児童雑誌「良友」のための作品より |
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円いお月
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かつぽん かつぽん 啼く鳥よ あまり良い月 お月ゆゑ かへる塒(ねぐら)をわすれたか 青い野の花白い花 そよそよ小風にうごいてる お星の子供か白い花 ピカピカ露に光ります 羊も 犢(こうし)も みな帰り 草の小径(こみち)はすゞしいな まァるいまァるい月にまだ かつぽん かつぽん なく鳥よ |
ほととぎす
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ほとゝぎす ほつとん かけたか なきまする 昼は青葉に ほとゝぎす ほつとん かけたか なきまする 山でも 森でも 啼く鳥よ 声はあるけど 声ばかり 夏の夜空を 飛んでゆく ほつとん かけたか ほとゝぎす |
小鳥と蝸牛
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小さな枝は 小鳥よ 小鳥 啼き 啼き 飛べよ 谷から谷へ さらさら水の 小川をこえて 匐(は)へ 匐へ 匐へよ 蝸牛(ででむし) 匐へよ 枝から枝へ お家をつけて 朝日が照らす 静かな時に 蝸牛 匐へよ |
母鳥子鳥
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鳴りました かん かん かん かん なりました 森の日暮の樹のかげに かさかさ音する 何鳥か 青い寝床に こんもりと 休む 子鳥よ 母鳥よ |
秋の夜
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見る間に消えて月が出る 黄ろい 黄ろい お月様 波の寄せくる音がして しづかに映る影法師 昼間のやうにあかるいな 聖堂(みどう)の上にも照る月よ 草葉に露がおきだした チロチロ虫もないてゐる |
星
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青い木の葉よ 木の枝よ 聖堂(みどう)のあたりは青葉して お星の光が涼しいよ 幼き御子(おんこ)を抱きます 慶(めで)たき御星(おほし)のマリア様 金の冠(かむり)をいたヾいた 奇(くす)しき玖瑰花(ばら)の おん母よ |
漁り火
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あかるい空よ 流れのうへに 映つたそらよ お山の 林の 上に出た 円るいお月は 樹の蔭に むかうに見ゆるは 漁り火よ 星より白い いざりびよ |
ちんころ小犬
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小鈴をつけてあそべよあそべ チヤラ チヤラ チヤラ ちんころ ちんころ小犬よ小犬 尾をふり尾をふりあそべよあそべ 家(うち)のご門の雀が見てる チユツチヨン チユツチヨン チユ ちんころ ちんころ小犬よ小犬 尾をふり尾をふりあそべよあそべ 山にも 海にも 町にも野にも 天のはてから小雪がふるよ サラ サラ サラ |
春の磯辺
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朝日の光 海の大波 小波も寄るよ 春の磯辺に のつたり のたり 風が吹く吹く そよかぜがふく 花も散らうか さざなみの上に |
春の唄
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鳥も来るだろ 鳴くだらう 山にうぐひす 野に鶉 桜 さいた さいた 町にもさいた 空もかがよう春の日に お馬ゆるゆる来ればよい きのふもけふも明日もまた 春が天気であればよい さくら さいた さいた 山にもさいた 春の景色は まっ白な |
よしきり
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キリゝ キリゝ よしきりがなく 夏のあつさにそよかぜふいて 岸の浜荻 よしきりがなく |
1922年から23年にかけて露風がたくさんの詩を寄稿していた児童雑誌、その22年8月号から翌年の6月号までに毎月1曲ずつ耕筰の作品が掲載されたのだそうです。
ここでは掲載順に並べましたので
1922年8月号 円いお月
1922年9月号 ほととぎす
1922年10月号 小鳥と蝸牛(ででむし)
1922年11月号 母鳥子鳥
1922年12月号 秋の夜
1923年1月号 星
1923年2月号 漁り火
1923年3月号 ちんころ小犬
1923年4月号 春の磯辺
1923年5月号 春の唄
1923年6月号 よしきり
おそらくもう既に雑誌の発売月は1か月早く出る習慣は根付いていたのでしょう。明らかにクリスマスが題材の「星」(1月号)や桜の描写の「春の唄」(5月号)などは1か月前倒しだとタイミングが合いますし、毎号季節感あふれる選曲となっていたのでしょうね。やはりまだ耕筰の本領発揮とは行っていないようで、どの曲もほとんど今では取り上げられることもないようです。
( 2015.09.26 藤井宏行 )