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Moya - 7 japanske sange   Op.57
もや~7つの日本の歌

詩: キェルスマイヤー (Carl Kjersmeier,1889-1961) デンマーク

曲: ホルンボー (Vagn Holmboe,1909-1996) デンマーク デンマーク語


1 Tåget aften
1 霧の夜

Hver aften,når tågen breder sig over engene,
og tranerne sørgmodigt kalder på hinanden,
tænker jeg på min elskede.

毎晩 霧が草地に広がる時
そして鶴たちが悲しげにお互いを呼び合う時
私は愛するひとのことを想う
2 Blomsterne
2 花たち

Jeg troede,det sneede med blomster.
Men det var den elskede,der kom mig i møde.

私は思った 花びらが雪のように降っていると
だが それは恋人だった 私に会いに来たのだ
3 Natten
3 夜

Man siger,at vinternætterne er så lange,
men når jeg tilbringer en nat sammen med dig-
hvorfor er den da så kort?

人は言います 冬の夜は長いと
けれど 私があなたと一緒に過ごす時
なぜそれはこんなに短いのでしょう?
4 Tillid
4 信頼

Alene min tillid til dit løfte om,
at vi snart igen skal mødes,
holder mig i live,
thi ellers ville jeg forlængst være død af længsel efter dig.

私が信じているあなたの約束だけが
私たちがすぐに再び会えるだろうという
私を生かし続けているのだ
そうでなければ私はずっと昔に焦がれ死んでいただろう
5 Døden
5 死

Når døden kommer til dig,elskede,vil jeg gribe den i struben,
for at den ikke skal tage dig med sig.
Når døden kommer til mig,vil jeg tale med den,
roligt,som om jeg talte til mit eget billede i et spejl.

もしも死があなたに近づいて来たら 愛しい人よ 私はその喉笛を掴んでやる
あなたを連れて行かないように
もしも死が私に近づいて来たら 私はそいつと話をするだろう
静かに まるで鏡に映る自分の姿に話をするように
6 Åget
6 くびき

Fuglene lyver ud ved daggry,men vender tilbage til deres rede,
når mørket falder på.Således er også menneskenes liv:
vi kunne leve livet frit,efter vort hjerte og sind,
men vi står op hver morgen og går til ro hver aften,
i den samme by,i den samme gade,i det samme hus,i den samme seng.

鳥たちは夜明けに出て行くが 巣に戻ってくる
暗闇が下りる時には 人生も同じだ
私たちは自由に生きているつもり 心の中では
でも毎朝起き 毎晩ベッドに入る
同じ町の 同じ番地の 同じ家の 同じベッドに
7 Sneen
7 雪

Hvergang året nærmer sig sin ende,
bliver den sne,der dækker jorden,og den sne der dækker mit hoved,hvidere og hvidere.

一年が終わりに近づいて来るたびに
雪が大地をそしてこの頭を覆う 白く もっと白く

日本の詩歌は西洋の作曲家にインスピレーションを与えるのか、以前ご紹介したストラヴィンスキーをはじめとして、結構いろんな人が曲をつけていますが、よもやデンマークの現代作曲家ホルンボー(Vagn Holmboe 1909-1996)にもこんな曲があろうとは思いませんでした。この人の作風というと、ニールセンのあの結構騒々しいパワーをちょっと北欧風に涼しくしたような感じで、交響曲など(全部で13曲近くある)なかなか面白いのですが、歌曲は今回初めて聴きました。この歌曲集の面白いところは、「もや《に関連した日本の歌を、古くは万葉集の時代から今世紀まで幅広く集めていることです。このまま紹介すると私の伝統文化に対する無教養をさらけ出すことになってしまいますが敢えてやってみますと(だいたい、和歌を外国語に訳したものを原典を知らずに日本語にもう一度訳すと目も当てられない悲惨なものになってしまいますが)

1曲目「霧の夜《(Yakamoshi 8th Century 大伴家持でしょう)
「毎晩霧が野に広がって鶴がかなしげに鳴いている。恋人よ《

2曲目「花の雪《(Yorikito 19th Century ?)
「はじめは雪かとおもったよ。でもそれは私のところにやってくる恋人だった《

3曲目「夜《 (Komashi 9th Century 小野小町と思いますが...)
「冬の夜は長いと人はいうけれど、あなたといる夜のなんと短いことよ《

4曲目「秘密《(Fukayabu 9th Century 清原深養父だったかと...)
「もう一度会おうという約束だけを信じて生きている。
それなしではとうの昔に思い焦がれて死んでいただろう《

5曲目「死《(Ryuko Kawaji 20th Century ?)
「死神がお前のところにきたら、お前を連れて行かないように喉笛を抑えてやる。
死神が私のところにきたら、静かに話しかけよう。まるで鏡の中の自分の姿にそうするように《

6曲目「くびき《(Akiko Yosano 20th Century 与謝野晶子ですね)
「空飛ぶ鳥もねぐらに帰るように、人も心のままに生きているつもりで実は普段の暮らしから逃れられない《

7曲目「雪《(Motokata 9th Century 在原元方です)
「年の暮れに雪が大地を真っ白にするように、雪は私の心も真っ白にしていく《

全体を通して聴いてみての印象は、もしアルバン・ベルクが日本に帰化して20年も経ったらこんな曲を書いていたんだろうなというなんとも言えない上思議なものでした。実際、五音音階のような十二音音階のような(なんなんだ)ぱっと聴いた感じは日本のメロディのようでありながらじっくり聴くとなんか変(無国籍)というきわめてインパクトのあるものでした。もっと分かりやすい譬えでいうと、あの伝統的な和歌の詠唱スタイルを、ドビュッシー風のピアノ伴奏をつけてめちゃくちゃ技巧的に(しかもデンマーク語で)歌ったらこうなるんだろうなという感じです。
(かえって分かりにくいでしょうか?すみません)
こんな曲集ですが、是非聴いてみようと思われた方は、Dacapo(Marco-polo)にあるデンマーク近代歌曲集(T.ニールセン・ノルビー・コッペル他)のCD(P.Severin(Ten)・D.Kirkeskov(Pf):Dacapo 8.224010)をどうぞ。
なんとも言えない奇妙な世界が広がっています。
(1998.08.09)

このサイトが始まったばかりのころの記事です。けっこういい加減なノリでやっていたのだなあと振り返ると思います。あれから18年、この曲の詩人の著作権も切れ、また北欧の言葉の訳にも多少は慣れて参りましたので、サイト移転を機に原詩と訳を7曲すべてアップ致します。

( 2016.08.09 藤井宏行 )