童謡百曲集 第4巻 |
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61 光のお宮
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青い空 山の上にも 青い空 青い 青い むかうには 光の お宮が あるだらう |
62 山桜
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もう さきだした お山のさくら 何本あるか かぞへてみたら ひい ふう みっつ お山で あそぶ わたしは ひとり ゆすつてみよか 大きな桜 ひら ひら ひらと お花が ちつた 葉の やはらかい お山のさくら お日様照つて 光つてをった |
63 冬
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草は かれがれ 石白く 赤い野茨(のばら)の實が のこる 鳥の懸巣(かけす)を のぞいてみたら その巣 こわれて 芥がさがる あくた さがつて 雨が降る 池の緋鯉を のぞいてみたら 緋鯉見えずに ちよんぼりと 蓮のあたまが 浮いてゐる 学校がへり 下駄きつて 肩のからかさ くるくると まはしてゆけば雨がふる |
64 山彦
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何のこゑ あのこゑ 山のこゑ たかい たかい 山のこゑ 山の上に いつたれば 青い空が あるばかり あのこゑ 何のこゑ あのこゑ 谷のこゑ ふかい ふうかい 谷のこゑ 谷の底へ いつたれば 白い水が ゆくばかり あのこゑ 何のこゑ あのこゑ 森のこゑ とほい とほい 森のこゑ とほい 森へ いつたれば 紅い落葉が ちるばかり |
65 夕焼雲
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夕やけぐもよ カオ カオ カオ と かへるが ないた すゞしい路は もう 日が くれる まだまだ薄い お月が 見える 緑の谷の 花にもうつる まつ赤な空の 夕やけぐもよ |
66 蝉
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あぶら蝉 鳴きな 鳴きな あつちの山で ぢいぢい こつちの山でも みんみん つくつくほうし つくほうし ほうし ほうし 鳴きな 汗だして 鳴きな いつしょ けんめい とびな 赤い夕日が はいるとき 大きな声で なきな |
67 古井戸
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水が無い 涸れた古井戸 さびしいな こゝは お山の ふもとにて 昔からある 古い家 桑の木 青々 よく しげり むらさきいろの 實が とれる 裏の古井戸 つるべ無し 藪には さがる 烏瓜 |
68 お友だちといつしよ
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いつしよ 學校から かへる 歌を そろふて うたつて かへろ 青い野原を うたつて かへろ 野はらの路に 春風ふいて すみれの花や たんぽぽ さいた お友だちと いつしよ うたつて かへろ |
69 蝶々
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蝶々が とんだ 障子に 影して てふてふが とんだ 垣根のそばの つつじの花が 紅く さいて 春風ふくよ 蝶々 蝶々 どぅこへ いつた しやうじに うつる 影見たばかり 野原の方へ てふてふよ ゆけよ 野原は 花が たくさん あらう |
70 春が来た
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春がきた 青い空から 春が きた 御堂の屋根に きら きら 光る 春の太陽 あかるいな 草は あをあを 野原に はえて 羊が 路を 横ぎりゆくよ 野原の御堂 高い御堂 きら きら ひかる きらきら ひかる |
童謡百曲集 第4巻で再び露風の詩による童謡が10曲再登場です(第61〜70曲)。第61曲の「光のお宮」には1922年に作曲され、雑誌「童話」 同年の10月号に掲載された別の曲があります。まあ同じ作曲家が同じ詩につけた曲なのでかなり似た雰囲気の曲となっているような気もします。区別するためにか、春秋社の楽譜では後から書かれたこの童謡百曲集の方は「光のお宮U」としておりました。この曲を含めても、あまりインパクトのある作品はなくて今や顧みられることはない10曲でしょうか。
中では「蝶々」がおなじみの「スペイン民謡」とされる「蝶々」のメロディのパロディとなっていてちょっと面白かったです。また「お友だちといっしょ」は、白秋-耕筰コンビを思わせるユーモアが愛らしいです。冒頭と最後の軍隊ラッパのような軽快なメロディに挟まれて中間部「野原の道に」の部分がしゃれたワルツになるところが特に印象的。
( 2015.09.26 藤井宏行 )