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3 Lieder aus den Büchern des Unmuts des Rendsch Nameh   Op.67 TrV 238
不機嫌の書よりの3つの歌曲

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ

曲: シュトラウス,リヒャルト (Richard Strauss,1864-1949) ドイツ ドイツ語


1 Wer wird von der Welt verlangen
1 この世間に対して誰が期待するというのだ

Wer wird von der Welt verlangen,
Was sie selbst vermißt unt träumet,
Rückwarts oder seitwards blickend,
Stets den Tag des Tags versäumet?

Ihr Bemühn,ihr guter Wille
Hinkt nur nach dem raschen Leben,
Und was du vor Jahren brauchtest,
Möchte sie dir heute geben.

この世間に対して誰が期待するというのだ
世間が自分で勝手になくしてしまった、夢のようなものを
振り返ったり、よそ見をしたりして
来る日も来る日も常にだらけている世間に?

世の中の努力も どんな善意も
このすばやい人生にとってはいつも後の祭りだ
お前が何年も前に必要としていたものを
ようやく今日になって与えてくれるのだ

2 Hab' ich euch denn je geraten
2 私が今までお前たちに指図などしたことがあるか

Hab' ich euch denn je geraten,
Wie ihr Kriege führen solltet?
Schalt ich euch nach euren Taten,
Wenn ihr Frieden schließen wolltet?

Und so hab' ich auch den Fischer
Ruhig sehen Netze werfen,
Brauchte dem gewandten Tischler
Winkelmaß nicht einzuschärfen.

Aber ihr wollt besser wissen,
Was ich weiß,da ich bedachte,
Was Natur für mich befliessen,
Schon zu meinem Eigen machte.

Fühlt ihr auch dergleichen Stärke?
Nun,so fördert eure Sachen!
Seht ihr aber meine Werke,
Lernet erst: so wollt' er's machen.

私が今までお前たちに指図などしたことがあるか
お前たちの争い事がどうあるべきかなどと
私が横やりを入れたことがあるか
お前たちが平和を結ぼうとしたときに

だから私はそうしたはずだ 漁師が
網を投げるのは静かに見守るだけだった
技を持った大工には必要ない
曲尺のことを教えることなど

なのにお前たちはもっと知ろうと望んでいる
私が知り、それから私が考えたことを
自然が私のために与えてくれたものを
私が自分のものとできたよりもずっと詳しく

自然の力を感じたいというのかね?
ならば、お前たち自身のことをがんばりたまえ
分かっていると思うが、私のやっていることから
学べるのはこれだけだ:その人はそうするつもりなのだということ
3 Wanderers Gemütsruhe
3 さすらい人の心のやすらぎ

Übers Niederträchtige
niemand sich beklage;
denn es ist das Mächtige,
was man dir auch sage.

In dem Schlechten waltet es
sich zu Hochgewinne,
und mit Rechtem schaltet es
ganz nach seinem Sinne.

Wandrer! - Gegen solche Not
wolltest du dich sträuben?
Wirbelwind und trocknen Kot,
laß sie drehn und stäuben.

卑劣な行いのことなど
誰も嘆くことはできない
なぜならそれは強大なのだ
人がお前にいつも言っているように

歪んだ裁きのもとではそいつは
最大の成功を得る
そして正義を支配すると
自分たちのしたい放題だ

さすらい人よ!、そんな悲惨さに逆らい
闘おうとするのか?
つむじ風と乾いた糞など
勝手に舞い散るに任せておけ


敵対する相手たる楽譜出版社をメタメタに罵倒した歌曲集「商人の鑑」を書くに至ったシュトラウスの闘いは、結局のところ力の強い出版社側の勝利となりました。この「商人の鑑」のようなフザケタものを受け取らなかった出版社の要求に応えて彼が書いたのは、シェイクスピアの「ハムレット」による「3つのオフィーリアの歌」と、それからこれらの3曲でした。とんでもなくブチ切れているオフィーリアの方も強烈ではあるのですが、それに輪をかけて凄いのがこのゲーテ、よりによってこんな詩を選んで歌曲にしなくても、というところもありますが、「商人の鑑」から続けて聴いていくと彼がこれら3つを選んで歌にし、憎き出版社に提出したのはどう見ても嫌がらせの続きのためのように私には感じられます。特に最後の曲などは負け惜しみにしてもあまりにストレート。これを「商人の鑑」とは違って今度は受け取った出版社もさすがだなあ、という感想を持ってしまいます。音楽のほうは詩の毒気ほどには強烈ではないので、パロディやミスマッチ感満載の「商人の鑑」ほどは笑えないのですが、それでも最後のさすらい人の歌が全然安らいでいない快速なテンポなところなどは意表をついてなかなかに鮮烈です。

ペルシャの詩人ハーフィズなどの影響を受けて書かれたゲーテの「西東詩集」は晩年の傑作として、特に「ズライカの書」などは非常に良く言及されますが、12の巻からなるその中で、不機嫌の書(Büchern des Unmuts)はあまり取り上げられることも多くはないでしょうか。ただゲーテ自身の言葉を借りれば、「もし思うかぎりを言ったなら、この書の二、三頁が一巻の書になったことであろう」(生野幸吉訳「西東詩集」訳注より)なのだそうで、当時詩人にぶつけられた世間よりの激しい非難に対して相当思うところがあったのでしょう。ここで本当に冷たい世間に対して力の籠った反撃をしています。それがおそらくシュトラウスの心にもぐっと響くものがあったのだと思います。

真面目な方の多い?ドイツリート関係者の方にはあまりこういう毒気の上に毒気を盛ったような歌は好まれないのでしょうか。この曲は私もほとんど耳にしたことはありません。個人的にはこういうのが大好きだということもあるのでしょうけれども、聴いてみてもそんなに悪い作品だとは思わないのですけれども。

( 2008.09.15 藤井宏行 )