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Le Bestiaire   FP 15
動物詩集(あるいはオルフェの行列) 

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス

曲: プーランク (Francis Poulenc,1899-1963) フランス フランス語


1 Le dromadaire
1 ラクダ

Avec ses quatre dromadaires
Don Pedro d'Alfaroubeira
Courut le monde et l'admira.
Il fit ce que je voudrais faire
Si j'avais quatre dromadaires.

4頭のラクダと一緒に
ドン・ペドロ・ダルファルベイラは
世界を旅し、驚嘆した
こいつはぼくもやってみたいことだ
もし4頭のラクダを持ってたならば

2 La chèvre du Thibet
2 チベットのヤギ

Les poils de cette chèvre et même
Ceux d'or pour qui prit tant de paine
Jason,ne valent rien au prix
Des cheveux dont je suis épris.

このヤギの毛も
ジャソンに骨を折らせて探させた黄金の毛も
何の値打ちもない
ぼくが惚れこんだ髪の毛に比べたら

3 La sauterelle
3 イナゴ

Voici la fine sauterelle,
La nourriture de saint Jean.
Puissant mes vers être comme elle,
Le régal des meilleures gens.

これは上等なイナゴ
聖ヨハネ様の食べ物です
ぼくの詩もそんな風になれたらなあ
偉い人たちのご馳走に

4 Le Dauphin
4 イルカ

Dauphins,vous jouez dans la mer,
Mais le flot est toujours amer.
Parfois,ma joie éclate-t-elle?
La vie est encore cruelle.

イルカよ、君たちは海で遊んでいる
だが海の水は苦いぞ
時にはぼくも喜びに輝くが
人生というのはいつでも残酷だ

5 L'écrevisse
5 ザリガニ

Incertitude,ô mes délices
Vous et moi nous nous en allons
Comme s'en vont les écrevisses,
À reculons,à reculons.

上安よ、おお、それはぼくの好きなもの
きみとぼく、ぼくたちは行こうじゃないか
ザリガニの歩みみたいに
うしろへ うしろへと

6 La Carpe
6 コイ

Dans vos viviers,dans vos étangs,
Carpes,que vous vivez longtemps !
Est-ce que la mort vous oublie,
Poissons de la mélancolie.

池の中、イケスの中
鯉よ、きみたちはなんて長生きなんだ
死がきみたちを忘れているのだろうか
憂鬱な魚たちよ


プーランク初期の傑作。アポリネールの「動物詩集《を取り上げてみようと思います。
プーランクが初めて手掛けた歌曲集作品ということで、彼がまだ20歳になったかならないかのときに書かれていますが大変な完成度です。しかもユニーク。アポリネールの詩を当時歌曲にしようと思っただけでも凄いと思いますが、彼は見事にそれをやりとげています。
アポリネールの動物詩集(またはオルフェのお供)はいろいろな動物を題材に詩人が連想を広げて思うがままに書いていますが、彼はそこから6篇を選んで(当初は12篇の予定だったようですが)自在に曲を作っています。
第1曲目、重々しいピアノは砂漠を行くラクダの足取りの描写でしょうか。アラビアのメロディの雰囲気もかすかに漂わせながら世界旅行への憧れを歌います。曲が終わりかけたところで突然ピアノが陽気に跳ねまわり、そのまま唐突に終わってしまうところは人を食っています。
ここで歌われたドン・ペドロはポルトガルの王子で、実際に3年がかりの大旅行をしたという話があるようです。
第2曲目は愛の歌。一転してピアノはエレガントに寄り添います。歌も昔のシャンソンという風情。
ジャソンというのはギリシャ神話に出てくる王子で、叔父に王位を奪われ、金の羊の毛を手に入れてくるように命じられ、苦労の末見つけたという話から来ています。詩にチベットのヤギは全然出てきませんね。
続いての第3曲、これは聖書の記述からでしょう。ユーモラスな願望に合わせて音楽も飄々と歌われます。
4曲目の「イルカ《、一度聴いたら忘れられない音楽です。軽やかにおどけて、しかも流麗。海の水の苦さに人生の苦さを重ね合わせてはいますが、メロディは愉悦に満ちているようです。そこからにじみ出る皮肉っぽさが実にプーランクらしいところ。
5曲目はそろりそろりと歩くような感じが歌にも伴奏にもよく出ています。上穏さがふつふつと湧いてくるところが見事。そして終曲はひたすらに憂鬱そう。東洋の禅画でも見るような静謐さが聴きものです。

( 2007.11.23 藤井宏行 )