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Trois Ballades de François Villon   L 119
フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード

詩: ヴィヨン (François Villon,1431-1463) フランス

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス フランス語


1 Ballade de Villon a s'amye
1 恋人に捧ぐヴィヨンのバラード

 Faulse beauté,qui tant me couste cher,
 Rude en effect,hypocrite doulceur,
 Amour dure,plus que fer,à mascher;
 Nommer que puis de ma deffaçon seur.
 Charme felon,la mort d'ung povre cueur,
 Orgueil mussé,qui gens met au mourir,
 Yeulx sans pitié! ne veult droict de rigueur
 Sans empirer,ung povre secourir?

 Mieulx m'eust valu avoir esté crier
 Ailleurs secours,c'eust esté mon bonheur:
 Rien ne m'eust sceu de ce fait arracher;
 Trotter m'en fault en fuyte à deshonneur.
 Haro,haro,le grand et le mineur!
 Et qu'est cecy? mourray sans coup ferir,
 Ou pitié peult,selon ceste teneur,
 Sans empirer,ung povre secourir.

 Ung temps viendra,qui fera desseicher,
 Jaulnir,flestrir,vostre espanie fleur:
 J'en risse lors,se tant peusse marcher,
 Mais las! nenny: ce seroit donc foleur,
 Vieil je seray; vous,laide et sans couleur.
 Or,beuvez,fort,tant que ru peult courir.
 Ne donnez pas à tous ceste douleur
 Sans empirer,ung povre secourir.


 Prince amoureux,des amans le greigneur,
 Vostre mal gré ne vouldroye encourir;
 Mais tout franc cueur doit,par Nostre Seigneur,
 Sans empirer,ung povre secourir.

  偽りの美女よ、我にかくも高価な犠牲を求め
  まことは粗野なる者よ 優しさを装いながら
  鉄よりもずっと難き恋人よ、その心を砕くに
  汝を呼ぼう、我が破滅の妹と
  上実な魅惑、哀れな心の死神
  酷い傲慢よ それは人々に死をもたらす
  無情な眼差しよ! 厳しき掟を望まぬのか
  これ以上苦しめることなく、この哀れな者を救わぬか?

  求めればよかったのだ
  他に救いを、さすれば我は幸福であったのに
  だが何者も引き離してくれはしなかった
  逃げ去るより他すべはない 恥辱にまみれて
  お助けを、お助けを、高貴な方、平民の方も!
  これは何たることだ? 戦わずして果てるとは
  それとも憐憫か、その本来の字義通りに
  これ以上苦しめることなく、この哀れな者を救わぬか?

  やがて時が来よう、萎れ
  黄ばみ、枯れ去るのだ 汝の花の盛りも
  我は笑ってやろう、そのとき口が動くならば
  だができまい!愚かなことだ
  我も年老いるが、汝も醜く色香も失せる
  されば飲めや、存分に、川の流れの止まらぬうちに
  この心の苦しみを与え給うな
  これ以上苦しめることなく、この哀れな者を救わぬか?


  恋をご存知の殿下よ、すべての恋する者の中で最も偉大なお方よ
  御身のご上興を招く意図は御座いませぬが
  高貴な魂の義務がございます、主の吊において
  これ以上苦しめることなく、この哀れな者を救う義務が


2 Ballade que Villon feit à la requeste de sa mère pour prier Nostre-Dame
2 ノートルダム寺院でのお祈りのために母の依頼でヴィヨンが作ったバラード

 Dame du ciel,regente terrienne,
 Emperière des infernaulx palux,
 Recevez-moy,vostre humble chrestienne,
 Que comprinse soye entre vos esleuz,
 Ce non obstant qu'oncques riens ne valuz.
 Les biens de vous,ma dame et ma maistresse,
 Sont trop plus grans que ne suys pecheresse,
 Sans lesquelz bien ame ne peult
 Merir n'avoir les cieulx,
 Je n'en suis mentèresse.
 En ceste foy je vueil vivre et mourir.

 À vostre Filz dictes que je suys sienne;
 De luy soyent mes pechez aboluz:
 Pardonnez-moy comme à l'Egyptienne,
 Ou comme il feut au clerc Theophilus,
 Lequel par vous fut quitte et absoluz,
 Combien qu'il eust au diable faict promesse.
 Preservez-moy que je n'accomplisse ce!
 Vierge portant sans rompure encourir
 Le sacrement qu'on celebre à la messe.
 En ceste foy je vueil vivre et mourir.

 Femme je suis povrette et ancienne,
 Qui riens ne sçay,oncques lettre ne leuz;
 Au moustier voy dont suis paroissienne,
 Paradis painct où sont harpes et luz,
 Et ung enfer où damnez sont boulluz:
 L'ung me faict paour,l'aultre joye et liesse.
 La joye avoir faismoy,haulte Deesse,
 A qui pecheurs doibvent tous recourir,
 Comblez de foy,sans faincte ne paresse.
 En ceste foy je vueil vivre et mourir.

  天のお妃さま、地上の女主人さま
  地獄の沼をも統治されます女帝さま
  われをお迎えください、あなた様のつつましい信徒を
  選ばれた方々のうちにお加えください
  何の値打ちもないものではございますけれども。
  あなた様の恩寵は、お妃さま、女主人さま
  あまりに広大無辺ですがゆえに 私を罪人にはなしえません
  そのお慈悲なくしてはいかなる魂も
  天国に値せず、また入ることも叶いません
  そう心より信じております
  この信仰に私は生き、そして死にとう御座います

  あなた様の御子に私が信者であるとお告げください
  御子のお力で私の罪が消え去りますよう
  私をお許しください、あのエジプト女になされたように
  あるいはまた聖職者テオフィールになされましたように
  彼もまたあなた様によって罪を免れ、許されました
  一度は悪魔と契約したにも関わらず
  私をお護りください そのような罪を犯さぬように
  穢れなく身ごもられた聖母さま
  私どもがミサで讃美いたします聖体の御秘蹟を
  この信仰に私は生き、そして死にとう御座います

  私は貧しく年老いた女でございます
  何も存じませぬし、字も読めませぬ
  私の属します教区の聖堂には
  ハープやリュートの描かれた天国の絵と
  罪人たちが煮られている地獄の絵がございます
  ひとつは私を恐れさせ、もうひとつは私を楽しく嬉しくさせます
  喜びをお与えください、天国の女神さま
  罪人はみな お力にすがらなくてはなりません
  信仰心を深く、見せ掛けなくまた怠りなく
  この信仰に私は生き、そして死にとう御座います

3 Ballade des femmes de Paris
3 パリの女たちのバラード

 Quoy qu'on tient belles langagières
 Florentines,Veniciennes,
 assez pour estre messaigières,
 Et mesmement les anciennes;
 Mais,soient Lombardes,Romaines,
 Genevoises,À mes perils,
 Piemontoises,Savoysiennes,
 Il n'est bon bec que de Paris.

 De beau parler tiennent chayeres,
 Ce dit-on Napolitaines,
 Et que sont bonnes cacquetières
 Allemandes et Bruciennes;
 Soient Grecques,Egyptiennes,
 De Hongrie ou d'aultre païs,
 Espaignolles ou Castellannes,
 Il n'est bon bec que de Paris.

 Brettes,Suysses,n'y sçavent guèrres,
 Ne Gasconnes et Tholouzaines;
 Du Petit Pont deux harangères
 les concluront,et les Lorraines,
 Anglesches ou Callaisiennes,
 (ay-je beaucoup de lieux compris?)
 Picardes,de Valenciennes...
 Il n'est bon bec que de Paris.

 Prince,aux dames parisiennes,
 De bien parler donnez le prix;
 Quoy qu'on die d'Italiennes,
 Il n'est bon bec que de Paris.

  見事なお喋り口を持つと言われるは
  フィレンツェ女に ヴェネツィア女
  みな恋の取り持ち役には十分だ
  特に年寄り女が打ってつけ
  だが ロンバルディア女もローマ女も
  ジェノバも この際だから言い切れば
  ピエモント女もサヴォイ女も
  口さがなさではパリの女に敵いはしないのだ

  師匠にもなれるお喋り屋と言えば
  ナポリの女もそう言われている
  それから見事にピーチクパーチク言うのは
  ドイツの女やプロシャの女
  それにギリシャの女やエジプトの女
  ハンガリーやらその他諸々の国
  スペイン女もカスティーリャも
  口さがなさではパリの女に敵いはしないのだ

  ブリテンにスイス女じゃ話にならない
  ガスコーニュやトゥールーズもまた然り
  プチ・ポン河岸の二人の競り人にかかれば
  まあ勝負にはならぬ、それにロレーヌ女やら
  ザングル女やカレーの女
  (こんなところで地吊は十分だろうか?)
  そうそうヴァランシェーヌのピカルディ女も
  口さがなさではパリの女に敵いはしないのだ

  殿下よ パリジェンヌの淑女の方々に
  このおしゃべりな方々に勲章を授け給え
  イタリア女も候補に挙がるかも知れないが
  口さがなさではパリの女に敵いはしないのだ


古典作品にテキストを求めたドビュッシーの声楽作品としては、最後にして最大の傑作がこのフランソワ・ヴィヨンによる3つのバラードでしょう。14世紀の詩人ヴィヨンは悪事を重ねて都を追放され、一時は死罪の可能性もあったというほどの奔放な詩人であったのだそうです。そして彼の書いた詩もまた自由奔放なところがあり、私がこの翻訳を行うに当たって参照させていただいたいくつかの日本語の既訳でも、天沢退二郎氏や堀越考一氏の訳などは、特にこの第1曲や3曲目の詩などではその奔放さが見事に現れた思いっきりくだけた翻訳になっていて印象深かったです。私にはそこまでの大胆さはないのと、ドビュッシーの音楽のイメージにできるだけ合った感じで訳して見たかったのでこんな感じで仕上げてみました。
3曲3様の音楽がまた非常に印象深いです。中でも第2曲は、ドビュッシーにこんな敬虔な曲がほとんどないためにとりわけ印象的。また1・3曲はそのテキストの扱いといい音楽の流れといい、フランシス・プーランクの歌曲を先取りしたかのような雰囲気に満ちてこれもまた興味深かったです。とりわけパリを題材にした第3曲はその感じが濃厚でたいへん楽しく聴けました。

バラードは古くから町中で歌われた吟遊詩人の歌物語で、こんな感じで3つの各連の最後を同じにして繰り返されるもののようです。最後にEnvoi(結句)があって、貴公子への呼びかけで終わるのが定型。第1曲で恋人への訴えかけなのに突然貴公子様が出てくるのもこういう定型に従ったためでしょう。また第2曲では原詩にはあったこの結句が省略されて歌われています。

( 2007.11.17 藤井宏行 )