雑誌「少年倶楽部」のための作品 |
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海鳴り
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眠らんしよ 子とろ 子とろと 海が鳴る おろろん おろろん 眠らんしよ 泣く子 伴(つ)れよと 風がふく おろろん おろろん 眠らんしよ 島の 向ふに 捨(すて)られる おろろん おろろん 眠らんしよ 海の 坊主が 門(かど)へ来る |
山づたひ
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わたしはけふもさがします 見たことのない 「幸福(しあはせ)」を 山のむかふのまたむかふ 空のむかふのまたむかふ わたしはいくつ越えてきた 見たことのない 「幸福(しあはせ)」は 山のいづこで唱(うた)ふやら 谷のいづこにすまふやら 知らない山をあふぐとき 知らない谷をのぞくとき わたしのむねは顫(ふる)へてた あかい夕日がなつかしく 山の緑を照らすとき 山には何の声もない わたしは鵠(こう)の巣のそばで 鳥の卵を抱いてゐた なみだながらに抱いてゐた |
ふなうた
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日が暮れる いそげ 波路を鰹舟 やんれ 艪で押せ 櫂でやれ 明日は お江戸の日本橋 人の頭に市が立つ やんれ 鰹の市がたつ 沖の篝火 誰が焚くよゥ 宵のうちからまちかねて 朝は篝が白むまで 烏賊釣つて焦がすよゥ |
風車の歌
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矢羽でまはる くうるくる 明日はどちらの風がふく 今日は今日とて風車 矢羽でまはる くうるくる ふかばふけふけ 季節風(かぜ) 明日の天気は誰が知ろ ふかばふけふけ 時つ風 今日の真に生きる身は 明日の生命(いのち)を何でしろ |
1920年、雑誌「少年倶楽部」に露風は継続的に詩を寄稿していたのだそうで、耕筰はその中の4篇に依頼されてメロディをつけています。「海鳴り」は6月号、「山づたひ」7月号、「ふなうた」9月号、「風車の歌」11月号に、詩と曲が同時に発表されたのだそうです。曲は歌のメロディだけで、作曲者名は「清水川美沙」となっていましたが、後に耕筰のペンネームであることが分かっています。なかなか軽快で面白い詞に素朴な日本情緒あふれるメロディがつけられています。ほとんど演奏されることはない作品ばかりですが、結構耳に残ります。カール・ブッセのかつて日本でもたいへん有名だった「海潮音」での上田敏の名訳のある「山のあなた」を明らかに下敷きにしている「山づたひ」など、童謡の風貌をしながら結構深いです。
( 2015.09.24 藤井宏行 )