沙羅 |
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1 丹沢
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うらうらと雲さへも、冬なのに 尾根長く檜洞(ひのきぼら)こえて響く澤おと どの山も崩土(がれ)の色だけは凍(い)ててゐる 塔のむかふ町並み光らせて秦野(はたの) 見やる天城(あまぎ)も明るい草附き 雪の来ぬ冬山のくぼに 煙草吸うて見る ひとり |
2 あづまやの
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まやのあまりに 立ちぬれて 殿(とん)の戸あけと 云ひし人もが 鎹(かすがひ)も扃(とざし)もなしと 云ひし人もが 五月雨を わが訪ひくれど 門さして 君はいまさず 憎くや この君 |
3 北秋の
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峡(かひ)のこヾしき道のくま わが見し花に 吊づけてよ 君 いなむしろ 君によそへて 呼ばましものを みつみつし 白く小さき 北秋(きたあき)の花 |
4 沙羅
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日の暮は ゆめのごとし 眞玉(またま)夕つゆ おもくして 沙羅の花ちる さ丶ら 沙羅の花 ほの黄色(きいろ)なる |
5 鴉(からす)
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ふみ破(わ)り 踏(ふ)み渉(わた)る 大おそどり、からす 首ふり 肩をはり 蹠(あうら)つめたげに ついばむ ひょうひょうとして 大おそどり からす |
6 行々子(よしきり)
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河原の平(ひら)に よしきりは鳴く 日ねもす鳴く 昔わが遊びし時と 變ることなし よしきりは鳴く 日ねもす鳴く 耳いたく鳴く |
7 占ふと
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梳(くしけづ)るわが黒髪の 常(いつ)になうときわけがたく なにがなし 心みだる丶 ためらふと云ふにあらねど すき櫛をくしげに捨て丶 わけもなう嘆息(ためいき)すれば あ丶まこと わが戀のさだめにも似て ひたすらに 心わびしも |
8 ゆめ
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見る夢の さめはてぬ かなしさや 野のはてに 池ありて 人をらぬ 静けさや 白々(しらじら)と たゞひろく ひろごれる さびしさや 夢ごころ うつつ心 たゞひろき 池ばかりなる |
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Nobutoki Kiyoshi 信時潔
( 2015.03.07 藤井宏行 )