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Muttergottes-Sträußlein zum Mai-monate   S.316
五月の聖母の花束

詩: ミュラー,ヨゼフ (Joseph Müller,1802-1872) ドイツ

曲: リスト (Franz Liszt,1811-1886) ハンガリー ドイツ語


1 Das Veilchen
1 スミレ

Spende,Veilchen,deine Düfte
zu Marias Preis und Ruhm,
statt des Weihrauchs,statt der Myrrhen
bring'ich dich in's Heiligthum.

Eitler Prunk und bunt Geschmeide
sind nicht deiner Schönheit Zier,
in dem einfach blauen Kleide
prangst du edler als Saphir.

Stille blühst du und bescheiden
deiner Tugend unbewusst,
einsam willst du gerne wohnen
aller Menschen Freud und Lust.

So auch blüthest du,Maria,
einsten als des Herren Braut,
Gott hat aller Welten Segen,
alle Himmel dir vertraut.

Keusche Jungfrau,Himmelspforte,
lass mich wie das Veilchen sein,
ohne Stolz und ohne Hoffart
stets bescheiden,keusch und rein.

Lass mich wie die blauen Blümchen
immer sanft sein,fromm und gut,
dir,Maria,stets zu Ehren
leben unter deiner Hut.

捧げよ、スミレたちよ、お前の香りを
マリア様の栄光と栄誉に
お香の代わりに ミルラの代わりに
私はお前たちをこの聖なる場所へと運んだのだ

軽薄な華やぎや色とりどりの宝飾が
お前の美しさを飾っているのではない
その簡素な青い衣装が
お前をサファイアよりも高貴なものにしているのだ

静かにつつましくお前は咲き
自分の美質には気付いていない
孤独にお前は喜んで生き
すべての人間たちを喜び 楽しませるのだ

御身もまた花開くのです、マリア様
かつて主の花嫁となられ
神はあらゆるこの世の祝福を
すべての天を御身にゆだねられました

清らかな乙女、天界の門よ
私をスミレのようにしてください
うぬぼれなく 高慢さもなく
常に慎ましく、貞淑で清らかなように

私のこの青い花たちのようにしてください
常に穏やかで、敬虔で善良に
御身、マリア様、その栄光で
御身の護りのもとで生きさせてください

2 Die Schlüsselblumen
2 サクラソウ

Dort am grünen Hügel glänzen
Schmucke Blümchen schön wie Gold,
Ihnen sind als Frühlingsboten
Alle Menschen gut und hold.

Schlüsselblümchen ist ihr Name,
Und wie Honig süss ihr Duft,
Und mit Veilchen um die Wette
Würzen sie die linde Luft.

Sie des Lenzes erste Kinder
Sind gar frühe schon erwacht,
Stiegen aus des Grabes Dunkel
Eh' noch Ostermorgen tagt.

Sie erschlossen froh die Erde
Bei des Lenzes erstem Weh'n
Und verkünden,daß sich nahe,
Aller Blüthen Aufersteh'n.

Diese Blümchen laß ein Zeichen
Himmelsköniginn Dir sein,
Daß ich freudig Dir die Schlüssel
Weih' zu meinem Herzensschrein.

Schliesse früh es auf zur Tugend.
Mach' es jung an Schätzen reich,
Rein und golden laß' es glänzen,
Den bescheid'nen Blümchen gleich.

この輝く緑の丘の上は
黄金のような美しさの花たちに彩られている
花たちは春のさきがけとして
すべての人々に愛されるのだ

サクラソウというのが彼女の吊だ
そしてその香りは蜜のように甘い
スミレたちと競い合っている
穏やかな大気を薫らせ合い

彼ら 春の初めての子らは
早春にはもう目覚めている
墓の暗がりより立ち上がるのだ
復活祭の朝が明ける前に

彼らは喜んで大地より芽吹く
春の初めてのそよ風の中で
そして告げるのだ、到来を
あらゆる花たちが再び咲き誇ることの

この花たちは御印となるのだ
御身が天の女王であることの
私は喜んでこの花を御身に捧げよう
わが心の聖櫃へとこの捧げ物を

早くその美徳へと道を開き
若くしてその価値を豊かにせしめ
清らかに金色に輝かせたまえ
この慎ましい小さな花たちも同じように


ヨーロッパの5月はまだようやく春の始まりといったところでしょうか。復活祭も4月にはあり、まさに花で一杯の美しい季節。そんな中、聖母マリアに捧げる花束として、フランツ・リストが選んだのは華やかさのない、慎ましい二種類の花。その楚々とした佇まいそのままに、穏やかでやさしい春の歌を紡ぎ出しました。
伴奏のピアノの高音のきらめきが美しく響く中、スミレの花は淡々と語るように、そしてサクラソウは踊るように軽やかに歌われます。
とても素敵な歌曲集なのですが、リストの歌の中では取り上げられることが少なく、知られざる作品となっています。日本でも最近活躍がよく知られるようになってきた爽やかな声のテノール、ハンス・イエルク・マンメルが歌ったリスト歌曲集(Carus)の中で、溜息の出るような美しさで聴くことができました。こういうリリックなテナーの歌うリストの歌曲というのは珍しいので、それだけでも探す価値はあると思います。
有吊な「ラインの美しい流れに《も「君は花のように《も「それはきっと素晴らしいこと《も絶品です。伴奏のヒルコ・ドゥムノの紡ぎ出すピアノの澄んだ響きが声にとても良く合っています。男性が歌うことは珍しい「トゥーレの王《もなかなかの聴きものでした。

( 2011.05.04 藤井宏行 )