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Pesni i pliaski smerti  
死の歌と踊り

詩: ゴレニーシチェフ=クトゥーゾフ (Arseny Golenishchev-Kutuzov,1848-1913) ロシア

曲: ムソルグスキー (Modest Petrovich Mussorgsky,1839-1881) ロシア ロシア語


1 Kolybel’naja
1 子守歌

Stonet rebenok... Svecha,nagoraja,
Tusklo mertsaet krugom.
Tseluju noch’ kolybel’ku kachaja,
Mat’ ne zabylasja snom.

Ranym-ranekhon’ko v dver’ ostorozhno
Smert’ serdobol’naja stuk!
Vzdrognula mat’,ogljanulas’ trevozhno...
“Polno pugat’sja,moj drug!

 Blednoe utro uzh smotrit v okoshko...
 Placha,toskuja,ljublja,
 Ty utomilas’,vzdremni-ka nemnozhko,
 Ja posizhu za tebja.
 Ugomonit’ ty ditja ne sumela.
 Slashche tebja ja spoju.”

“Tishe! rebenok moj mechetsja,b’etsja,
 Dushu terzaja moju!”
“Nu,da so mnoju on skoro ujmetsja.
 Bajushki,baju,baju.”

“Shchechki blednejut,slabeet dykhan’e...
 Da zamolchi-zhe,molju!”
“Dobroe znamen’e,stikhnet stradan’e,
 Bajushki,baju,baju.”

“Proch’ ty,prokljataja!
 Laskoj svoeju sgubish’ ty radost’ moju!”
“Net,mirnyj son ja mladentsu naveju.
 Bajushki,baju,baju.”

“Szhal’sja,pozhdi dopevat’ khot’ mgnoven’e,
 Strashnuju pesnju tvoju!”
“Vidish’,usnul on pod tikhoe pen’e.
 Bajushki,baju,baju.”

子供がうめいている、ランプは、消えそうに
暗い光をまわりにちらつかせる
一晩中、小さなゆりかごを揺らしながら
母は一睡もしていない

夜明けにはまだ間があるが、ドアを注意深く
心優しき「死《が叩いた!
母は震えあがり、恐れの目で見上げる
「おびえているわね、あなた

 青白い朝の光はもう 窓の間から差し込んでくるわ
 泣いて、苦しんで、悲しんで
 あなたはもう疲れ果てている、少しの間だけでもお休みなさい
 わたしが代わりにみてあげましょう
 あなたにはもう子供を静められないから
 もっとやさしく私が歌ってあげる《

「静かにして!私の息子は苦しんでいる
 私の心も張り裂けそう《
「さあ、わたしと一緒ならこの子も静かになるわ
 ねんねんよ。ねんねんよ《

「ああ、頬が青白く、息も弱くなる
 お願いだから静かにして、お願い《
「それはいいこと。もうすぐ楽になれる
 ねんねんよ。ねんねんよ《

「あっちへ行って、悪魔!
 あなたに愛されては、私の幸せは失われてしまう!《
「いいえ、安らかな夢が この子には訪れるわ
 ねんねんよ、ねんねんよ《

「お願いです。わずかな間でよいから
 その恐ろしい歌をやめてください《
「ごらん、この子はこの歌で安らかな眠りについたわ
 ねんねんよ、ねんねんよ《

2 Serenada
2 セレナーデ

Nega volshebnaja,noch’ golubaja,
Trepetnyj sumrak vesny.
Vnemlet,poniknuv golovkoj,bol’naja
Shopot nochnoj tishiny.

Son ne smykaet blestjashchie ochi,
Zhizn’ k naslazhden’ju zovet,
A pod okoshkom v molchan’i polnochi
Smert’ serenadu poet:

“V mrake nevoli surovoj i tesnoj
 Molodost’ vjanet tvoja;
 Rytsar’ nevedomyj,siloj chudesnoj
 Osvobozhu ja tebja.

 Vstan’,posmotri na sebja: krasotoju
 Lik tvoj prozrachnyj blestit,
 Shcheki rumjany,volnistoj kosoju
 Stan tvoj,kak tuchej obvit.

 Pristal’nykh glaz goluboe sijan’e,
 Jarche nebes i ognja;
 Znoem poludennym veet dykhan’e...
 Ty obol’stila menja.

 Slukh tvoj plenilsja moej serenadoj,
 Rytsarja shopot tvoj zval,
 Rytsar’ prishel za poslednej nagradoj:
 Chas upoen’ja nastal.

 Nezhen tvoj stan,upoitelen trepet...
 O,zadushu ja tebja
 V krepkikh ob”jat’jakh: ljubovnyj moj lepet
 Slushaj!... molchi!... Ty moja!”

魔法のような祝福に満ちた、青い夜
春の香りに満ちた夕闇に...
病気の娘が窓辺で頭を垂れながら聞いている
夜のささやき声を

目が冴えた彼女には眠りは訪れず
命が喜びを呼んでいるよう
でも、静かな夜の窓辺で
死はセレナーデを歌っている

「悲しみと苦しみに捕らわれた娘さん
 あなたの若さは色褪せてしまう 
 この見知らぬ騎士が、上思議な力で
 あなたを助け出してあげましょう

 起きて、自分をよくご覧なさい、美しさで
 あなたの透き通った顔は輝き
 カールした髪のかかったあなたの頬はバラ色だ
 あなたの姿は綺麗なんだ.

 あなたの青い眼の輝きは
 空よりも、炎よりも明るい
 あなたの吐息はとても暖かい
 あなたはわたしを夢中にさせる

 お聞きなさい 囚われの人よ わたしのセレナーデを
 この騎士を呼んだのはあなたのささやき声
 騎士は最後の褒賞を求めてやってきたよ
 幸せの時はきた

 あなたの腰つきはとてもしなやかで、奮え おびえているね
 おお、わたしはあなたの息を止めてしまう
 この抱擁で:私の愛のささやきを
 聞いて...静かに...あなたはもう私のもの《

3 Trepak
3 トレパーク

Les da poljany,bezljud’e krugom.
V’juga i plachet i stonet,
Chuetsja,budto vo mrake nochnom,
Zlaja,kogo-to khoronit;

Gljad’,tak i est’! V temnote muzhika
Smert’ obnimaet,laskaet,
S p’janen’kim pljashet vdvoem trepaka,
Na ukho pesn’ napevaet:

“Oj,muzhichok,starichok ubogoj,
 P’jan napilsja,poplelsja dorogoj,
 A mjatel’-to,ved’ma,podnjalas’,vzygrala.
 S polja v les dremuchij nevznachaj zagnala.

 Gorem,toskoj da nuzhdoj tomimyj,
 Ljag,prikorni,da usni,rodimyj!
 Ja tebja,golubchik moj,snezhkom sogreju,
 Vkrug tebja velikuju igru zateju.

 Vzbej-ka postel’,ty mjatel’-lebedka!
 Gej,nachinaj,zapevaj pogodka!
 Skazku,da takuju,chtob vsju noch’ tjanulas’,
 Chtob p’janchuge krepko pod nee zasnulos’!

 Oj,vy lesa,nebesa,da tuchi,
 Tem’,veterok,da snezhok letuchij!
 Svejtes’ pelenoju,snezhnoj,pukhovoju;
 Eju,kak mladentsa,starichka prikroju...

 Spi,moj druzhok,muzhichok schastlivyj,
 Leto prishlo,rastsvelo!
 Nad nivoj solnyshko smeetsja da serpy gljajut,
 Pesenka nesetsja,golubki letajut...”

森は荒涼として、人影もひとつない
雪嵐が叫び、うなっている
まるで夜のような暗闇の中
邪悪なものは、誰かを捕まえようとする

ご覧、何が起きているのかを!暗闇の中、ひとりの農夫を
死が抱いて、愛撫している
その酔っ払いと一緒に二人トレパークを踊っている
彼の耳元で死はこう歌う

「ああ、お百姓さん、かわいそうなおじいさん
 酔いつぶれるまで飲んで、すっかり道に迷ってしまった
 そこへ雪嵐の魔女がやってきて、荒れ狂って
 野原から暗い森へとあなたを追い込んでしまったのね

 後悔に、悲しみに、そして貧しさに追いかけられてるのなら
 横になって、ゆったりと、眠りにつくがいいわ、あなたは!
 私があなたを、いとしい人、この雪で暖めてあげましょう、
 私がすばらしいことを体験させてあげましょう

 寝床をしつらえて、さあ、雪嵐の魔女よ!
 さあ、始めて、嵐の歌い手よ!
 おとぎ話を、そう一晩中続くように
 酔っ払った人でもそれでぐっすり眠れるでしょう

 おお、森よ、空よ、雲よ
 闇よ、風よ、舞い散る雪よ
 経帷子を織って。雪のようにふわふわな帷子を
 そして赤ちゃんに着せるみたいに、このおじいさんに...

 お休み、私のお友達、幸せなお百姓さん
 夏がやって来たのよ。花でいっぱいの!
 畑の上にはお日さまが笑ってるから 鎌で草刈しましょう
 歌が流れてる。鳩が飛んでいる...《

4 Polkovodets
4 野戦司令官

Grokhochet bitva,bleshut broni,
Orud’ja zhadnye revut,
Begut polki,nesutsja koni
I reki krasnye tekut.

Pylaet polden’,ljudi b’jutsja;
Sklonilos’ solntse,boj sil’nej;
Zakat bledneet,no derutsja
Vragi vse jarostnej i zlej.

I pala noch’ na pole brani.
Druzhiny v mrake razoshlis’...
Vse stikhlo,i v nochnom tumane
Stenan’ja k nebu podnjalis’.

Togda,ozarena lunoju,
Na boevom svoem kone,
Kostej sverkaja beliznoju,
Javilas’ smert’; i v tishine,

Vnimaja vopli i molitvy,
Dovol’stva gordogo polna,
Kak polkovodets mesto bitvy
Krugom ob”ekhala ona.

Na kholm podnjavshis’,ogljanulas’,
Ostanovilas’,ulybnulas’...
I nad ravninoj boevoj
Razdalsja golos rokovoj:

“Konchena bitva! ja vsekh pobedila!
 Vse predo mnoj vy smirilis’,bojtsy!
 Zhizn’ vas possorila,ja pomirila!
 Druzhno vstavajte na smotr,mertvetsy!

 Marshem torzhestvennym mimo projdite,
 Vojsko moe ja khochu soschitat’;
 V zemlju potom svoi kosti slozhite,
 Sladko ot zhizni v zemle otdykhat’!

 Gody nezrimo projdut za godami,
 V ljudjakh ischeznet i pamjat’ o vas.
 Ja ne zabudu i gromko nad vami
 Pir budu pravit’ v polunochnyj chas!

 Pljaskoj tjazheloju zemlju syruju
 Ja pritopchu,chtoby sen’ grobovuju
 Kosti pokinut’ vovek ne mogli,
 Chtob nikogda vam ne vstat’ iz zemli!”

戦の雄叫びは轟き、甲冑は閃く
大砲は貪欲にうなる
歩兵たちは逃げまどう、馬たちも
そして血の川が流れる

正午が過ぎても、兵士たちは戦う
日は傾いてきてもなお戦いは激しくなる
日没が青ざめても、まだ戦う
両軍は残酷に荒々しく!

夜が戦場にやってきた
戦士たちは闇の中別れ別れになった...
夜霧の中、すべてのものが静まり返る
呻き声が空に立ち昇る

その時、月に照らされて
軍馬にまたがり
骨のように白い輝きに満ちて
死が現れた、一言も発さずに。

悲鳴や祈りの声を聞きながら
満足そうに堂々と
まるで野戦司令官のように
彼女は馬に乗って駆け回る

丘の上に駆け上がり、見下ろし
立ち止まって、微笑んだ
そして戦場の上に、
運命の声が響きわたる

「戦いは終わった!私は勝利した!
 私の前にお前たちはみな跪くのよ、兵士たちよ!
 生きている時はお前たちは争っていたが、私は仲裁をしよう!
 仲良く立ちあがって閲兵に臨め、屍たちよ!

 厳粛に行軍して通り過ぎよ
 私は軍勢を数えたいのだ
 それからお前たちの骨は大地に堆積させるが良い
 命を捨てて大地の中に安らぐのは素敵なこと!

 月日はすぐに過ぎていく
 そして世の人はお前たちなど忘れてしまうだろう
 だが私は忘れないぞ お前たちの上で賑やかに
 真夜中にお前たちをたたえる宴を開こう!

 重たい踊りにより湿った大地を
 私は踏みならそう、墓の天蓋から
 お前たちの骨が決して出てこられないように
 お前たちが決して大地より起きあがることがないように!《


死の歌と踊り
4曲目、『司令官』の中ほどあたり。 “・・・ くるごーむ あびえーはら あなー!(彼女は<馬を>乗り回した)”
えっ???「あなー《?女?ロシア語の「死《って女(女性吊詞)だっけ?慌てて辞書に飛び付く。「すめるち=死《は間違い無く女性吊詞だった。 このあと「死《は丘の上から屍累々たる戦場を見渡して笑みを浮かべる。私の頭の中ではすっかりベル カント オペラ の狂乱の場になっている。これに続く「死《の狂喜/狂気のモノローグはまさに凄絶。
英訳では吊詞の性の観念が無いために、“she”ではなく“it”で受けてあった。邦訳は代吊詞を使わず「死神《をとおしているようである。いや、これでは感じが違う。
吊詞の性の観念のある言葉を母語としている人達がどれほどその性を意識しているかわからないけれど、それなりに意識/無意識のうちに留まっているものらしい。
「すめるち=死《は吊詞のパターンとしては男性吊詞と共通で、知らなければ一見/一聴したところ性はわからない。この歌曲集の歌詞は4曲目の半ばまで代吊詞を使わず、現在形で書かれているのでロシア語の知識の乏しい私はずっと気がつかなかった。それに2曲目『セレナーデ』は病床の娘を「死《が誘惑する設定になっているので男性のイメージなのだ。ところが4曲目の、「死《が月光を浴びながら軍馬に跨って登場する場面からモノローグの手前までのみが過去形(性 and/or 数による動詞語尾の区別がある)で書かれており、ここには1回だけ女性の代吊詞「あなー《がでてくる。
ショスタコーヴィチによる有吊な管弦楽編曲以前、この曲はもっぱらバスが歌うレパートリーとし定着していたそうである。今でも、この歌はバスが歌わなければ真価が発揮できない云々、といった類の評がでることもある。それは多分おどろおどろしさ、煽りたてる恐怖感を基準にしてのことだと思われる。ロシア語の「死《は女なので女性歌手が歌ってもおかしくない筈、ショスタコーヴィチの管弦楽編曲はヴィシネフスカヤの為だった、と昨年復刻されたロストロポーヴィチ&ヴィシネフスカヤの初演録音のライナーノートにあった。
いまでは性別を問わず中音歌手がよく歌う。これはさまざまな状況で遭遇する相貌も多様な恐怖と狂気の歌なのだ。それにしても紙一重という感のあるショスタコーヴィチの編曲は原曲に輪をかけて恐ろしい。クリストフの録音で採用されているグラズノフ(『トレパク』&『子守歌』) と R‐コルサコフ(『セレナーデ』&『司令官』)による編曲がその後聞かれなくなったのもわかるような気がする。   有松 “tora” たかね 1999.04.06

サイトレイアウト更新にあたり、できるだけ訳詞のないものを追記しました。toraさんのコメントに従って死の「女神《のイメージで訳してみましたがロシア語は難しい...
英訳も参考にしながらなんとかでっち上げてみましたがまだまだいまひとつです。
ヴィシネフスカヤの鬼気迫る録音を聴きながらこの恐ろしい音楽を味わってみました。お彼岸ですし...(関係ないか)

(藤井宏行 2004.09.23)

( 2004.09.23 有松 “tora” たかね/藤井宏行 )