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Sechs Monologe aus Jedermann  
イェーダーマンからの6つのモノローグ

詩: ホーフマンスタール (Hugo Laurenz August Hofmann von Hofmannsthal,1874-1929) オーストリア

曲: マルタン (Frank Martin,1890-1974) スイス ドイツ語


1 Ist alls zu End das Freudenmahl
1 楽しき宴ももう終わりを迎え

Ist alls zu End das Freudenmahl
Und alle fort aus meinem Saal?
Bleibt mir keine andere Hilfe dann,
Bin ich denn ein verlorner Mann?
Und ganz alleinig in der Welt,
Ist es schon so um mich bestellt,
Hat mich Der schon dazu gemacht,
Ganz nackend und ohn alle Macht,
Als lag ich schon in meinen Grab,
Wo ich doch mein warm Blut noch hab
und Knecht mir noch gehorsam sein
Und Hauser viel und Schatze mein,
Auf! schlagt die Feuerglocken drein!
Ihr Knecht nit lungert in dem Haus,
Kommt allesamt zu mir heraus!
Ich mus schnell eine Reise tun
Und das zu Fus und nit zu Wagen,
Gesamte Knecht,die sollen mit
Und meine grosse Geldtruhen,
Die sollen sie herbeitragen.
Die Reis wird wie ein Kriegszug scharf
Das ich der Schatze sehr bedarf.

楽しき宴ももう終わりを迎え
皆 私のこの広間から帰ってしまったのか?
私には他に何も助けとなるものは残っておらず
私は見捨てられた男なのか?
この世に全くのたったひとりだが
そうなるように既に私は運命づけられ
それに従わなければならなかったのだ
全くの裸で 力なく
まるで自分の墓の中にもう横たわっているかのようだ
けれど私の血はまだ暖かく脈打っており
召使たちもまだ忠実なままだし
家屋敷や財宝がまだたくさんあるのだ
さあ 鳴らせ半鐘を
召使たちよ、家の中でぐずぐずするな
私のところにさっさと集まるのだ!
私は急いで旅に出なくてはならぬ
歩いていく 車には乗らない
お前たち召使は皆 一緒についてこい!
それと私の大きな金庫を
お前たちはかついでいくのだ
旅は戦のように厳しいものになる
私にはこの宝がきっと必要になるのだろう

2 Ach Gott,wie graust mir vor dem Tod
2 ああ 神様 死はなんと恐ろしいものなのでしょう

Ach Gott,wie graust mir vor dem Tod,
Der Angstschweiß bricht mir aus vor Not;
Kann der die Seel im Leib uns morden?
Was ist denn jählings aus mir worden?

Hab immer doch in Bösen Stunden
Mir irgend einen Trost ausgfunden,
War nie verlassen ganz und gar,
Nie kein erbärmlich armer Narr.
War immer wo doch noch ein Halt
Und habs gewendet mit Gewalt.

Sind all denn meine Kraft dahin
Und alls verworren schon mein Sinn,
Das ich kaum mehr besinnen kann,
Wer bin ich denn: der Jedermann,
Der reiche Jedermann allzeit.

Das ist mein Hand,das ist mein Kleid
Und was da steht auf diesem Platz,
Das ist mein Geld,das ist mein Schatz,
Durch den ich jederzeit mit Macht
Hab alles spielend vor mich bracht.

Nun wird mir wohl,das ich den seh
Recht bei der Hand in meiner Nah.
Wenn ich bei dem verharren kann,
Geht mich kein Graus und Angsten an.

Weh aber,ich mus ja dorthin,
Das kommt mir jahlings in den Sinn.
Der Bot war da,die Ladung ist beschehn.
Nun heist es auf und dorthin gehn.

Nit ohne dich,du must mit mir,
Las dich um alles nit hinter mir.
Du must jetzt in ein andres Haus
Drum auf mit dir und schnell heraus!

ああ 神様 死はなんと恐ろしいものなのでしょう
恐ろしさのあまり 冷や汗が出ます
死は肉体の内にある魂までも朽ちさせるのでしょうか
どうして私が突然このような目に遭うのでしょうか

これまで私はどんなひどいときでも
慰めを欠かしたことはありませんでした
誰にも見放されたことはなく
哀れで惨めな愚か者になることもなかったのです
いつでも逃げ場があったのです
力で押し返すことのできる場が

そんな私の力は失われ
頭の中も混乱してしまいました
もはや思い出すこともできません
自分が誰であるのかさえ、そう、ただの人であることさえ
金持ちのだたの人であったことさえ

これが私の手、これが私のマント
そしてこの場所にあるのは
私の金だ 私の宝だ
それによってどんな時でも力ずくで
私の前のあらゆることを好きなようにできたのだ

今でも心が安らぐ、それを眺めさえすれば
すぐ近く、手の届くところにありさえすれば
これさえしっかり手にしておれば
恐れも、不安もなくすごせるのだ

だが悲しい、私は旅に出なくてはならぬ
その考えが私の頭の中に不意に起こった
使者がそこにいた 私は召喚されるのだ
今こそ身支度をしてあそこへ行けというのだ

お前なしではいやだ、一緒に行こう
どうしてもお前を残しては行けぬ
お前も別の家に移ることになったのだ
だから さあ 急いでここから出かけよう

3 Ist als wenn eins gerufen hatt
3 まるで誰かが呼んでいるようだ

Ist als wenn eins gerufen hatt,
Die Stimme war schwach,
und doch recht klar,
Hilf Gott das es nit meine Mutter war.

Ist gar ein alt,gebrechlich Weib,
Möcht,daß der Anblick erspart ihr bleib..
O nur soviel erbarm dich mein,
Laß das nit meine Mutter sein!

まるで誰かが呼んでいるようだ
その声はかすかだったが
はっきりと澄んでいた
神よ救いたまえ それが私の母ではありませんように

母はとても老いて 衰えている
どうかこんな私を見ずに済みますように
ああ これだけはお願いします
それが私の母ではありませんように!

4 So wollt ich ganz zernichtet sein
4 私はすっかり滅び去ってしまいたいものだ

So wollt ich ganz zernichtet sein,
Wie an dem ganzen Wesen mein
Nit eine Fiber jetzt nit schreit
Vor tiefer Reu und wildem Leid.
Zuruck! Und kann nit!
Noch einmal!
Und kommt nit wieder!
Graus und Qual!
Hie wird kein zweites Mahl gelebt!

Nun weis die aufgerissne Brust,
Als sie es nie zuvor gewust,
Was dieses Wort bedeuten mag:
Lieg hin und stirb,hie ist dein Tag!

私はすっかり滅び去ってしまいたいものだ
もし私の全存在において
一本の筋すらも今叫ばずにはいられないのならば
深い悔悟と激しい苦悩を前にして
戻るのだ! いやできない!
なおもう一度!
そして永遠に戻ってはこない!
恐怖や苦しみは!
もう二度と生きることはないのだから!

今になって分かった、この張り裂ける胸が
今まで一度も感じてこなかったこと
それがはっきり見えてきた
自分が横たわり、死の日が来たということが!

5 Ja! Ich glaub: solches hat er vollbracht
5 そう!私は信じます、主の成し遂げられたことを

Ja! Ich glaub: solches hat er vollbracht,
Des Vaters Zorn zunicht gemacht,
Der Menschheit ewig Heil erworben
Und ist dafur am Kreuz verstorben.

Doch weis ich,solches kommt zugut,
Nur dem,der heilig ist und gut:
Durch gute Werk und Frommheit eben
Erkauft er sich ein ewig Leben.

Da sieh,so steht um meine Werk:
Von Sunden hab ich einen Berg
So uberschwer auf mich geladen,
Das mich Gott gar nit kann begnaden,
Als er der Hochstgerechte ist.

そう!私は信じます、主の成し遂げられたことを
父なる神の怒りをなくし
人間の永遠の救済をなされ
そしてそのために十字架の上で果てられたことを

でも分かっております。この救いがもたらされるのは
ただ、信仰篤く 善良な者だけであることも
良き行いと篤い信仰で
その者に永遠の生が与えられるということも

だが御覧なさい 私のしてきたことの中には
罪が山のようにあるのです
それをこうして私は背負っているのですから
私を神様が祝福してくださることは決してないのです
あの最も正しいお方である主が

6 O ewiger Gott! O gottliches Gesicht!
6 おお、永遠なる神よ! おお、神々しいそのお顔!

O ewiger Gott! O gottliches Gesicht!
O rechter Weg,o himmlisches Licht!
Hier schrei ich zu dir in letzter Stund,
Ein Klageruf geht aus meinem Mund.

O mein Erloser,den Schopfer erbitt,
Das er beim Ende mir gnadig sei,
Wenn der hollische Feind sich drangt herbei,
Und der Tod mir grausam die Kehle zuschnurt,
Das er meine Seel dann hinauffuhrt.

Und,Heiland,mach durch deine Fuhrbitt,
Das ich zu seiner Rechten hintritt,
In seine Glorie mit ihm zu gehn.

Las dir dies mein Gebet anstehn,
Um Willen,das du am Kreuz bist gestorben
Und hast all unsre Seele erworben.

おお、永遠なる神よ! おお、神々しいそのお顔!
おお、正しき道、おお、天上の光!
ここで私は御身に向かって叫びましょう この最後の時に
嘆きの叫びはわが口より出でて行きます

ああ わが救い主よ 創造主よ お願いします
神がこの終わりの時に私に寛大であることを
地獄の敵が押し寄せて
死が私の喉元を残酷にも締め付けるときにも
神がわが魂を天上へと連れて行って下さることを

そして救い主よ 御身の祈りの舟により
私が神の右手のもとへと歩みだし
神とともに その栄光へと進み行けますように

どうかわが祈りをお聞き届けください
ご意志によりて 御身は十字架にかかってお果てになり
われらすべての魂を贖われたのですから


この「Jederman」、ホフマンスタールの舞台作品としてあのオーストリアのザルツブルク音楽祭では毎年必ず上演されている作品なのだそうですが、音楽が付かないとドイツ語が聞き取れない限りあまり楽しめないからでしょうか。さほど日本の音楽ファンの間で話題になっているという感じもしません。思いもかけず突然の死に見舞われた主人公がもがきながらやがて主による救済を受け入れるというストーリーを、主人公の独白部分を取り出してマルタンがピアノ伴奏による歌曲集としているのです。
もともとこの劇、13世紀頃のイギリスの宗教劇「Everyman」を下敷きにしているので、キリスト教の素養がないとなんだか訳が分からないというのもあるのかも知れませんし、その筋書き自体も日本人における「水戸黄門」のように予定調和的な展開をするので、そういうお約束のコードを共有していないと全然楽しめないということもあるかも知れません。
硬派の作曲家、フランク・マルタンの音楽も決して聴きやすいものとは申し難いところもありますが、しかしこの重厚な響きのこの音楽、聴き込めば聴き込むほどに味わいが増して参ります。

( 2021.02.07 藤井宏行 )