三つの詩 |
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1 海辺
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横雲 そのもとに 鳶の啼く わが 旅の空 |
2 燈下
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果は一顆 百目柿 客舎の夜半の静物を 馬追ひのきてめぐるかな |
3 訪問者
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代わる代わる 私の窓に入ってくる さうして 一つ一つ私の持ち物を点検する 外套 帽子 辞書 麺麭(パン) 梨 肉叉(フォーク) さうして訣れの挨拶に 私の耳を 覗きにくる |
三好達治のちょっと癖のある3篇の詩を選んだ清水は、見事なまでのこちらも癖のある歌を書きました。昭和22年ごろの作曲といいますから作曲者30代後半の気鋭の時期。1曲目の旅路の憂鬱、2曲目の静寂感、そして3曲目の飄逸な流動感、いずれも見事な曲です。Victorの日本歌曲選集で畑中良輔の実に味わい深い歌声で聴くことができますが、今では入手は難しいでしょうか。
三好の詩は初めの2篇が昭和10年出版の彼の第4詩集「山果集」より。最後の「訪問者」のみその1年前出版の第3詩集「濶ヤ(かんくわ)集」からです。いずれも旅先での情景を歌ったもののようです。
( 2015.04.30 藤井宏行 )