TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


童謡百曲集 第2巻  


詩: 三木露風 (Miki Rofuu,1889-1964) 日本

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本 日本語


21 雲雀


そろふた そろふた 
麦の穂がそろた
畑の雲雀 
天まで揚れ
ピーチク ピーチク ピーチク

お日様光る 
水車が光る
藁屋も光る 
雲雀よ うたへ
ピーチク ピーチク ピーチク

雲雀が下りた 
天からおりた
銀のやうな月が 
麦の上に出てる
ピーチク ピーチク ピーチク


22 青蛙


流そ 
流そ 
柳の葉で流そ

出水(でみず)のあとの 
雨がへる 
背なかは青い 
お腹は白い

あつち 向いちや くるり
こつち 向いちや くるり
目 ぱち ぱち

流そ 
流そ 
柳の葉で流そ


23 チラチラ小雪


チラ チラ 小雪 
ふるのは 小雪
小犬の背(せな)に 
降るのは 小雪

朝寒 小寒(あささむ こさむ) 
お池の水は
こほつて固い 
ふれ ふれ 小雪

はばたく鳥の 
羽にも ふるよ
とべ とべ 小鳥 
ふれ ふれ 雪よ


24 コスモスと蝶々


小さいコスモス 
花咲いた
赤い一輪 
花さいた

うちのお庭に 
苗うゑて
育てたコスモス 
さきました

白い蝶々が 
来て とまる
花より大きい 
白い蝶

風もないのに 
ゆらゆらと
コスモスゆれた 
蝶のため


25 土筆つみ


つくし つくし 
つくしを つまう
つくしを 見つけた 
三本 四本

こつちにも あつた 
あつちにも あるよ
大きな土筆 
なあがい つくし

つくし つくし 
つくしを つまう
毎年(まいねん) こゝには 
つくしが はえる

はや もう たくさん 
こんなに つんだ
もう 帰らうよ 
春の日 永い


26 一本松


一本松 
一本松 
山の松
はなれて 見たれば 
高(たァか)いに
その下 とほれば 
なぜ 見えぬ

一本松 
一本松 
かくれ松
とぼとぼ とほれば 
日が くれて
まつかな 夕日が 
遠ござる


27 赤とんぼ


夕焼 小焼の
あかとんぼ
負はれて見たのは
いつの日か

山の畑の
桑の実を
小籠に つんだは
まぼろしか

十五で 姐やは
嫁にゆき
お里の たよりも
たえはてた

夕やけ 小やけの
赤とんぼ
とまってゐるよ
竿の先


28 秋まつり


たんぼの稲に 
夕風 わたつた
チロ チロ 虫が 
黍の穂に ないた

祭の路に 
あかりが ついた
チラ チラ うごく 
あかりよ あかり

お客に まゐった 
山の子は いくつ
三つに 五つ 
負はれて来ました


29 とんぼがへり


すかんぽは 
酸(すう)いな 
茅花(つばな)の莖 
あまいな

小雉子(こきじ) 
小雉子を
追っかけろ

調練場(てうれんば)の 
原で 
とんぼがへつて 
はねろ


30 雀と鶯


雀 なきだす 春日和 
朝は はよから 鳴く雀
都の家の近くにて 
春知りがほに とんでゐる

雀 なきだす うらゝかの 
けふは ほんとに よい天気
わたしは ひとり 遊んでる 
雀を 友に 唄はうか

籠に飼はれた鶯が 
折から またも なきだした
籠に飼はれた うぐひすよ 
遠くの谷は どうであろ

都に来ては 飼はれたが 
山のふるさと どうであろ
白い桜がさいている 
霞も 峯に 曳いてゐる

天気つゞきの 春が来て 
空は のどかに あたゝかい
私は ひとり 家に居て 
又も 雀の聲を聞く



電車通勤のかたわら書き溜めた童謡100曲を一気に歌曲集とした「童謡百曲集」 第2巻は21〜40曲目までの20曲、その前半は三木露風パート1が10曲収録されています。電車の中で詩集をよみつつメロディの想を練ったということで、これらはすべて露風の詩集「小鳥の友」(新潮社童謡詩人叢書3 1926)から取られています。
北原白秋の詩による第1巻や第3巻の歌のようには知られた曲は多くありませんが、中に1曲だけ日本人なら誰でも知っているはずの有名曲が入っています。言うまでもなく「赤とんぼ」ですね。露風の童謡詩は白秋や雨情のものにくらべるとどことなくリズム感が悪いような気がしていて、童謡としてはいまいちノレない歌が多いように私には思えるのですが、この歌はそのあたりが絶妙です。もしかしたら白秋の詩につけたあまたの名作をさておいて、この曲が耕筰の童謡の最高傑作と考える方も多いかもしれません。
この他の曲では、その言葉の流れの悪さを逆手に取った「青蛙」が歌の緩急が面白く聴けて、ときたま取り上げられることがありますでしょうか。残りの8曲はまず取り上げられることはないように思います。関定子さんの大量の山田耕筰歌曲録音(恵雅堂)、第1集に「赤とんぼ」と「青蛙」、第2集に「一本松」と「秋まつり」が収録されていますので珍しい2曲が聴けるのが嬉しいですが。「秋まつり」がイタリアの舟歌のような優雅な調べになっているのはちょっと度肝を抜かれました。

( 2015.09.26 藤井宏行 )