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Chansons gaillardes   FP 42
陽気な歌 

詩: 上詳 (Unknown,-) 

曲: プーランク (Francis Poulenc,1899-1963) フランス フランス語


1 La maitresse volage
1 浮気女

Ma maîtresse est volage,
Mon rival est heureux;
S'il a son pucellage,
C'est qu'elle en avait deux.
Et vogue la galère,
Tant qu'elle pourra voguer.

おれの彼女は浮気者
だから恋敵も幸せだ
やつがバージンを奪おうとしても
彼女は2つ持っているから大丈夫
帆にまかせて男あさり
風の吹くまま気の向くまま

2 Chanson à boire
2 酒飲みの歌

Les rois d'Egypte et de Syrie,
Voulaient qu'on embaumât leurs corps,
Pour durer plus longtemps morts.
Quelle folie!

Buvons donc selon notre envie,
Il faut boire et reboire encore.
Buvons donc toute notre vie,
Embaumons-nous avant la mort.

Embaumons-nous;
Que ce baume est doux.

むかしエジプトとシリアの王様
自分のむくろを長持ちさせるため
死んでから体に香をすり込ませた
なんて馬鹿なやつらだ!

俺たちゃ気のすむまで酒を飲んで
飲んで、飲んで、また飲んで
人生ずっと酒浸り
そうすりゃ死ぬ前にゃ香りが染みつこうってもんだ

しかしこのお香というやつぁ
なんていい匂いなんだ

3 Madrigal
3 マドリガル

Vous êtes belle come un ange,
Douce comme un petit mouton;
Il n'est point de coeur,Jeanneton,
Qui sous votre loi ne se range.
Mais une fille sans têtons
Est une perdrix sans orange.

きみは天使のように美しく
子羊のように優しい
ジャヌトン、きみのいうことを
聞かないやつなどいやしない
だけどね、胸のない女の子なんて
オレンジのないウズラ料理と一緒だよ

4 Invocation aux Parques
4 天使さまへのお願い

Je jure,tant que je vivrai,
De vous aimer,Sylvie.
Parques,qui dans vos mains tenez
Le fil de notre vie,
Allongez,tant que vous pourrez,
Le mien,je vous en prie.

生きている限り誓う、
シルヴィ、おまえを愛するよ
だから運命の女神さま、その手に握っているのは
命の糸なんだから
できるだけ長くしておくれよ、
おれの命を、どうかお願い

5 Couplets bachiques
5 バッカスのクープレ

Je suis tant que dure le jour
Et grave et badin tour à tour.
Quand je vois un flacon sans vin,
Je suis grave,je suis grave,
Est-il tout plein,je suis badin.

Je suis tant que dure le jour
Et grave et badin tour à tour.
Quand ma femme me tient au lit,
Je suis sage,je suis sage,
Quand ma femmme me tient au lit
Je suis sage toute la nuit.

Si catin au lit me tient
Alors je suis badin
Ah! belle hôtesse,versez-moi du vin
Je suis badin,badin,badin.

おれは一日のうちで
陽気になったり落ち込んだりを繰り返す
酒瓶にワインがちょっとしかないと
おれは落ち込む、おれは落ち込む
でもなみなみと入っていれば
おれはゴキゲンだ

おれは一日のうちで
陽気になったり落ち込んだりを繰り返す
ベッドで女房を抱く時は
おれは冷静、おれは冷静
ベッドで女房を抱く時は
おれは冷静、一晩中

でも夜の女に抱かれる時は
おれは陽気になる
きれいなねえちゃん、酒をついでくれ
おれはゴキゲン、ゴキゲン、ゴキゲン

6 L'offrande
6 捧げ物

Au dieu d'Amour une pucelle
Offrit un jour une chandelle,
Pour en obtenir un amant.
Le dieu sourit de sa demande
Et lui dit: Belle en attendant
Servez-vous toujours de l'offrande.

Ha!

愛の神様にウブなオトメが
ある日ろうそくを捧げたとさ
どうか恋人を恵んでくださいとな
愛の神様は願い事に微笑んで
彼女にこういった:「かわいこちゃん、願いが叶うまで
その捧げもの、使いなさい《

ハァ!

7 La belle jeunesse
7 美しき青春

Il fut s'aimer toujours
Et ne s'épouser guère.
Il faut faire l'amour
Sans curé ni notaire.

Cessez,messieurs,d'être épouseurs,
Ne visez qu'aux tirelires,
Ne visez qu'aux tourelours,
Cessez,messieurs,d'être épouseurs,
Ne visez qu'aux coeurs
Cessez,messieurs,d'être épouseurs,
Holà messieurs,ne visez plus qu'aux coeurs.

Pourquoi se marier,
Quand la femme des autres
Ne se font pas prier
Pour devenir les nôtres.

Quand leurs ardeurs,
Quand leurs faveurs,
Cherchent nos tirelires,
Cherchent nos tourelours,
Cherchent nos coeurs.

いつでも愛し合いなさい
だが結婚は絶対するな
愛の営みには
神父も公証人もいらない

男性諸君、女房持ちとなるな
さあ「貯金箱《を狙うのだ
さあアソコを狙うのだ
男性諸君、女房持ちとなるな
さあど真ん中を狙え
男性諸君、女房持ちとなるな
そら、男性諸君、ど真ん中を狙うんだ

何だって結婚なんかするんだ
他のたくさんの女たちが
なりたがってるというのに
俺たちのものに

女たちの熱情や
女たちの愛欲も
われらの「貯金箱《や
われらのアソコや
われらのハートを狙っているというのに

8 Serenade
8 セレナード

Avec une si belle main,
Que servent tant de charmes,
Que vous tenez du dieu malin,
Bien manier les armes.
Et quand cet Enfant est chagrin
Bien essuyer ses larmes.

美しいその手の先で
たくさんの魅惑をさそい
悪戯の神様にさずかったものを
上手にその武器を扱ってくれ
そして息子が悲しんだ時は
上手にその涙を拭いてくれ


プーランクの作った歌曲集の中でも指折りの傑作!?、
彼の機知がこれほど存分に発揮された作品はそうはないでしょう。
うまく翻訳するのはたいへん難しいのですが、誰かが先に載せてしまう前に頑張って訳してみました。
(お前以外にこんなのに手を付けようとはしないって?...
失礼しました。歌曲会館5周年記念・秋のフランス歌曲強化キャンペーンの目玉のはずだったのですが)

あまり露骨に訳すとセクハラになって、この歌曲会館を出入り禁止になるかも知れませんので、これでもずいぶん気を遣ったつもりですが、元があまりに凄いので...

プーランクの美しい、伸びやかなメロディに付けられた詩が、こんなに過激な内容を歌っているのを知るだけでも私はうきうきしてしまいます。
詩は17世紀の無吊の詩とのことですが、このはまり具合はもしかすると作曲者自身が詩も書いているのかも...
(確かにこの内容では作者を吊乗るのは勇気が要るハズ)
モーツアルトのカノンなどでも、自作の詩で「尻にキスしろ《とかいうのが確かあったかと思いますが、これはその比ではありません。20世紀だったからこそできた大胆な冒険とさえ言えます。
コンサートでメロディだけ聴く分にはまったく素敵な歌曲なので、詩のフランス語さえ聞き取れなければ何の問題もありません。
歌える訳詞に次は挑戦したくなるような気もしますが、日本語の詩を付けて歌われたことはあるのでしょうか。

最初の「浮気女《の弾けるような歌が、こんなに皮肉な詩を歌っているとは。
次の「酒飲みの歌《は、しみじみしたアンダンテで、詩を知らずに初め聴いた時は悲しい歌かと思いました。すごく哲学的な歌にもきこえます。
「マドリガル《はスケルツォ、内容は軽いジャブをかましてあっという間に終わります。オチもありがち...
「天使さまへのお願い《と1曲置いて次の「捧げ物《は、プーランクお得意の宗教音楽のような静謐な雰囲気を漂わせています。が、「捧げ物《のこの中学生の猥談のような詩は何なのでしょう...違和感あり過ぎです。
「バッカスのクープレ《は、この歌曲集の最高傑作と私は思います。弾けるような、沸き立つようなプーランク音楽の美質がたいへん見事に現れています。”Je suis badin (おれはゴキゲン)”の響きや、鼻歌も出てくる楽しさで、早口で一気にまくしたてるところなど最高です。
「美しき青春《はかなりぼかした表現がありますがけっこう生々しい歌です。そうはいいながらも本当なら歌曲集のフィナーレになってもおかしくないような貫禄ある曲でもあります。ところがまだそのあとに1曲物凄いのが控えていました。
最後の「セレナード《。詩はさすがにノーコメントとさせてください。
曲は上品なシャンソンのような感じなのですが...

詩の内容上、女性歌手が歌うことはまず有り得ないこの歌曲集ですが、カウンターテナーのドミニク・ヴィスが歌った録音ではその倒錯感が絶妙で、特に「捧げもの《や「セレナード《などが強烈です。ボーイソプラノとまでは言いませんが、中性的な雰囲気で教会音楽の味わいをこの詩で出しているのは聴きもの。その他の快活な歌もユーモラスな歌声で楽しく聴かせてくれます。

男声ではバスのヨセ・ファン・ダムやバスタンの迫力ある歌が聴かせます。
作曲者自身のピアノにピエール・ベルナックのバリトンで歌われた歴史的な盤も注目ですがちょっと上品過ぎるかも。
上品といえばガブリエル・バキエの歌もそんな感じで、詩を考えずにメロディだけ楽しむには打ってつけですが、できれば詩も対訳をじっくり読みながら味わってみてください。
春歌にこそその言語のエスプリが凝縮されているのですから???

( 2003.10.05 藤井宏行 )