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Drei Lieder aus Schillers Wilhelm Tell   S.292
シラーのヴィルヘルム・テルよりの3つの歌

詩: シラー (Friedrich von Schiller,1759-1805) ドイツ

曲: リスト (Franz Liszt,1811-1886) ハンガリー ドイツ語


1 Der Fischerknabe
1 漁師の少年

Es lächelt der See,er ladet zum Bade,
Der Knabe schlief ein am grünen Gestade,
Da hört er ein Klingen,wie Flöten so süß,
Wie Stimmen der Engel im Paradies.
Und wie er erwachet in seliger Lust,
Da spielen die Wasser ihm um die Brust.
Und es ruft aus den Tiefen: Lieb' Knabe,bist mein!
Ich locke den Schläfer,ich zieh ihn herein.

湖はほほえみ、水浴びせよと誘いかける
少年は緑の岸辺で眠りに落ちた
すると彼には響きが聞こえた、甘い音色のフルートのような
天国にいる天使の声のような響きが
そして彼が至福の喜びの中で目覚めたとき
湖水は彼の胸のあたりまで浸していた
そして深いところから呼び声がした:いとしい少年よ、我がものよ
われは眠りし者を誘い、底へと引き込むのだ..

2 Der Hirt
2 羊飼い

Ihr Matten,lebt wohl,
Ihr sonnigen Weiden!
Der Senne muß scheiden,
Der Sommer ist hin.

Wir fahren zu Berg,wir kommen wieder,
Wenn der Kuckuck ruft,wenn erwachen die Lieder,
Wenn mit Blumen die Erde sich kleidet neu,
Wenn die Brünnlein fließen im lieblichen Mai.

Ihr Matten,lebt wohl,
Ihr sonnigen Weiden!
Der Senne muß scheiden,
Der Sommer ist hin.

お前たち草原よ、さようなら
日当たりの良い牧場よ!
この牧人は別れねばならぬ
夏は終わったのだ

われらは山に行き、われらは再び戻ってくる
カッコウが呼びかけ、歌が目覚めるとき
花で大地が装いを新たにするとき
泉が流れる 美しい五月には

お前たち草原よ、さようなら
日当たりの良い牧場よ!
この牧人は別れねばならぬ
夏は終わったのだ

3 Der Alpenjäger
3 アルプスの狩人

Es donnern die Höh’n,es zittert der Steg,
Nicht grauet dem Schützen auf schwindlichem Weg.
Er schreitet verwegen
Auf Feldern von Eis,
Da pranget kein Frühling,
Da grünet kein Reis;

Tief unter den Fußen ein nebliches Meer,
Erkennt er die Städte der Menschen nicht mehr;
Durch den Riß nur der Wolken
Erblickt er die Welt,
Tief unter den Wassern
Das grünende Feld.

高みには雷鳴がとどろき、小道は震えるが
狩人には目のくらむような道も恐ろしくはない
彼は大胆に歩いてゆく
氷の野原の上でも
そこは春が輝くことはなく
そこは小枝が緑萌えることはない

足元の下には深い霧の海
人々の住む町はもはや見えない
雲の切れ間を通してのみ
彼は世界を垣間見る
はるか下の底には
あの緑の野原だ


シラーノ最後の戯曲「ヴィルヘルム・テル(ウィリアム・テル)《、第1幕の冒頭には観る者をスイスへと引き込む仕掛けとして、3つの歌が立て続けに置かれています。そのすべてにフランツ・リストはメロディをつけ、3曲からなる歌曲集としました。これが実際の舞台のために書かれたというわけではないようですけれども、非常に巧みな情景描写と美しいメロディで聴く者を劇的な世界へと誘います。

第1曲は華麗なピアノの前奏に導かれてこちらも流麗な歌が朗々と流れます。シラーの作品につける音楽としては少々派手にすぎるのではないかという疑問もなしとはしませんが、この音楽の美しさはやはり魅力的。まあ湖の魔物の妖艶な歌ということでよしとしましょう。ピアノの高音は魔物の吹く笛の音でしょうか。
第2曲は前の曲ほどは強烈ではありませんが、やはり美しいメロディに満ちた耳に心地よい曲です。今度はピアノにアルペンホルンのこだまが聞こえてきます。
最後の曲は激しいリズムに彩られた力強い曲。これもピアノが大活躍です。実演ではほとんど声が聴こえないかも知れません。最後は麓の世界を懐かしむように静かに終わりますけれども。

( 2009.10.30 藤井宏行 )