(ふる)丈夫(ますらを)(とも)


その二

日下江(くさかえ)蓼津(たでつ)、その()に、
()たけびぞ(いま)あがる、大御軍(おほみいくさ)
  いざのぼれ、大和(やまと)(ちか)し、
  いざ(ふる)丈夫(ますらを)(とも)

浪速(なみはや)(うしほ)なし(さかのぼ)ると、
()()かば(なに)はばむ、長髓彦(ながすねひこ)
  いざのぼれ、大和(やまと)(ちか)し、
  いざ(ふる)丈夫(ますらを)(とも)


8 天業恢弘


神坐(かみま)しき、蒼雲(あをぐも)(うへ)(たか)く、
高千穂(たかちほ)槵觸峯(くじふるたけ)
  (はる)かなりその肇国(はつくに)
  (きは)みなし(あま)つみ(わざ)
  いざ(あふ)大御言(おほみこと)を、
  (かしこ)きや(さや)御鏡(みかがみ)

(くに)ありき、綿津見(わたつみ)(しほ)(わか)く、
光宅(みちた)らし、四方(よも)中央(もなか)
  (はる)かなりその国生(くにうみ)
  かぎりなし(あま)日嗣(ひつぎ)
  いざ()がせ(こと)()さすもの、
  勾玉(まがたま)とにほひ(つづ)らせ。

(みち)ありき、(いにしへ)もかくぞ(ひび)きて、
つらぬくや、この天地(あめつち)
  (はる)かなりその神性(かむさが)
  おぎろなしみ(つるぎ)太刀(たち)
  いざ()たせまつろはぬもの、
  ひたに()ち、しかも(やは)せや。

(くも)(あを)し、(かみ)さぶと(いや)とこしへ、
()(ぐは)()山河(やまかは)
  (はる)かなりその国柄(くにがら)
  (ゆる)ぎなし(そこ)磐根(いはね)
  いざ()たせ天皇(すめらみこと)
  神倭(かむやまと)磐余彦命(いはれひこのみこと)

(かみ)()大御稜威(おほみいつ)高領(たかし)らせば、
八紘(あめのした)(ひと)(いへ)とぞ。
  (はる)かなりその肇国(はつくに)
  (はて)もなし(あま)つみ(わざ)
  いざ()らせ大和(やまと)ここに、
  ()たけびぞ、弥栄(いやさか)我等(われら)



個々の曲にコメントを記載しています。作曲家のページよりご覧ください。
   Nobutoki Kiyoshi 信時潔

( 2015.11.20 藤井宏行 )