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5 Lieder  
5つのリート

曲: マーラー,アルマ (Alma Mahler,1879-1964) オーストリア ドイツ語


1 Die stille Stadt (Richard Fedor Leopold Dehmel)
1 静かな町 (デーメル)

Liegt eine Stadt im Tale,
Ein blasser Tag vergeht.
Es wird nicht lang mehr dauern
Bis weder Mond noch Sterne
Nur Nacht am Himmel steht.

Von allen Bergen drücken
Nebel auf die Stadt,
Es dringt kein Dach,nicht Hof noch Haus,
Kein Laut aus ihrem Rauch heraus,
Kaum Türme noch und Brücken.

Doch als dem Wandrer graute,
Da ging ein Lichtlein auf im Grund
Und aus dem Rauch und Nebel
Begann ein Lobgesang
Aus Kindermund.

ひとつの町が谷間に横たわる
鉛色の一日が過ぎていく
もうそんなに長くはかからないだろう
月も 星さえも消えて
夜だけが空に見えるようになるまでには

あたりのすべての山々から流れ出す
霧が、町の上へ
何も突き抜けられはしない 屋根も中庭も家も
遠くからの霧煙に包まれた音も
塔さえも そして橋も

だが、さすらう旅人が怖れを感じたとき
大地より小さな灯りが現れた
そして霧や煙を突き抜けて
穏やかな賛歌が聞こえてきたのだ
子供の口から

2 In meines Vaters Garten (Otto Erich Hartleben)
2 わが父の庭の中 (ハルトレーベン)

In meines Vaters Garten --
  blühe mein Herz,blüh auf --
in meines Vaters Garten
stand ein schattender Apfelbaum --
  Süsser Traum --
stand ein schattender Apfelbaum.

Drei blonde Königstöchter --
  blühe mein Herz,blüh auf --
drei wunderschöne Mädchen
schliefen unter dem Apfelbaum --
  Süsser Traum --
schliefen unter dem Apfelbaum.

Die allerjüngste Feine --
  blühe mein Herz,blüh auf --
die allerjüngste Feine
blinzelte und erwachte kaum --
  Süsser Traum --
blinzelte und erwachte kaum.

Die zweite fuhr sich übers Haar --
  blühe mein Herz,blüh auf --
sah den roten Morgentraum --
  Süsser Traum --

Sie sprach: Hört ihr die Trommel nicht? --
  blühe mein Herz,blüh auf --
  Süsser Traum --
hell durch den dämmernden Traum

Mein Liebster zieht in den Kampf --
  blühe mein Herz,blüh auf --
mein Liebster zieht in den Kampf hinaus,
küsst mir als Sieger des Kleides Saum --
  Süsser Traum --
küsst mir des Kleides Saum!

Die dritte sprach und sprach so leis --
  blühe mein Herz,blüh auf --
die dritte sprach und sprach so leis:
Ich küsse dem Liebsten des Kleides Saum --
  Süsser Traum --
ich küsse dem Liebsten des Kleides Saum. --

In meines Vaters Garten --
  blühe mein Herz,blüh auf --
in meines Vaters Garten
steht ein sonniger Apfelbaum --
  Süsser Traum --
steht ein sonniger Apfelbaum!

わが父の庭の中-
 花咲けわが心 花咲け-
わが父の庭の中
立っている 一本の影を落とすリンゴの木が-
 甘い夢- 
立っている 一本の影を落とすリンゴの木が

三人のブロンドの王女たち-
 花咲けわが心 花咲け-
三人の魔法のように美しい王女たち
まどろんでいる そのリンゴの木の下で-
 甘い夢-
まどろんでいる そのリンゴの木の下で

中で一番若い可愛い娘は-
 花咲けわが心 花咲け-
中で一番若い可愛い娘は
まばたきしたが 目覚めなかった-
 甘い夢-
まばたきしたが 目覚めなかった

二番目の娘は髪をなでながら-
 花咲けわが心 花咲け-
真っ赤な朝の夢を見てた-
 甘い夢-

彼女は言った 「太鼓の音が聞こえないかしら《と-
 花咲けわが心 花咲け-
 甘い夢-
はっきりと 消えてゆく夢の中で

あたしの恋人は戦場に行くの-
 花咲けわが心 花咲け-
あたしの恋人は戦場に行くの-
まるで英雄のようにあたしの着物の裾にキスしてくれた
 甘い夢-
あたしの着物の裾にキスしてくれた

三番目は言った 小さな声で言った-
 花咲けわが心 花咲け-
三番目は言った 小さな声で言った
あたしはキスするの 恋する人の着物の裾に-
 甘い夢-
あたしはキスするの 恋する人の着物の裾に-

わが父の庭の中-
 花咲けわが心 花咲け-
わが父の庭の中
立っている 一本の影を落とすリンゴの木が-
 甘い夢- 
立っている 一本の影を落とすリンゴの木が

3 Laue Sommernacht (Otto Julius Bierbaum)
3 蒸し暑い夏の夜 (ビーアバウム)

Laue Sommernacht: am Himmel
Steht kein Stern,im weiten Walde
Suchten wir uns tief im Dunkel,
Und wir fanden uns.

Fanden uns im weiten Walde
In der Nacht,der sternenlosen,
Hielten staunend uns im Arme
In der dunklen Nacht.

War nicht unser ganzes Leben
Nur ein Tappen,nur ein Suchen
Da: In seine Finsternisse
Liebe,fiel Dein Licht.

蒸し暑い夏の夜 天には
星ひとつない 広い森の中 
私たちは探した お互いを 深い闇の中 
そして互いを見つけ合ったのだ

見つけ合ったのだ 広い森の中で
この夜に 星ひとつない中 
びっくりしながら取り合ったのだ 互いの腕を 
この夜の暗闇の中

もしも私たちの人生のすべてが
ただの手さぐりではなく ただの宝探しではないのなら
お前の暗闇の中に 
愛よ お前の光を満たすのだ

4 Bei dir ist es traut (Rainer Maria Rilke)
4 お前のそばにいるのは心地よい (リルケ)

Bei dir ist es traut,
zage Uhren schlagen wie aus alten Tagen,
komm mir ein Liebes sagen,
aber nur nicht laut!

Ein Tor geht irgendwo
draußen im Blütentreiben,
der Abend horcht an den Scheiben,
laß uns leise bleiben,
keiner weiß uns so!

お前のそばにいるのは心地よい 
陰鬱な時の鐘が鳴っている まるで昔の日々のように
私に愛を伝えに来ておくれ 
けれど大きな声ではなく!

ひとつの門が通じている 
どこかの花の賑わいの中へと
夕暮れは聞き耳を立てている あの窓辺で
私たちは静かにしていよう 
誰にも気付かれないように!

5 Ich wandle unter Blumen (Heinrich Heine)
5 ぼくはさまよい歩く 花たちの間を (ハイネ)

Ich wandle unter Blumen
Und blühe selber mit,
Ich wandle wie im Traume
Und schwanke bei jedem Schritt.

O halt mich fest,Geliebte!
Vor Liebestrunkenheit
Fall' ich dir sonst zu Füßen
Und der Garten ist voller Leut!

ぼくはさまよい歩く 花たちの間を
そして花咲くのだ 自分も一緒に
ぼくはさまよい歩く まるで夢の中のように
そしてよろめくのだ 一足踏み出すごとに

おおぼくを固く抱いておくれ 恋する人よ!
さもないと 愛に酔いしれて
ぼくはあなたの足元に倒れてしまうだろう
そしてこの庭には人があふれてしまうのだ!


今年(2014)没後50年を迎えたマーラーの奥さんにして、世紀末ウィーンの多くの芸術家たちのミューズでもあったアルマ。音楽家としての才能もなかなかのものであったようですが、残念ながら今に残っているのは歌曲がわずか14曲ほどです。グスタフ・マーラーと結婚した1900年代の初め、彼は彼女に芸術家としての活動はしてくれるなと頼み、それから彼女の作曲の才能に気づく1910年まで、アルマは作曲活動を封印していたようで、ここに取り上げられた5曲はすべて1900年頃に書かれた曲のようです。その1910年に夫の勧めで出版されています。
彼女の音楽の師匠だったのはツェムリンスキーでしたので、これらの歌曲のスタイルはツェムリンスキー、シェーンベルク、ベルクといったひとたちのスタイルに非常に良く似ていますが、非常に繊細で美しいメロディは十分彼らに伊する魅力をそれぞれの歌曲に持たせています。
第1曲目のデーメルの詩はシベリウスも歌曲にしていますが、あちらの研ぎ澄まされた簡潔な歌に比べるともっとドラマティックで雄弁。表情がくるくると変化して情景が目の前に浮かんでくるようです。2曲目はメーテルランクを思わせるような幻想的な詩ですが、アルマがつけたのはシューマン風の端正なメロディ、「甘い夢《のフレーズの美しい繰り返しがとりわけ耳に残ります。第3曲はかつてはグスタフ・ファルケの詩とされていたようで、今でも古い資料などではそうなっております。濃密な味付けを期待しそうな詩ですけれども、アルマのメロディは節度を持って端正に美しいです。この歌曲集の中でももっともよく取り上げられる曲ではないでしょうか。
第4曲はリルケの詩。愛らしい愛の詩ですのでアルマの楚々としたメロディにぴったりです。個人的にはこの歌曲集の一押しなのですが...
最後はハイネの「新しい春《から。最後のユーモラスなオチにほほ笑んでしまいますが、音楽もそこでちょっとおどけるところがお茶目です。

( 2014.11.30 藤井宏行 )