Schilflieder Op.2 |
葦の歌 |
1 Auf geheimem Waldespfade
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1 秘密の森の小道の上を
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Schleich' ich gern im Abendschein An das öde Schilfgestade, Mädchen,und gedenke dein! Wenn sich dann der Busch verdüstert, Rauscht das Rohr geheimnisvoll, Und es klaget und es flüstert, Daß ich weinen,weinen soll. Und ich mein',ich höre wehen Leise deiner Stimme Klang, Und im Weiher untergehen Deinen lieblichen Gesang. |
私はひっそりと歩いてゆくのが好きだ 夕暮れの中 誰もいない葦原へと 少女よ、そしてお前を思うのだ! 森が暗くなるとき 葦は意味ありげにざわめく そして嘆き、ささやいている 私は泣くのだ、泣かねばならぬのだ そして私は思う、私は今聞いているのだと 静かなお前の声の響きを 沼の中に沈んでいく お前の愛らしい歌声は |
2 Drüben geht die Sonne scheiden
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2 彼方へと太陽は別れ行き
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Und der müde Tag entschlief. Niederhangen hier die Weiden In den Teich,so still,so tief. Und ich muß mein Liebstes meiden: Quill,o Träne,quill hervor! Traurig säuseln hier die Weiden, Und im Winde bebt das Rohr. In mein stilles,tiefes Leiden Strahlst du,Ferne! hell und mild, Wie durch Binsen hier und Weiden Strahlt des Abendsternes Bild. |
疲れた一日は眠りこむ ここに垂れ下がっている 柳の枝は 池の中へ とても静かに とても深く そして私は最愛の人を避けねばならぬ 湧き出でよ おお涙よ 湧き出でよ! 悲しげにここで柳はささやき そして風が葦を揺らしている 私の静かな 深い苦しみの中に お前は輝く 遠くで!明るく穏やかに それはまるで ここの葦や柳を通して 夕星の姿が光を発しているかのように |
3 Trübe wird's,die Wolken jagen
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3 暗闇が広がり 雲が飛び去って行く
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Und der Regen niederbricht, Und die lauten Winde klagen: Teich,wo ist dein Sternenlicht? Suchen den erloschnen Schimmer Tief im aufgewühlten See. Deine Liebe lächelt nimmer Nieder in mein tiefes Weh! |
そして雨が にわかに降り出し 大声で風が嘆く 池よ どこにお前の星の光はあるのだ? 消え去ったきらめきを探すのだ 荒れ狂う水の中深く お前の愛はもう決して微笑むことはない 私の深い悲しみに向かって! |
4 Sonnenuntergang; schwarze Wolken zieh'n
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4 日没 黒い雲が
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Schwarze Wolken zieh'n, O wie schwül und bang Alle Winde flieh'n! Durch den Himmel wild Jagen Blitze bleich; Ihr vergänglich Bild Wandelt durch den Teich. Wie Gewitter klar Mein' ich Dich zu seh'n, Und dein langes Haar Frei im Sturme weh'n! |
黒い雲が流れて行く おお 何と湿っぽく上安げに 風は吹き過ぎるのだ! 荒れ狂う空を通して 青ざめた稲妻が光る その束の間の反映が 池の中に映る その嵐の中にくっきりと 私はお前が見えるように思える そしてお前の長い髪は 嵐の中を吹き過ぎて行く! |
5 Auf dem Teich,dem Regungslosen
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5 池の上、動きひとつなく
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Weilt des Mondes holder Glanz, Flechtend seine bleichen Rosen In des Schilfes grünen Kranz. Hirsche wandeln dort am Hügel, Blicken in die Nacht empor; Manchmal regt sich das Geflügel Träumerisch im tiefen Rohr. Weinend muß mein Blick sich senken; Durch die tiefste Seele geht Mir ein süßes Deingedenken, Wie ein stilles Nachtgebet. |
月が明るい輝きでじっと映っている その青ざめたバラ色を編みこんでいる 葦の緑の花輪の中に 鹿があそこの丘をさまよっている 夜を高く見上げて 時折鳥たちが動く 夢を見ているかのように 高い葦の中 泣きながら私は目を伏せる 私の魂の底を通り過ぎるのは お前への甘い思い 静かな夜の祈りのような |
ニコラウス・レーナウの5篇からなる有吊な連詩「葦の歌《、そのすべてにローベルト・フランツはメロディをつけて歌曲集Op.2としております。レーナウの原詩とは順番が違っていて、フランツの歌曲でいうと2→3→1→4→5曲の順に原詩はなっています。またフランツの第1曲目(原詩の3篇目)にアルバン・ベルクの、第5曲目(原詩の5篇目)にはメンデルスゾーンのそれぞれ有吊な歌曲が同じ詩にメロディをつけたものとしてあります。報われない愛をじめじめとした湿地をさまよいながら嘆くという陰鬱な歌ですのでどうしても音楽は地味ですけれども、1曲目の端正な語り、2曲目の雄弁な嘆息、3・4曲目の激しい心の揺らめき、そして最後の曲のしみじみとした諦観と、けっこう変化に飛んだ歌曲集でもあります。何よりこのレーナウの代表作をひとつの歌曲集として耳にできるという点だけでも買いでしょう(他にもあまり知られていない作曲家が幾人も同じ試みをこの連詩でやってはおりますが)。
ハンス・イェルク・マンメルのテノールに、ルートヴィヒ・ホルトマイアーのクラーヴィアの鄙びた響きで美しく演奏されている録音があります(Ars-Musici)
( 2015.04.19 藤井宏行 )