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2 Balladen   Op.12
二つのバラード

曲: シェーンベルク,アルノルト (Arnold Schonberg,1874-1951) オーストリア ドイツ語


1 Jane Grey (Heinrich Ammann)
1 ジェイン・グレイ (アマン)

Sie führten ihn durch den grauen Hof,
Daß ihm sein Spruch gescheh';
Am Fenster stand sein junges Gemahl,
Die schöne Königin Grey.

Sie bog ihr Köpfchen zum Fenster heraus,
Ihr Haar erglänzte wie Schnee;
Er hob die Fessel klirrend auf
Und grüßte sein Weib Jane Grey.

Und als man den Toten vorüber trug,
Sie stand damit sie ihn seh';
Drauf ging sie freudig denselben Gang,
Die junge Königin Grey.

Der Henker,als ihm ihr Antlitz schien,
Er weinte laut auf vor Weh,
Dann eilte nach in die Ewigkeit
Dem Gatten Königin Grey.

Viel junge Damen starben schon
Vom Hochland bis zur See,
Doch keine war schöner und keuscher noch
Als Dudley's Weib Jane Grey.

Und wenn der Wind in den Blättern spielt
Und er spielt in Blumen und Klee,
Dann flüsterts noch oft vom frühen Tod
Der jungen Königin Grey.

人々は彼を連行してきた 灰色の庭を通って
判決を言い渡すのだ
そこの窓辺に立っていたのは彼の若き妻
美しき女王グレイだ

彼女はその頭を窓から出した
彼女の髪は雪のように輝いていた
彼は足枷をカタカタ鳴らしながら持ち上げて
自分の妻に挨拶をした ジェイン・グレイに

そして彼らが死んだ体を運んできた時には
彼女は立っていた 彼に会うために
まさにその同じ道をかつて彼女は幸せそうに歩いたのだが
この若きグレイ女王は

死刑執行人は、彼女の顔を見ると
悲しみのあまり声を上げて泣いた
そして永遠の中へと急いだのだ
グレイ女王の夫のもとへと

たくさんの若い女たちが死んでしまった
ハイランドから海に至るまで
だが誰も彼女以上に美しく 清純なひとはいなかったのだ
ダドレイの妻 ジェイン・グレイ以上には

そして風が木の葉の中をそよぎ
花やクローバーの中でそよぐときに
ときおりささやくのだ その早い死のことを
若きグレイ女王の

2 Der verlorene Haufen (Viktor Klemperer)
2 特攻部隊 (クレンペラー)

Trinkt aus,ihr zechtet zum letzenmal,
Nun gilt es Sturm zu laufen;
Wir stehn zuvorderst aus freier Wahl,
Wir sind der verlorne Haufen.

Wer länger nicht mehr wandern mag,
Wes Füße schwer geworden,
Wem zu grell das Licht,wem zu laut der Tag,
Der tritt in unsern Orden.

Trinkt aus,schon färbt sich der Osten fahl,
Gleich werden die Büchsen singen,
Und blinkt der erste Morgenstrahl,
So will ich mein Fähnlein schwingen.

Und wenn die Sonne im Mittag steht,
So wird die Bresche gelegt sein;
Und wenn die Sonne zur Rüste geht,
Wird die Mauer vom Boden gefegt sein.

Und wenn die Nacht sich niedersenkt,
Sie raffe den Schleier zusammen,
Daß sich kein Funke drin verfängt
Von den lodernden Siegesflammen!

Nun vollendet der Mond den stillen Lauf,
Wir sehn ihn nicht verbleichen.
Kühl zieht ein neuer Morgen herauf -
Dann sammeln sie unsere Leichen.

飲み干せ お前たちの最期の祝宴だ
今こそ嵐に飛び込む時だ
われらは先陣を切る われらの意志として
われらは特攻部隊だ

もはやさまよい歩きたくはない者
その足が重たくなった者
光が明るすぎる者 昼間が喧し過ぎる者は
われらの列に並ぶがいい

飲み干せ もう東の空が白み始めている
すぐに機関銃が歌いだすだろう
そして朝の最初の光が輝いたなら
私は旗を掲げよう

太陽が正午に昇りきったときには
突破口は開かれるだろう
そして太陽が傾くときには
砦の壁は突き崩されているだろう

夜が降りてくる頃には
闇の帳が寄せ集められて
一片の火花も外へは出ないだろう
燃え盛る勝利の炎の

さあ 月がその静かな歩みを止めた
われらはもう月が蒼ざめるのを見ることはない
冷たくやってくれば 新しい朝が
われらの戦死体が拾い集められるのだ


シェーンベルクの作品12、ふたつのバラードは1907年の作曲。もともとベルリンのバラード作曲コンテストに参加するために書かれたものなのだそうです。興味深いのはこの2曲と全く同じ詩でツェムリンスキーもバラードを作曲し、同じコンテストに出品していることです。ツェムリンスキーのものは作品番号はついておりませんが、Sonyレーベルで出ていた作品番号なしの歌曲を集めた録音で耳にすることができます。
シェーンベルクの初期歌曲はピアノパートがたいへん雄弁ですが、そのなかでもこの2曲はとりわけ熱い作品です。相当気合を入れてコンテストに臨んだということでしょうか。

第1曲は史実に基づいたバラード。15世紀イングランドに実在した女性 ジェイン・グレイ(1536(1537の説もあり)-1554)の悲劇を歌った曲です。彼女は「9日女王《の吊で知られる通り、1553年の7月にわずか9日だけイングランドの王位についた後すぐ王位を廃され、そしてそのわずか半年後の1554年2月に反逆の罪を着せられて夫ギルフォードと共にロンドンタワーで処刑されてしまいます。王位についたのもそしてそれがすぐに廃されたのも政治的な陰謀・争いにはからずも巻き込まれただけの若き夫婦の悲劇を淡々と紡ぎだしています。

第2曲は特に歴史に基づいたというわけではないですが、これから死地に赴く兵士たちの最後の宴、タイトルのDer verlorene Haufenは直訳すると「失われた部隊《ということになりますが、辞書を見ると(古)先陣の雑兵 とありましたので、そのあたりの意を汲んでかつての戦争で軍の上層部に命を粗末に扱われた典型である特攻部隊のことをイメージしてこの言葉を当ててみました。激烈なピアノの伴奏に乗って力強く歌われる歌はしかし、最後には彼らの運命を暗示するかのように静かに寂しく終わります。

( 2011.08.13 藤井宏行 )