童謡百曲集 第2巻 続き |
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31 山百合
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谷間の細径 草分けて ちよろちよろ水の岩のかげ 山百合 みつけた お馬車の笛が ぽうと鳴る あぶない崕の下道で 山百合 みつけた 姉(あね)さんかぶりの白い顔 はづかしさうに うつむいた |
32 野道
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村太鼓 菜たねの村は お祭りだ ほうづき提灯 華万灯(はなまんど) 桃の村でも お祭りだ 菜たねの村から 桃の村 角兵衛の子供は 野道ゆく どこどん どこどん どこどんどん 春の日永の 村太鼓 菜たねの村は お祭りだ 桃の村でも お祭りだ |
33 遠足
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おむすび 水筒 運動靴 いさんで出てゆく子供たち 軍歌に足ぶみ合わせつゝ 紅葉の山で おべんたう 松の林で 鬼ごっこ 可愛いい松露や初茸や 風に揺られる小鳥網 かへりは汽車で大はしやぎ それそれ駆け出す野も山も 電信柱も赤屋根も みんなうしろに逃げてゆく 高いお空で百舌鳥が鳴く それ それ 見えるは 學校だ 萬歳 萬歳 萬々歳 夕日もお山へおかへりだ |
34 風鈴
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赤ちゃん すやすや睡(ね)ましたよ 風鈴 ちりちり 鳴りました 赤ちゃん にっこと 笑ひます 夢のなかでも風吹いて 風鈴 ちりちり 鳴つたでせう |
35 燕
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つばくらめ のきに 柳の 葉はそよぐ ダンス はじめた つばくらめ でんせんのうへ 空のうへ 青い海ふく 風にのり |
36 七夕
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金銀砂子 星の宮には 螺鈿(らでん)の梯子 のぼる少女(をとめ)は 青色衣(あをいろぎぬ)に 夜の灯(ひ)を守(も)る 牽牛織女(けんぎうしよくぢよ) 柳のかげに 今宵も見える 遠いかなたの 星をばしたひ 夢の河には 金銀小舟 それを棹さす 少女(をとめ)はわが身 |
37 青い小鳥
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青い小鳥はとんでゆく 小鳥のゐない籠を手に チルチル ミチル どこへゆく おもひでの国 夜の国 そとは小雪もふりしきる 花の匂ひのする窓で 青い小鳥はないてゐよう |
38 洗濯媼(ばあ)さん
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桃の花ひら ひら 温(ぬる)んだ川で ぢやぶ ぢやぶ ぢやぢやぶ いーくら洗つて いーくら干しても まだ日は落ちぬ ぢやぶ ぢやぶ ぢやぢやぶ やつこらさと 立つて いたい腰のばし やつこらさと 歩く 隣の媼さん まだ日は落ちぬ 鵞鳥はがあ があ 桃の花ひら ひら まだ日は落ちぬ |
39 とんび
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ぴいひよろ ひよろろ 明日もお天気 ぴいひよろ ひよろろ 油揚さらつた ぴいひよろ ひよろろ 小僧が泣いてる ぴいひよろ ひよろろ |
40 電話
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南の国から 電話ですーー 黄ろいお蜜柑なりました 椿の花もさきました ストーヴ消して 外に出て 野原の草に坐りませう --もし もし そちらはどなたです --はい はい わたしは遠方の 東の風と申します わたしの可愛いゝ愛娘 鶯がもうぢきまゐります さよなら さよなら ちりりん りん |
耕筰の童謡100曲集、第2巻後半の31〜40曲目は川路柳虹(1888-1959)の手になるもの。今や忘れられつつある詩人のようにも思えますが、それは歴史の巡り会わせ、運不運の賜物ということで、この耕筰の童謡100曲集に名を連ねる大詩人たちに対して遜色があるというわけではありません。
この10曲の歌詞はすべて「鸚鵡の歌」(新潮社 童謡詩人叢書5 1926)より取られています。
童謡百曲集に取り上げられた他の詩人、北原白秋(1885年生まれ)、野口雨情(1882年生まれ)、三木露風(1889年生まれ)、西条八十(1892年生まれ)と並べてみると丁度生年が真ん中になりますが、詩のテーマの選択や字句の選び方などは一番新しいようなイメージがします。それだけに時代が変わると「遠足」のように生活スタイルが変わってしまって歌えなくなってしまうものが多く出て来るのも仕方ないところでしょうか。この中でユーモラスな詞と曲でもっともよく歌われている「電話」にしても、固定電話がものすごい勢いでなくなっていく昨今、いつまでこの情感を共有できる人たちが残っているかですね。「青い小鳥」のチルチル・ミチルにしても、元となるメーテルリンクの童話はかつてほどのポピュラリティはなくなっているような気がしますのでこの詩のままではさっぱり何のことか分からない人も増えているように思います。
関定子さんの歌曲集録音ではポピュラー曲を主に集めた第1集にこの「電話」と「青い小鳥」が、もう少し渋い選曲の第2集で「風鈴」が収められておりました。この「風鈴」なんかとても良い曲だと思うんですが(ちなみにこの「風鈴」 同じ詩に草川信も素敵なメロディをつけております あちらの方が若干有名かも)...
そういえばこの「青い小鳥」、あの美空ひばりが歌った録音も残っております。
( 2015.09.26 藤井宏行 )